夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『あしたの少女』

2023年08月30日 | 映画(あ行)
『あしたの少女』(英題:Next Sohee)
監督:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ,キム・シウン,チョン・フェリン,カン・ヒョンオ,パク・ウヨン,
   パク・ヒウン,キム・ヨンジュン,シム・ヒソプ,ユン・カイ他
 
動楽亭へ落語を聴きに行く前に、何か映画を1本は観ておこうと調べたら、
公開されたばかりの本作が重そうだけど面白そう。シネマート心斎橋にて。
 
監督はチョン・ジュリで本作が長編2作目。
1作目の『私の少女』(2014)はイ・チャンドン監督がプロデューサーを務めたことで話題になりましたが、
私はこれまで観る機会なし。虐待をテーマにした作品で、あらすじを読むだけでつらくて避けていました。
本作はそれに比べればしんどさがマシかと思ったのですけれど、相当キツイ。
 
2017年に韓国の全州(チョンジュ)市で実際に起きた事件に基づいているそうです。
 
キム・ソヒはダンスが大好きな明るい女子高生。
就職の現場実習先として教師から紹介されたのは、大手通信会社のコールセンター
両親も一人娘が大企業に就職できるとあって大喜び。
 
しかし、いざ勤務が始まってみると、どうも思い描いていたものと違う。
顧客を助けるのがコールセンターの仕事だと思っていたのに、
解約を希望する顧客をなんとか引き留めるのが業務らしく、
解約を阻止するためのマニュアルを参照してあの手この手を繰り出す。
もしも失敗すれば、チーム長からこっぴどく叱られる。
 
それでも少しは優しさを見せてくれていたチーム長が車の中で練炭自殺。
チーム長は労働環境の改善を本社に訴え、それを遺書に記していたにもかかわらず、
本社はこの自殺が業務に関係なしとして隠蔽を図り……。
 
オーディションで選ばれたというキム・シウン演じるキム・ソヒが前半の主役。
あんなにも快活だったソヒが、どんどん元気をなくしてゆく姿に胸が痛みます。
成果を挙げる=顧客の解約を阻止すること。
変な話だと思いつつも、成果給がもらえると聞いてソヒは頑張ろうとします。
そして成果を挙げてみせたのに、実習生にはすぐには支給しないと言われる。
基本給すら事前に提示されていたものと異なるのに、何を目標にしろというのか。
 
顧客の希望に寄り添うのが仕事ではないのですか。
ソヒは黙り込むことなく上司に食ってかかりますが、すると今度は問題児扱いされる。
彼女を実習に送り出した学校では就業率がすべてだから、
実習先で生徒たちがどんな扱いを受けているのか聴くこともなく、頑張れの一点張り。
 
そして前半の最後には、ソヒが自殺してしまうのです。
 
後半の主人公はペ・ドゥナ演じる刑事オ・ユジン。
トラブルメーカーだった実習生の自殺で片付けられそうになっていた件を不審に思い、
彼女の両親、友だち、勤務先、彼女が立ち寄った店などで聞き込みを始めます。
そのたびに明らかになる、社会の理不尽で歪んだシステム。
 
それぞれに事情があることはわかる。
客を逃すまいとして電話をたらい回しにし、解約を引き延ばそうとする会社。
センター同士が競わされているから必死です。
学校も就業率を上げなければつぶされてしまうかもしれず、
ブラック企業かどうか確かめることは二の次どころか、しない。
行政は行政で、他所の庁とこれまた競わされています。何もかもが競争。
 
運動会で何等賞か決めないことは疑問に思いますが、
大人の社会でこんなふうにすべてが順位づけられ、子どもを良いように利用する世の中はおかしい。
仕事は楽しいことばかりでなかったとしても、まともに給料が支払われず、
社会に出ることを夢みていた少年少女が潰れてゆくのは悲しすぎる。
 
ガラス戸の隙間から差し込む夕日が美しすぎて、余計に悲しかった。
こんなことが繰り返されないように祈るばかりです。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『MEG ザ・モンスターズ2』 | トップ | 『春に散る』 »

映画(あ行)」カテゴリの最新記事