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東京都、2016年オリンピック立候補都市へ (その1)

2006-08-31 23:52:09 | 柄にもなくスポーツ関係
          


 昨日行われた日本オリンピック委員会による第31回オリンピック夏季競技大会の国内立候補都市選定委員会で、東京都は福岡市を33票vs22票で制して2016年夏季オリンピック招致都市として名乗りを上げることになった。そこで、勝った東京都と敗れた福岡市についてそれぞれ@幕張的感想を書いてみようと思う。

最初は敗れた福岡市から。
だいたい、『オリンピック開催都市』という名前からも明らかなように、オリンピックを開催するのは市町村レベルの自治体であって州や県レベルの自治体ではない。
だから財政規模が小国の国家予算ほどもある特別自治体の東京都と福岡市とでは、例えるならF1のミヒャエル・シューマッハの駆るフェラーリと佐藤琢磨の駆るスーパーアグリ・ホンダがタイマン勝負をするに等しい実力差があるように思う。

ところが、圧倒的に不利だと思われた佐藤琢磨…じゃなかった、福岡市は意外にも強敵だった。
当初、まだ札幌市も立候補を噂されていた頃の福岡市は超広域開催を戦略としていた。それはコンパクトなオリンピックの開催を目指す最近のIOCの傾向とは別に、完全にオリンピックを町おこしの道具としか考えていないような計画で、福岡県内はおろか、隣の大分県や佐賀県にまで競技会場を設置しようという意見もあり、それはまさに『福岡オリンピック』じゃなくて『九州オリンピック』だった。
もっとも、そんな独りよがりな考えが通じるはずもなく、もしかしたら当時の東京や札幌に対するブラフだったのかもしれないけれど、蓋を開けてみれば福岡の開催計画はサッカー競技以外は非常にコンパクトなものに変更されていて、それは東京の計画をも凌駕する内容のものであった。

とはいうものの、福岡市の大会開催計画は東京都と同じく埋立地の再開発を中心に作られている。
@幕張が思うに、埋立地を造成している自治体には神戸の成功幻想に取りつかれているような気がしてならない。神戸市が埋立地として造成したポートピアアイランドは、「神戸ポートピアアイランド博覧会」という派手なイベントを成功させた後にホテルやショッピングモールなどの商業施設、マンションなどの居住施設を導入して、埋立地の開発として成功した先駆者である。大阪オリンピック招致の際にも、成功した神戸を手本に人工島「夢洲(ゆめしま)」をはじめとした埋立地の利用で、最初に埋立地の再開発ありきで五輪招致を始めたが、招致計画が水泡に帰すと埋立地の開発そのものが頓挫してしまった。
ところが東京都も福岡市も、この大阪の失敗に見て見ぬ振りをしているかのように埋立地や人工島の再開発を念頭にオリンピック開催計画を立案している。

だが、いかんせん今回は相手が悪すぎた。
東京都は約12兆4億円の予算を行使し、約13兆5千億円の負債を抱えている。対する福岡市は東京都の約10分の1にあたる約141万人の人口を抱え、約1兆8,800億円の予算に対して約2兆7千億円の負債を抱えている。「都市博覧会」の中止で開発が頓挫し、遊休地となっている有明埋立地をオリンピック会場に使用としている東京都と状況が似ているとはいえ、埋立地や人工島に巨額の開発費を必要とする福岡市は財政的にスーパーヘビー級の東京都よりも遥かに分が悪い。
しかも埋め立て地である人工島や須崎埠頭の再開発に過大な投資を行っているものの、その開発自体も行き詰まりを見せているような状況に見え、その打開策としてオリンピック招致に頼った部分があるようにも見受けられる。

また福岡市のオリンピック開催計画には荒唐無稽な夢物語も含まれている。
宿泊計画に織り込まれた“客船のホテル使用”、これは大阪五輪や名古屋五輪でも提案されたことでもあり、費用を度外視すればあながち無理なことではないのだが今回はその構想そのものがネックになっている。

今年6月に就航し、カリブ海を中心に航海しているカリビアンクルーズの世界最大の客船「Freedom of The Seas」は総トン数 約16万トン、3,634人の乗客を15層のデッキに収容し、その大きさは2004年にデビューして日本にも寄港したことがあるイギリス・キューナード社の「クイーンメリーⅡ」の乗客2,620名、総トン数 約15万トンを上回る。そのカリブ海で人気の船を博多港に曳航して客船ホテルとして係留しようというのだ。

     更に更に、驚いたことに福岡市は破天荒な超弩級客船の建造計画の利用まで目論んでいた。

               船の名前は 「プリンセス・カグヤ」

一瞬、その名前からプリンセス・テンコーが絡んでいるかと思ったが、どうやら彼女は関係ないらしい。 当たりまえか…
このプリンセスカグヤ、何がすごいって収容乗客数が8,400名で全長500m、総トン数は37万トンもある超巨大客船ってこと。

