夜な夜なシネマ

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『バス174』

2006年02月04日 | 映画(は行)
『バス174』(原題:Ônibus 174)
監督:ジョゼ・パヂーリャ,フェリッピ・ラセルダ

もう1本、ドキュメンタリーを。
これを観たらブラジルには行く気になれません。

2000年、リオデジャネイロ。
白昼、都会のど真ん中で起きたバスジャック事件。
テレビで生中継されたその様子に
ブラジル全土が釘付けになったと言われています。

犯人は21歳の青年サンドロ・ド・ナシメント。
バス内で強盗を試みたものの、警察が駆けつけそうだと知った彼は
ほかの乗客を巻き込んで籠城。
本作はそのときの生々しい映像と、生き残った人質たち、SWATの隊員、
サンドロを知る人びとへのインタビューで構成されます。

事件の背景は複雑で、引いてしまう話ばかり。
サンドロは10歳のときに目の前で母を強盗に殺害され、
それ以降、盗みをくり返して生計を立てます。

14歳のとき、路上生活者=ストリートチャイルドに。
カンデラリア教会の前に寝場所を確保し、
数十名の仲間たちと過ごす日々。
温かいスープを運んでくれるソーシャルワーカーがいる一方、
彼らが寝るのを見計らって襲撃に来る集団も。

ある夜、警官が彼らに向かって銃を乱射し、
何人ものストリートチルドレンが死に追いやられます。
悪名高き「カンデラリアの大虐殺」。
そのとき現場にいて、辛くも生き残ったのがサンドロでした。

何をしても罰せられることのない警官たち。
驚きだったのは、ブラジルでは「警官」とは
職に就けない人びとがなるものだということ。
訓練はまったく受けておらず、銃をぶっ放すことしか考えていない。

そんな警官がバスジャックに対応できるわけもなく、
誰もが何の規制も受けずにバスに近寄り放題。
そのおかげで、メディアがバスに密着して
一部始終を生中継することができたというのは皮肉。

『シティ・オブ・ゴッド』(2002)で脳天を直撃されたような衝撃を覚えましたが、
本作も貧困層のさらに下でうごめく、
「見えない子どもたち」の達観したような表情に
こちらはなんともいえない気分になります。
賄賂がまかりとおる刑務所では、金のない者は刑期を終えても釈放されず、
3人部屋に10人以上が押し込まれているという事実にも。

本作に限らず、映画でしばしば目にする貧困にあえぐ中南米の社会。
でもボールを蹴ってるんですよ、必ず。
彼らの心がサッカーを強くするのか、
サッカーがあるから彼らは強くいられるのか。
私の長年の疑問です。

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