375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(2) 由紀さおり & ピンク・マルティーニ 『1969』

2013年01月13日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


由紀さおり & ピンク・マルティーニ 『1969
(2011年10月12日発売) TOCT-27098

収録曲 01.ブルー・ライト・ヨコハマ 02.真夜中のボサ・ノバ 03.さらば夏の日 04.パフ 05.いいじゃないの幸せならば 06.夕月 07.夜明けのスキャット 08.マシュ・ケ・ナダ 09.イズ・ザット・オール・ゼア・イズ? 10.私もあなたと泣いていい? 11.わすれたいのに 12.季節の足音


1969年といえば・・・早いもので、もう44年も昔になる。巷では高度成長時代と騒がれていたが、現実にはカラーテレビがようやく登場したばかりの時代。決して裕福ではなかった自宅のテレビは当然、まだ白黒だった。

ある日のこと、当時小学校6年生だった自分は、今は亡き父に連れられて後楽園球場(東京ドームの前身)に巨人vs大洋戦を見に行った。試合は劣勢の巨人が9回裏に猛反撃し、1点差まで追い上げるという白熱した内容だった。現役時代の王、長嶋のプレーに接することのできた貴重な思い出・・・と言いたいところだが、スーパースターだったはずの彼らの姿はなぜかおぼろげな印象しか残っていない。それよりも未だに忘れられないのは、むしろ試合が始まる前、選手たちがグラウンドに登場するまでの待ち時間に、球場に流れていた歌声だった。

「るーるるるるー」で始まるその透き通った歌声は、夜空を照らすスタジアムの灯りの中で、次第に神秘な輝きを増していった。

今まで聴いたことのないような不思議な曲だった。何を言っているのかわからないような歌詞だったが、メロディは異常なほど美しく聴こえた。もちろんまだ子供だったので、そんなに多くの歌謡曲を聴き込んでいるわけではなかったが、それでもその曲の新鮮さは十分に感じ取ることができたのである。

由紀さおりの「夜明けのスキャット」。1969年の年間売り上げランキングで第1位を記録。
しかしこの年のレコード大賞はこの曲ではなく、年末近くになって現われた別の曲だった。

1969年の暮れ、岩手県盛岡市に住む母方の祖母が危篤になったという報を受けて、家族そろって夜行列車で盛岡へ向かった。当時は東北新幹線などという便利な超特急列車はなかったので、田舎へ里帰りするには寝台列車で10時間以上揺られなければならなかった。今の感覚でいえばニューヨークから日本に帰国するようなものである。

盛岡に到着すると祖母はすでに亡くなっていたため、さっそく葬式が執り行われた。葬式というものを体験したのはこれが初めてだったこともあって、子供心には珍しいイベントを楽しむことができたし、それ以上に普段なかなか会うことのできない従兄弟たちと交流することができたのは何よりも楽しい思い出となった。その従兄弟の一人が、テレビのプロレス中継(ジャイアント馬場vs鉄の爪エリック戦)を見ている時だったか、何かのゲームをやっている時だったか、よく覚えていないのだが、何気なく「現代風な感覚の新曲」を口ずさんでいるのを聞き逃さなかった。それがまさしく、数日後の大晦日でレコード大賞を受賞することになる佐良直美の「いいじゃないの幸せならば」だったのである。

「夜明けのスキャット」 にしろ「いいじゃないの幸せならば」にしろ、さらには、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」にしろ、リアルタイムで出合った名曲は、その時その時の人生の一場面と密接にリンクしている。そういう意味では、それらの流行歌は思い出を呼び起こす貴重なタイム・カプセルの役割りを果たしているともいえるだろう。

2011年に発売され、世界中で記録的な大ヒットとなった『1969』は、その名の通り1969年、あるいはその前後の期間にヒットした内外の流行歌を集めたカバー・アルバムで、由紀さおり&ピンク・マルティーニという異色のコラボレーションが大きな話題となった。上にあげた3つのヒット曲はもちろんのこと、同じようにリアルタイムでよく耳にした黛ジュンの「夕月」 や、ヒデとロザンナの「真夜中のボサ・ノバ」といった往年の名曲が、新鮮なアレンジで現代に蘇ったのは画期的な出来事であるといえる。

それら日本の歌謡曲にも増して素晴らしいのが、当時流行の洋楽ナンバーとして加えられた名曲の数々。個人的な思い入れとしては、やはりピーター、ポール&メアリーのヒット曲『Puff, the Magic Dragon』の楽しくも哀しいファンタジーの世界が忘れられないのだが、何といっても極めつけは往年の大歌手ペギー・リーが歌っていた『Is that all there is?』。これはあらゆる人生の修羅場を「そんなもんよ」と言い捨てながら諦観の境地に達していくヒロインの心境をつづった歌芝居で、並みの表現力ではとうてい太刀打ちできない難曲なのだが、由紀さおりはそれを情感たっぷりに、大女優の風格を感じさせるようなゆとりのある境地で歌い上げている。これを聴くと、つくづくすごい歌手に成長したものだな・・・と思ってしまう。

優れた選曲とアレンジ、優れた歌唱力、 そして優れた録音の3拍子がそろった名盤。
評判通り、いつまでも手元に置いておきたいと思わせるアルバムである。

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