375's MUSIC BOX/魅惑のひとときを求めて

想い出の歌謡曲と国内・海外のPOPS、そしてJAZZ・クラシックに至るまで、未来へ伝えたい名盤を紹介していきます。

●歌姫たちの名盤(23) 岩崎宏美&チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-』

2013年12月09日 | 歌姫① JAZZ・AOR・各種コラボ系


岩崎宏美&チェコフィルハーモニー管弦楽団 『PRAHA -Deluxe Edition-
(2007年9月26日発売) TECI-1161

収録曲 01.聖母たちのララバイ 02.シアワセノカケラ 03.思秋期 04.夢やぶれて I DREAMED A DREAM ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より~ 05.手紙 06.ロマンス 07.好きにならずにいられない 08.シンデレラ・ハネムーン 09.万華鏡 10.すみれ色の涙 11.ただ・愛のためにだけ 12.つばさ ~Dedicated to 本田美奈子.~

[DVD] 01.
聖母たちのララバイ』 ビデオクリップ 02.ドキュメンタリー・イン・プラハ -岩崎宏美ナレーション入り- 03.フォト・ギャラリー


歌謡曲とクラシック音楽。この2つのジャンルは、一見何の接点もなさそうに思える。日常的に歌謡曲を聴いたり歌ったりする人たちの中で、クラシック音楽にも造詣が深いといえる人は多くないし、コンサートに出かけても、両者の客層には明らかな違いがある。歌謡曲ファンから見ればクラシック音楽は敷居が高いように感じられるし、逆にクラシック音楽ファンから見れば歌謡曲はあまりに俗っぽいという感覚がある。それは、両方の立場を経験している筆者自身が率直に思い返すことのできる事実である。

でも、よくよく吟味してみると、歌謡曲とクラシック音楽の距離は、そんなに遠いものではないのである。俗っぽいと思われている歌謡曲の中にも格調の高い内容を歌ったものがあるし、格調が高いイメージのあるクラシック音楽も、実は意外に俗っぽい感情をモチーフにしているものが多いのだ。

クラシック音楽に近い歌謡曲・・・といえば、筆者が真っ先に思い浮かべる楽曲に、今は亡き本田美奈子が1994年に発表した「つばさ」がある。この「つばさ」を作詞した岩谷時子さんも、つい先日、天寿を全うして旅立たれてしまったが、この曲の歌詞には通常の歌謡曲に見られるような俗っぽい言葉やフレーズは一切出てこない。ここに歌われているのは、夢、希望、自由、勇気、未来、そして遥かな大空に向けての飛翔という、ベートーヴェンの第九交響曲もかくやと思われるほど格調の高いメッセージなのである。

あまりにも純粋な歌詞であるせいか、一般的な浸透度はそれほど高くないのだが、真に音楽を愛する人たちにとっては「究極の歌謡曲」ともいうべき次元に到達した数少ない一曲として、忘れることのできない地位を勝ち得ているのである。そういう意味では、歌謡曲とクラシック音楽は決してかけ離れたジャンルではないのだ。

その「つばさ」を最後の12曲目に置き、それに先立つ11曲のセルフカバーをオーケストラの伴奏で歌い、1枚のアルバムとして発表したのが、生前の本田美奈子と親しい間柄にあった岩崎宏美の『PRAHA』である。

岩崎宏美は筆者と同年生まれなので、デビュー当時から学友のような感覚がある。そして出てきた時から、同世代の歌謡曲歌手とは別次元の歌唱力を持っていた。声量が全然違うし、高音がとてつもなく伸びる。マイクなしでも十分会場の隅々にまで声が届くのではなかろうか、と思われた。芥川也寸志や山本直純といったクラシック音楽の関係者が高く評価したのもうなずける。

それだけの声量と歌唱力を持った彼女なので、プロのオーケストラと共演してもまったく聴き劣りすることがない。 ちなみに共演するオーケストラはクラシック音楽ファンにはお馴染みのチェコ・フィルハーモニー管弦楽団。ドヴォルザークやスメタナなどの東欧系はもちろんのこと、ドイツ・オーストリア系のレパートリーも得意とする。1908年にマーラーの交響曲第7番を作曲者自身の指揮で初演したのもこの楽団であるし、個人的には1960~70年代にマタチッチの指揮で録音したブルックナーの交響曲(特に第5、第7番)が屈指の名演として忘れられない。

さて、このアルバムの1曲目は、岩崎宏美の代表的ナンバー「聖母たちのララバイ」で幕をあける。いきなり60人規模のフル・オーケストラが咆哮! もともと曲自体がシンフォニックでスケールが大きいので、それこそドイツ・オーストリア系の大交響曲を聴いているような充実感がある。岩崎宏美の声量十分な伸びのある歌声も健在。響きのいいドヴォルザーク・ホールでの録音も功を奏し、稀に見る名演となった。

4曲目に収録されたミュージカル「レ・ミゼラブル」からのナンバー、「夢やぶれて」もフル・オーケストラが全開。ここでは岩崎宏美のミュージカル女優ならではの表現力によって、実にドラマチックで感動的なシーンが繰り広げられる。本田美奈子もそうだったが、岩崎宏美もミュージカルに進出してから格段に実力を上げた1人だ。一般的な印象ではヒット曲を連発していた1970年代後半から1980年代前半くらいまでが全盛期のように思われがちだが、それ以降もシンガーとしては成長を続けているのである。

「シアワセノカケラ」、「手紙」、「ただ・愛のためにだけ」の3曲はいずれも2004年以降に発表された比較的最近のオリジナルなので、昔のファンには馴染みが薄いかもしれないが、いずれもしみじみと語りかけるような趣きが印象に残る。

レコード大賞候補にもなった傑作「万華鏡」と「すみれ色の涙」は、小編成のオーケストラの演奏によって、本来持っていたメロディの素晴らしさが浮き彫りになった。こうして聴いてみると、1980年前後の昭和歌謡曲のレベルは、クラシック音楽に負けないほどの高みにまで達していたのではなかったか、とさえ思えてくる。

そして、アルバムのラストを飾るのはフル・オーケストラで演奏される「つばさ」。大空を越えて宇宙に届けとばかりに、万感の思いを込めた熱唱は、言葉では言い尽くすことのできない素晴らしさだ。もはやここには歌謡曲とクラシック音楽の境界線はなく、すべてのジャンルを超越した素晴らしい「音楽」が存在するのみである。

このアルバムが発売されたのは2007年9月。本田美奈子が天国に旅立ってから2年足らずのタイミングでもあり、当然ながら彼女へのメモリアルという意味合いもあったのだろう。「つばさ」のサブタイトルとして「~Dedicated to 本田美奈子.~」というフレーズが添えられている。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ジャンルを越えたひとつの素晴らしい音楽 (内之助)
2013-12-12 03:09:24
歌謡曲とクラシック音楽の両方に通じた375さんならではの素晴らしい文章、楽しませていただきました。
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クラシックと歌謡曲の架け橋。 (ミナコヴィッチ)
2013-12-12 23:53:31
内之助さん、ご無沙汰しております。
いつのまにかクラシックから歌謡曲シリーズになっておりますが、今後も両方のファンを満足させるような魅力的なディスクを発掘していきたいと思いますので、よろしくお付き合い下さい(笑)
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