            500mといったら、銀座1丁目から銀座4丁目までの距離だ。

建造を計画しているのはその昔、バブル全盛期に岡山でTIサーキット英田を作ってF1レースを開催した人が責任者を務める新興企業。

日本の造船した最大の客船は三菱重工長崎造船所が建造した乗客2,670名、総トン数が約11万6千トンもあるイギリスP&O社所有の「ダイヤモンド・プリンセス」である。
そう、あの造船中の2002年10月にドックの中で火災を起こし、20時間も延焼した結果総面積の4割が焼け落ちた船で、隣のドッグで建造中だった双子の船「サファイア・プリンセス」と急遽船名を入れ替えて就航したいわくつきの船だ。

だから福岡市は10年後のオリンピック開催に向けて、実現性も満足に検討しないで現在就航中の世界最大の客船の2倍以上、日本で過去に造船された最大の客船の3倍以上もある巨大な船をオリンピックのために利用しようと目論んでいたことになる。しかもまだできあがったのは計画書だけで、一説には2,900億円といわれる建造費の調達も途上の海のものとも山のものとも分からない建造計画に乗っての話だ。造船技術としては住友重機が総トン数 約64万8千トンのタンカー「Knock Nevis」を建造しているので不可能ではないものの、恐らくは全長500mになる船体を係留する港が世界にいくつあるのか、そして約8,400名もの乗客の食事の用意、エンターテイメント、何より彼等の世話をする乗員や運航要員も最低でも2,000名以上は必要なはずであるから、その運航能力には大きな疑問がつかざるを得ないと思う。
現在の日本で就航している最大の客船は郵船クルーズの「飛鳥Ⅱ」。この720名の乗客を収容する船は総トン数が約5万トンなので、その7倍もの大きさの船をどのように運営するのか? 
最早、そんな構想自体が夢物語というか「寝言は寝て吐け!」 という世界じゃないだろうか。

@幕張は1991年冬にキューナード社の「クイーンエリザベスⅡ」に乗ったことがあるけれど、乗客1,791名を収容する総トン数約7万トンの客船でも十分過ぎるほどデカイ。
全長300mの船の中で迷子になりそうになったことも何度かあり、この船の乗客収容力より5倍以上も大きな客船など想像しただけでもゾッとする。
洋上での火災などへの対応は勿論、船内で事件が起こっても把握できないかもしれないし、下手をすれば通常の航海中に船内で遭難するかもしれない。

そんな荒唐無稽な計画段階の造船話までいかにも決定事項のように開催都市計画書に盛り込むなど、ただただホテル不足を埋めるためだけに考えた“やっつけ企画”としか思えないような宿泊計画は杜撰だ。IOCホテルとして高級ホテルを建築すると計画しているものの、現状ではこれ以上のホテルを建ててどうするのか?という気もする。

2003年春に福岡市で「第26回医学会総会」という学術会議があった。医学会総会は国内に400以上ある医学会の頂点に位置付けされる学会で、専門領域の学術発表の場である各学会と違って日本の医学界の学術面や実践面の重要課題を総合的に論ずる場が医学会総会である。そのため、医者の中でもお偉いさんが多数参加するこの学会は参加者が3万名を超え、当時の福岡市内の宿泊施設はほぼ満室状態であった。

3万人の宿泊でさえ、市内とその周辺のホテルは満室になったのであるから、オリンピックで1日当たり11万人以上と想定される宿泊客の収容はいくら新設ホテルを建設したところで無理だ。
かといって、約2万室ある現在の福岡市内のホテルの稼働率はイベントやコンベンション等のピーク時で約90%、平均するとおよそ67%であり、これは全国平均とほぼ同じ数字であるからして、大型の新設ホテルを誘致するとしても1990年の客室数から2倍に増えた現在の客室数を更に倍増にすることは困難だと考えられる。

まだ計画段階の途方もない巨大客船の建造計画を利用するとか、カリブ海で人気の客船を日本へ引っ張ってくるとか、まだ建設計画すら存在しない高級ホテルを利用をするとか、宿泊計画に関していえば@幕張的には「お前はもう、死んでいる!」「ヒデヴッ!」なのである。

そしてこの福岡市のオリンピック招致の野望にトドメを刺したのが、長野県某元知事の「ミズスマシ」発言に匹敵する「毒ガス」発言をして他立候補都市の中傷を行ってはならないとするJOCのタブーを破った山崎福岡市長の舌禍と、立候補都市選定委員会開催直前に起きた福岡市職員の飲酒追突事故による殺人事件(と敢えて書く)であったのは言うまでもない。



とりあえず、思いつくままにだらだらと書いてしまったので今日はここまで。
写真の東京都庁の立候補都市当選祝賀のライトアップは9月13日まで行われています。
このライトアップを見る穴場は京王プラザホテルの43階。ホテルの上層階はすべてバーレストランや宴会場で、それらを利用しない限りはこの風景を見ることができない場所なのだけれど、43階のエレベーターホールには一部が窓に面しているためにこんな風にライトアップを楽しめます。



  


*上の五輪マークをあしらった「TOKYO 2016」は@幕張がこのブログ用に適当に描いたものです。
  その他に何ら意図するものではないことをここに明記します。


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