
今の日本を見ていると、日本が長期不況に陥るのは当然とも思える。
まず、第一に、労働。
かつては団塊の世代が日本の活力の源だった。都会に出て若い労働力として働き、家を建てる。それが日本の有効需要を引き上げた。また、家を建てれば、新居に新しい家具、家電製品、車なども必要になる。それが消費需要を呼び、企業の投資需要を生んだ。
しかし、今はどうか。日本は本格的な人口減少社会に突入した。家は、親の住んでいるのをもらえばいい。家具も、家電製品も、もう充分にある。衣類などは、タンスに入りきらないくらい持っている。改めて買うものなどほとんどない。
しかも、高度成長を支えた団塊の世代は、現役から引退し、老後のお金をため込むことに一所懸命で、お金を使わない。また、若者は欲しいものはいっぱいあっても、若者の半分が非正規雇用という状況では、買いたくても買うお金がない。年寄りはお金を使わない。若い人はお金がないから買えない。これでは消費は伸びるはずもない。消費が伸びなければ、企業の設備投資も増えない。
おまけにグローバル化で、日本人労働者の賃金は世界の低い賃金と比較され、切り下げられていく。また、企業も日本国内で投資をしないで、賃金の安い海外に工場を建設するようになる。その結果、日本国内の有効需要はますます低迷する。
第二に資本。
ここでいう資本とは「お金」ではなく、社会的なインフラや工場設備などである。高度成長のころは、高速道路(たとえば東名高速道路)を作れば日本全体への波及力が大きく、日本の産業が活性化された。しかし、今は高速道路を作っても、車がほとんど通らず、タヌキやキツネに注意という看板が目に付く田舎道ばかりである。これでは、高速道路を作ることにより工事関連業者は儲かるが、日本全体を活性化させる力はない。むしろ、維持管理費の面でかえって足を引っ張ることになる。
第三に、以上のことに追い打ちをかけているのが「技術」の問題である。
戦後、日本はパテント料を払ってアメリカの高度な技術を取り入れることができた。ところが、日本がフロントランナーになった今日、世界から学ぶべき新技術はほとんどない。自分独自で開発しなければならない時代になっている。
最近のソニーや、東芝、パナソニックを見ていると、ものづくり大国日本の面影はない(かろうじてその面目を保っているのは自動車業界くらいのものか)。技術レベルの低下を招いているのは、企業の経営方針だけではない。その根本にある人材育成、すなわち教育方法にも問題がある。高校教育現場の第一線に立つ人間として、ぜひ言っておきたいことがある。それは、センター試験という試験制度についてである。
共通一次試験が始まったのが1979年。1961年以降生まれの人は、みなこの制度のもとで大学受験を経験してきた。その後、1990年からはセンター試験とよばれるようになったが、マークシートで解答するという試験形式の本質は変わってはいない。
国語もマークシート、英語もマークシート、数学や物理もマークシート。大体、国語力をマークシートで測ることができるのか。文章を書く力が全く身についていないのは、そうしたマークシート対策ばかりやっているせいではないのか。
英語のマークシートもしかりである。数学にしても事情は変わらない。自分で考えて証明するのではなく、証明プロセスを相手の思考に合わせて、それに合った形で空欄に正解を書いていく必要がある。こんなことではオリジナリティは生まれようがない。
こんな教育方法は日本を滅ぼすと思って、私は20年以上前から共通一次試験(センター試験)の廃止を訴えてきた。マークシート方式の試験が実施されてすでに34年。共通一次1期生は、いま52歳だ。設問①~④の中に正解が準備されている試験ばかり受けさせられたのでは、独創力が身につかないのは当然である。
大学入試問題は、難問奇問大いに出すべし。金太郎あめのように、どこを切っても同じような人材ばかりを育成していては、日本の未来はない。まして、センター試験というたった一つ尺度で日本国民を序列化し、それがあたかも人間の「価値」をはかる強力な物差しとして後々尾を引くようでは、百害あって一利なしというべきであろう。
確かにセンター試験の問題はよく練られている。高校現場としては、教科書をきちんとやっておれば文句を言われないのだから、センター試験が高校教育に果たした役割は一定程度理解できる。しかし、光あれば影あり。今は、その弊害のほうが大きくなっている。
日本経済を立ち直らせるには、資本、労働、技術の3つの要素のうち、技術しかあり得ない。その根本にあるのが教育である。そして、誤解を恐れずにあえて言えば、大学入試センターを廃止することこそ、日本再生の第一歩だと思うのだが、いかがであろうか。
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