南英世の 「くろねこ日記」

人間は平等なんか望んでいない





『暴力と不平等の人類史』(ウォルター・シャイデル著 東洋経済)を読んで、最近、やっと気づいたことがある。それは、人間は誰も平等なんか望んでいないということだ。その証拠に、たとえば貧しい人に次のような質問をしてみるとよい。

「もしあたなが生まれ変わってお金持ちになれるとしたら、お金持ちになりたいですか?」

たぶん、ほとんどの人が「お金持ちになりたい」と答えるに違いない。これは人間が平等を望んでいない決定的証拠といえる。かつて、イギリスの政治学者T.ホッブズは「人間は優越感以外の何物をも楽しむことはできない」と述べた。この言葉は、人間の本質を言い当てている。

動物の世界では、平等なんてことをいっていてはすぐに種が滅亡してしまう。たとえばライオンの場合、一番強いオスがメスを独占しハーレムを作る。オスは普段は寝てばかりで何もしない。しかし、交尾の時期になれば、飲まず食わずで1日に50回もすることもあるという。(・・・ライオンに生まれなくてよかった 笑)。

人間に比較的近いとされるゴリラも同じである。メスのハーレムを持つ少数の支配者と、配偶者を全くもてないその他大勢に分かれる。序列はメスの支配権だけではない。食料へのアクセスも序列によって決まる。

人間のヒエラルキーを説明するのに、ゴリラやチンパンジーの行動が引き合いに出されることが多い。もちろん、人間は動物とは違うという意見もあるかもしれない。しかし、人間も動物でありその本質は変わらないような気もする。

人間はやがて農業を開始し、余剰生産物を蓄えることを覚えた。そうして、国家が誕生し、国家は不平等を増幅させるシステムとして機能するようになった。政治権力への接近は、富を得るための手段となった。ひとたび政治権力を握ると、それが子から孫へと受け継がれ、世界各国で「王朝」が形成された。

しかし、貧富の差が拡大することには限界がある。ある点まで不平等が拡大すると、人々の不満が爆発し不平等を是正しようとする力が働く。

中国の王朝末期の農民反乱がその代表例である。ただし、平等化を求める動きはそれが成功したためしはない。たとえば、明朝末期に起きた李自成の乱は、土地所有の平等化と租税の撤廃というスローガンを掲げたので各地で絶大な支持を受けた。しかし、何一つ実現することなく満州族に大敗した。その200年後に起きた洪秀全による太平天国の乱も同じだった。

平等化が失敗に終わったという点ではフランス革命も同じである。アンシャン・レジーム下のフランスのジニ係数は約0.6と貧富の差の限界に達していた。革命によってある程度の不平等は是正されたが、変化は微々たるものだった。

ロシア革命も同じである。社会主義国家が誕生し、資本主義が生み出す不平等を徹底的に追放し、平等を求める政策がとられた。しかし、ソ連は1世紀も続かずあえなく崩壊してしまった。

結局、不平等が限界に達するとそれを是正する力が働くものの、すべての平等政策は失敗に帰する。これが歴史の教えるところである。これは人間の本質を「不平等を求めている存在」と理解しない限り説明がつかない。

現在、多くの国で不平等を是正するために累進課税や社会保障政策が導入されている。しかし、多くの人はなぜ累進課税制度が導入されたのかを理解していない。次のグラフをご覧いただきたい。


(T,ピケティ『21世紀の資本』

所得税に累進課税制度が導入されたのは第一次世界大戦のときである。第一次世界大戦は総力戦ともいわれ、多くの兵士が命を落とした。国民が命を差し出している時、金持ちは戦争で金もうけをしている。金持ちはお金を出すことで国民の不満を解消しようとした。これが累進課税制度導入のきっかけである。

だから、第一次世界大戦が終わると税率は下げられ、第二次世界大戦がはじまると税率は再び引き上げられた。第二次世界大戦後、税率がすぐに引き下げられなかったのは、累進課税制度が福祉に利用する手段となったからである。

しかし、金持ちは本質的に不平等を願っている。金持ちが再び逆襲を始めたのは1980年代に入ってからである。新自由主義という妖怪が世界を跋扈するようになり、世界中で所得税や相続税の最高税率が再び引き下げられはじめた。日本の「1億総中流」は崩壊し、今や働く人の40%は非正規雇用である。不平等がどんどん拡大している。

今回(2019年)の参議院選挙で「れいわ新選組」が急速に国民の支持を獲得するようになった背景には、こうした歴史的流れがある。山本太郎は、現代における李自成であり、洪秀全なのかもしれない。
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