『だってしょうがないじゃない』
監督:坪田義史
“仮設の映画館”で『グリーン・ライ エコの嘘』を観て、次に選んだのがこれ。
本作もまた、第七藝術劇場で予告編を観たときに気になっていました。
“仮設の映画館”の上映作品はドキュメンタリーが多く、
この劇場休業期間中はドキュメンタリーを観る機会が増えそうです。
坪田義史監督の再従兄弟(はとこ)・まことさんは61歳。
広汎性発達障害を持ち、障害者年金を受給しながら独居しています。
ずっと母親とふたりで暮らしていましたが、
その母親がまことさんを遺して他界、以来7年間この生活。
母親の妹に当たる叔母さんがまことさんの後見人。
叔母さんは母親と行き来があったにもかかわらず、
母親の存命時にまことさんの状態を聞いたことはありませんでした。
亡くなって初めてまことさんの障害のことを知り、
役所に書類を提出するなど、まことさんがひとりで暮らせる環境を整えました。
彼の生活を支援する相談員が定期的にやってきたり、
傾聴ボランティアの女性がまことさんの話を聴きに訪ねたりもします。
坪田監督は既婚で子どももいますが、体調不良で精神科を受診したところ、
自身が注意欠如多動性障害(ADHD)と診断されました。
奥さんに話してもなんだかよくわかってくれない。
そんなこともあって、3年間に渡ってまことさんの日常に密着、
発達障害についてありのままをフィルムに収めたという作品です。
私の幼少期には、発達障害などという言葉はありませんでした。
極端に落ち着きないやっちゃなぁという子が同学年を見渡せば1人や2人、
いや、もしかするともっといたかもしれません。
今になって思えば、「普通」とはいえない落ち着きのなさは、
発達障害というべきものだったのだろうと思います。
基本的に自分でこなせて、家事もすれば、衣服の着脱や入浴も問題なし。
ある程度の場所まで公共交通機関を使って行くこともできるし、
人との対話も一見スムーズ。しかし、さまざまなところにこだわりがある。
本作を見れば、いままで知らなかった発達障害のことが少しは理解できた気がします。
まことさんは常にいろいろ考えている。
手に持っていたビニール袋を空に飛ばしてしまったとき、
隣家から「ゴミを撒き散らしている」という苦情が。
「やってはいけないことだとわかっているんだけれど、
ふわふわと飛んで行くのがいいなと思った」。
その気持ちを抑えるためにはどうすればいいか。
「ゴミを飛ばしてはいけないとここに書いて」と監督に頼み、
玄関の扉にそれを貼り付けるんですねぇ。
コンビニで買ったエロ本(パンツと太ももが写っている写真集でたいしたことはない(笑))を
叔母さんの目につかないところにと思って、戸棚に隠したらバレてしまった。
案の定、叔母さんから怒られて意気消沈。
それを監督と監督の父親に話したら、「男として健康なことだよ」と言われてホッ。
でも、だからって女子高生に触ったりすれば犯罪だということもわかっています。
自分が叔母さんに面倒をみてもらっていること、わがままを言っていること、
何かあれば叔母さんや監督に迷惑がかかることもわかっている。
あちこちで人に対して見せる気遣いに、
この人が安心して生きていける世の中になれば願わずにはいられません。
バリアフリーの字幕を見たとき、
まことさんのつっかえる言葉がそのまま字幕になっていて、
ここまで字幕にしなくてもいいのにと思いました。
でも、それこそが私の差別意識なのではないかとハタと気づく。
だって、まことさんのしゃべることを字幕にしているのだから、
つっかえたところはつっかえたままを字幕にするのが当然。
なのに、その字幕に嫌悪感を抱いた私こそ、どうかしている。
監督のまなざしが優しく温かい。説教臭さも皆無。
再従兄弟だと思っていたら実は従兄弟違いだったという監督の言葉に、
「違いが違うだけで、いとこには変わりない。
どっちでもいいでしょ」というまことさん。そのとおりです(笑)。
コロナ禍でまことさんはどうしているでしょうか。それがとても気にかかる。