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南英世の 「くろねこ日記」

ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか

題名にひかれて読んでみた。実に面白い。国によって「文化」が違うということを理解しているつもりであったが、文化とは小説や芸術ばかりを言うのではない。スポーツも立派な文化であることをこの本で教えられた。以下、概略を紹介する。

この本を理解するために、まずドイツの歴史を簡単に振り返っておく。ドイツは9世紀に神聖ローマ帝国が設立された。これは現在のフランス、イタリア、ドイツ等を一緒にしたものであった。神聖ローマ帝国の皇帝は形式的にはローマ教皇によって認証される。しかし、実際には有力な領主君主である選帝侯の選挙によって選ばれた。1648 年のウェストファリア条約で神聖ローマ帝国が崩壊したあとドイツは約300の領邦が主権国家となった。そして1871年になってようやく統一され、ドイツ帝国となった。

このような歴史を持つ国であるから、ドイツの地方分権は半端ではない。主権を連邦(Bund)と州(Land)とで分け合って持っており、国家が二つあるとも言える。現在ドイツには16の州があり、100万人以上の人口を持つ都市は次の4つしかない。あとはすべて100万人以下である。

 ベルリン  364万人
 ハンブルク 183万人
 ミュンヘン 146万人
 ケルン   100万人

ドイツの面積はほぼ日本と同じである。そこに8240万人が住んでいる。日本と大きく異なるのは、フォルクスワーゲン、BMW、バイエル(製薬)、シーメンス(電機)などのグローバル企業と呼ばれる大企業の本社が全国に散らばっていることである。人口2万4千人の町にアディダスやプーマの本社があったりする。

したがって各地の雇用吸収力が大変大きく、ドイツには「地方都市」という概念が存在しない。人口が10万人を超えると「大規模都市」という位置づけで、さまざまな文化施設が充実しているほか、合唱、歴史、射撃、ボランティア、スポーツクラブなどたくさんのNPOが存在し、コミュニティを形成している。

著者が住む人口11万人(大阪の阿倍野区とほぼ同じ人口)のエアランゲン市では、NPOが740あり、そのうちスポーツクラブはサッカー、テニス、射撃、体操、山岳登山、陸上、乗馬、空手、柔道など100を占める。ドイツのスポーツクラブは日本の会員制のフィットネスクラブとは全く異なる。NPO組織で、年齢も子どもからシニアまで様々な人が参加する。



学校は基本的に8時から13時までで、午前中で終了する。そして日本のクラブに相当する活動を地域のスポーツクラブで行う。ちなみに、ドイツでは受験というものが基本的に存在しない。大学入学資格(アビトゥア)を取得するとドイツ国内のどの大学・学部でも入学できる(医学部を除く)。価値があるのはアビトゥアという資格であって、大学名ではないのだ。

 また、働き盛りの人もスポーツクラブに多く参加している。ドイツの年間労働時間は1356時間と日本の1710時間より350時間も短い。しかも、職住近接である。ドイツでは労働者の70%以上が通勤時間は30分足らずで、4分の1は10分未満である。近年、スポーツクラブの加入者はますます増加している。



スポーツクラブの性格は日本とは大きく異なる。クラブは「同好の士」の集まりで、その目的は余暇、楽しみ、気晴らし、健康、体力の維持、コミュニケーションである。その様子は楽しげでリラックスしており、日本のように試合に勝つために眉間にしわを寄せて練習している姿はない。勝利のための「戦士集団」ではないから、体罰もしごきも怒鳴り声もない。もし、そのスポーツクラブが自分に合わなければさっさとやめればいい。また、才能があれば「引き上げられる」。

また、スポーツクラブが難民との交流場所になっていることも注目される。2015年にはドイツに難民が200万人も押し寄せた。スポーツを通して長い時間共通体験をすると、精神的距離が縮まる効果があるという。

もちろん、ドイツのやり方をそのまま日本にコピーすることはできない。しかし、スポーツ文化に取り組む姿勢の違いは参考になる。日本では教員の過重労働が問題になっているが、教員の働き方改革を考えるうえでも参考になる。
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