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映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『紙の月』

2014年11月21日 | 映画(か行)
『紙の月』
監督:吉田大八
出演:宮沢りえ,池松壮亮,大島優子,小林聡美,田辺誠一,近藤芳正,
   石橋蓮司,平祐奈,伊勢志摩,佐々木勝彦,天光眞弓,中原ひとみ他

仕事帰りに1本だけ、109シネマズ箕面にて。

私は女性作家よりも男性作家のほうが好きなようだとたびたび言ってきました。
今もその思いは変わらないのですが、
最近は女性作家の著作でも琴線に触れるものが多くあります。
角田光代は『対岸の彼女』を読んで以来のお気に入り。
どれもこれもハッピーエンドとは行かない物語、心がざわざわするけれど不快ではない。
どうあっても生きていくしかない女性の姿を切なくもしたたかに感じます。

原作を読んだのは1カ月半ほど前。
その頃からしばしば目にしていた予告編では、原作との違いがわかりませんでしたが、
映画オリジナルの構成や登場人物がかなりおもしろい。
『桐島、部活やめるってよ』(2012)の吉田大八監督、もっとお若い方だと思っていたのですが、
年齢を調べてみたら私と同年代だと判明。
作家も同年代の人に共感してしまうのと同様に、この監督にも共感できます。

わかば銀行に勤める梅澤梨花(宮沢りえ)は、
エリート会社員の夫・正文(田辺誠一)と郊外の一戸建てに二人暮らし。
ずっとパート社員だったが、契約社員として外回りを任されるように。
顧客からのウケも良く、次々と大口の契約を取って、
上司の井上佑司(近藤芳正)から高く評価されている。
しかし、家庭では正文との会話に空しさを感じはじめていた。

そんなある日、顧客の平林孝三(石橋蓮司)を訪問したさいに、
彼の孫で大学生の光太(池松壮亮)と出会う。
後日、駅ですれちがった光太から声をかけられ、気持ちが浮き立つ。
それ以来、光太と逢瀬を重ねるようになる梨花。

これまではあり得なかったことなのに、高額化粧品が気になる。
外回りの途中にふと足を止めた化粧品売場で購入を決めるが、
持ち合わせが足りないことに気づき、顧客から預かった金に手を付けてしまう。
ATMでお金を下ろしたらすぐに戻すのだから大丈夫。
そう自分に言い聞かせる梨花だったが、どんどん歯止めが利かなくなり……。

原作は、梨花に関わりのあった人物が彼女について語るという構成で、
『白ゆき姫殺人事件』にも似た進み方(『紙の月』のほうが発行年は先)。
映画はその手法は採らず、彼女が横領に手を染めてゆく様子が順序正しく描かれています。

原作を読んでいると膨らむイメージいろいろ。
結婚前はカード会社にいて、その経験を生かして銀行に職を得た梨花。
優しく理解ある夫に見えるけれど、妻にたいした仕事なんてできないと思っている。
妻の仕事はあくまで主婦のひまつぶし、家計を支えているのは俺。
そんな態度に梨花の胸にふつふつとわき上がる、釈然としない思い。
こういった点は、宮沢りえの演技からも十分に推し量ることができます。

最初は原作のほうがおもしろいかもと思って観ていたのですが、
原作にはほとんど出てこなかった銀行業務のあれこれや、
映画オリジナルの登場人物がおもしろくてたまりません。

イマドキの女子で同僚の相川恵子役を演じる大島優子
彼女の「使わないお金なんて、ちょっと借りても、
お客さん意外と気づかないと思うんですよね」という台詞も映画オリジナルで、
まるで原作にあったかのようにハマっています。

圧巻はなんと言っても勤続20年を超える先輩社員の隅より子役を演じた小林聡美
彼女と宮沢りえとの対峙シーンは、“半沢直樹”堺雅人香川照之のそれ以上かも(笑)。

音楽もツボを得ていて、いい具合に重みのあるエンターテインメント作品でした。

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