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『セメントの記憶』

2019年05月08日 | 映画(さ行)
『セメントの記憶』(原題:Taste of Cement)
監督:ジアード・クルスーム
 
連日の飲み会にそろそろ疲れが出てきた頃。
にもかかわらずこの日も晩に食事の約束があり、その前に2本(だけ)観るつもりでした。
ところがボーッとくつろいでいた朝、
飲み友だちの姉さんによる、本作が衝撃的だったというSNSの書き込み発見。
えーっ、スルーするつもりだったけど、そんなに凄いんですか。
時計を見ると、間に合いそうな時間。
ほな腰を上げて行ってみますかと、第七藝術劇場へ。
 
ドイツ/レバノン/シリア/アラブ首長国連邦/カタール作品。
ドイツの作品はまぁまぁあるとして、
それ以外に並ぶ国名を見るだけで、軽く観てはいけない空気がすでに流れています。
 
レバノンの首都ベイルート。長い内戦の爪痕が残る街。
復興が進むこの街は、超高層ビルの建設ラッシュ。
その建設現場を支える労働力となっているのは、
今も内戦が繰り広げられているシリアからの移民や難民。
ジアード・クルスーム監督は元シリア軍の兵士で、のちにレバノンへ亡命した人。
 
内戦の続く国では、建設中のビルが空爆に遭ってたちまち崩れ落ちる。
監督の父親はそんな国で建設に携わり、ビルが完成すれば内戦のない国に移動。
そしてそのビルが崩れると、また建設に向かうという生活を送っていたそうです。
 
邦題は「セメントの記憶」ですが、原題は「セメントの味」。
崩れたビルに埋もれ、救出されるのを待つ者が知るセメントの味。
私たちには決して想像できない味だけれども、
それが暗闇の中で口いっぱいに広がることを想像するだけで苦しい。
 
異国へ労働に来て、淡々とこなす仕事。
談笑など聞こえない。壁に響くのは工事の音だけ。
静かな作品かと思いきや、終盤に轟き渡る空爆の音と空に広がる白煙。
 
この衝撃は『草原の実験』(2014)以来。
同じ世界で、なぜこのようなことが今も続いているのか。
言葉を失って、ただただ呆然、そんな感じ。

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