言語空間+備忘録

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形式的な国債償還と、その目的

2010-04-22 | 日記
高橋洋一 『日本は財政危機ではない!』 ( p.107 )

 過去二度にわたり、吐き出した埋蔵金のうち、財務省は九・八兆円を「国債償還にあてる」と説明した。
 一般会計の借金を減らすために国債を買い戻すという方針自体は正しい。だが、財務省が実際やろうとしているのは、ごまかしと非難されても仕方のないやり方だった。
 国債償還によって、市中に出回る国債が少なくなれば金利が低くなり、景気対策としても効果がある。だが、財務省が国債償還にあてるといった埋蔵金九・八兆円のうち、市中の国債買い入れにあてたのはわずか三兆円だけである。
 では、残りの六・八兆円はどのように使われるのか。実は、日本銀行が保有する国債三・四兆円分と、財務省の財政融資資金が保有する国債三・四兆円分を買い入れるという。
 はっきりいって、これでは国債を償還したことにはならない。財務省はもちろん政府の一部だし、日銀も広義では政府のなかにあるからだ。財務省の隠しポケットにあった埋蔵金を同じ服についている、日銀というポケットと財務省のポケットに移し替えるに過ぎない。
 これでは市中の金利は下がらないし、国の負担が軽くなるわけでもない。こうした国債には、実質的な利払い負担はなく、償還を急ぐ必要のない国債だ。こんな欺瞞が行われていることすら、国民は知らないだろう。
 なぜ、このような詐欺師まがいのまねをするのか。財務省と日銀の間に密約でもあったのだろう。後で触れるように、日銀は国債の保有を過度に嫌う体質がある。
 もし、財務省の目がきちんと国民のほうに向いていれば、埋蔵金九・八兆円全額を市中の国債償還にあてたはずである。そうしていたなら、金利はもっと低下し、これほどまでに景気は落ち込んでいなかっただろう。しかし、そうはせず、日銀と財務省(財政融資資金)の国債を買い上げていたのだ。
 これは何を意味するか。財務省はいざというとき、再び六・八兆円分の国債を発行し、枠の空いた日銀・財務省(財政融資資金)が購入することを見越し、新たな財源にできるようにしたのかもしれない。いってみれば埋蔵金をこっそり埋め戻して、「いつでも使えるカネ」にしようとしたのである。

(中略)

 ちなみに財務省が、埋蔵金の処理法をごまかしたのは、このときが初めてではない。小泉政権下で初めて掘り出された埋蔵金二〇兆円は、その多くが国債償還に使われたものの、大半はこのときと同じく、政府内の国債を移し替えただけだった。二〇〇七年の埋蔵金九・八兆円についても、そんな見え透いた姑息なやり方はまさかとらないだろうと思っていたが、ふたを開けてみると、その三分の二を埋め戻していた。
 財務省は本当に懲りない集団である。


 財務省は、埋蔵金九・八兆円を「国債償還にあてる」と説明しておきながら、実際には、その大半を埋め戻している。財務省は、政府が保有する国債を償還しているにすぎない、と書かれています。



 政府が保有する国債を償還するというのは、要するに、「帳簿上の数字を動かしただけで、国の負担は軽くなっていない」ということにほかならないと思います。いわば、埋蔵金という「隠し金」が、償還によって「オモテのカネ」になった、というにすぎません。



 本気で国の借金を減らそうとしているならば、民間が保有している国債を償還するはずである。なぜならば、市中の国債には利払い負担が発生するが、政府保有の国債には、( 実質的な ) 利払い負担が発生しないからである。

 ( 著者の ) この主張は、たしかにその通りだと思います。財務省が財政再建を本気で考えていれば、全額、民間保有の国債を償還しただろうと思います。

 それでは、財務省は財政再建を重視していないのか、といえば、おそらくそうではないと思います。おそらく、財務省にとっては、( 財政再建も重要ではあるが ) もっと重要なものがある、ということではないかと考えられます。



 そもそも、政府が保有する国債は、実質的にみれば国の債務ではありません。とすれば、実際の国家債務は、もっと小さいはずである、と考えられます。

 もちろん、組織内部での貸し借りは、実務を円滑に遂行するうえで、やむを得ない部分があるとは思います。

 しかし、政府内部での貸し借りの清算を「国債の償還」と喧伝する行為は、「世間に向けてのポーズ」として「国債の償還」をアピールしているにすぎない、とみなければなりません。財務省にとっては、政府内部に資金 ( 現金 ) を残すことが、重要なのであろう、と推測されます。

 これは要するに、官僚が自由に使えるカネを、少しでも残しておきたい、裁量の余地を、少しでも残しておきたい ( 増やしたい ) 、ということではないかと思います。

 これを逆にみれば、政府内部での貸し借り ( 国債の保有 ) には、やむを得ない範囲を超えて、官僚の権限・裁量の余地を増やすために行われているものもあるのではないか、と考えられます。



 とすれば、官僚は、民間保有の国債を償還すれば利払い負担が小さくなるにもかかわらず、自分達の裁量の余地を大きくするために、( 実質的に ) 国債の償還をしようとしない、ということになります。



 なお、「いつでも使えるカネ」が、ほかの動機によって保有されている可能性もあります。上記は ( 私の ) 推測にすぎません。

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