それは10時30分きっかりに始まった、ほんの数十秒間の出来事だった。
善光寺の境内でカメラを構え、心待ちにしていたスカイ・ペインティングが始まった瞬間、おもわず「あっ、始まった」と叫んでしまった。幾重にも微妙に重なったかすかな爆音と共に、五つの飛行機の影から次々と白いスモークが空に放出されていく。
ところが、放出されたスモークは最初のうちこそ黒っぽい影をしていて良く見えたのに、すぐに背景の白い雲と同化してしまった。写真を撮ろうとデジカメのファインダーを覗いても、雲の模様とスモークの区別がつかない。結局、飛行機が最後の文字を吐き出した時には文字の半分以上が見えなくなっていた。
スモークを吐き出し終わった飛行機は@幕張の上空で反転すると、五つの小さな塊となって遠くに飛び去っていく。呆然と見送りながら思わず呟いた。
…こんなはずじゃ、なかったのに。
-最初は地元の新聞に載った小さな記事を読んだ事がきっかけだった。
31日に長野と松本でスカイ・メッセージのイベントを行なう、という内容のその記事はあっという間に@幕張を虜にしてしまった。昔、オリンピックの開会式や航空ショーなどでスモークを出しっぱなしの曲芸飛行は見た事があるが、タイプライターのようにスモークで空に文字を刻むスカイ・タイピングは初めてだったからである。
早速、見学場所を探し始める。
空をただ見上げるための場所探しだなんておかしな話だが、ただ下から見上げるだけではつまらないし、どうせ見るなら特等席で見たい。最初は近くの高ボッチ高原の展望台から見ようかと思ったが、結局は美ヶ原高原から見ることに決めた。美ヶ原高原の展望台からなら北アルプスの山並みを背景に、松本の市街地を眼下に見渡せる。もしかしたらメッセージを上から眺める幸運に恵まれるかもしれない。
機材は300mmレンズをつけた銀塩カメラや12倍ズームレンズのデジカメ、小型のビデオカメラまで準備した。当日の登山ルートは重い機材を背負って1時間近く歩かねばならない松本ルートではなく、車で頂上付近の美術館まで行ける和田峠ルートに決める。
ところが当日の朝、念の為に最初のフライト出発時間に松本空港に確認するとそんな飛行機の発着はないと言われてしまった。新聞記事には松本空港発着と書いてあったので慌てて大塚製薬のオフィスに確認すると、今日は新潟空港から飛び立った飛行機のスケジュールが変更されて、新潟市、長野市、長岡市の上空でイベントを行ない、松本は後日にずれ込むようだとの情報。しばらくするとホームページの情報が更新されて長野市は10時30分の予定になっていた。
どうしよう?! 空を見上げるときれいに晴れていて、絶好のイベント日和。時間は8時30分を過ぎたばかりなので、長野までの移動時間は充分ある。すでに和田峠に向かって走っていた車をUターンさせると、高速道路を使って長野まで行くことにした。こんな時の@幕張は猪突猛進タイプになってしまう。あ、豚走猛進か。
長野市での見学場所は善光寺の境内に決めた。特に理由はなく、ただなんとなく。本当は千曲川の堤防沿いとかオリンピックの開会式の行なわれたエム・ウェーブとか、他にもっと見晴らしの良い場所がいくらでもあったのだが、高速を走っているうちにナゼか善光寺に決めてしまったのだ。たぶん、きっと長野市に住んでいた頃のいろんな思い出が一番詰まった場所が善光寺の周辺だったからかも。
で、2時間近くかけて善光寺の境内に行き、ワクワクしながら見た光景が冒頭のシーン。
あまりにあっけなかった。あっという間に見えなくなったスモークに「それで終わりかよぉ」とツッコミを入れても、もちろん空が答えてくれるなんてオチもない。仕方がないから本堂でお参りを済ませて帰ってきた。いいや、次の機会を楽しみにしよう。まだ松本のイベントがあるんだから。
途中、長野駅構内でかねてより目をつけていた駅弁を買い、スーパーで飲み物を調達する。
ブランド地鶏の真田地鶏を使った「信州松代真田地鶏 とりすてーき」弁当(1,000円)と大きな角煮の詰まった「豚(と)にも角煮(かくに)も豚の角煮弁当」(980円)を選ぶ。残念ながら1日10個限定の「信州牛すき焼き弁当」は売切れだった。
昼前で気温が33度を超え、時折吹く風も生暖かい空気になっていたのでスーパーではお茶と共に良く冷えたポカリスエットも購入。最近、車のバッテリーが調子悪くなってエアコンを全開で使えない上に、山に登るつもりで長袖を着てきた@幕張は全身が汗だくになっている。なんでも、汗腺の開いた健康的な汗は匂いもなくさらっとしているのに対して、エアコンなどに慣れて汗腺が閉じてしまった人は体内のミネラルが混ざって汗臭く、ドロッと体にまとわりつく汗をかくのだそうだ。@幕張はというと、黒いTシャツに白く塩が噴き出していて今日は完全に後者の汗。
一気にペットボトルを飲み干すとホッとしたのか疲れてしまった。
生坂村付近のダム湖の湖畔でランチタイム&お昼寝。
とりステーキ弁当は味噌漬けの鶏肉が大変美味。冷えても美味しいオカズが詰まっている。いつものように角煮弁当も一緒に二人前を食べてしまおうと思ったが、疲れて眠かったので家へ持ち帰ることに。昼食後にシャツを着替え、汗をふき取って湖畔でしばらく昼寝をする。長野市内は33度もあったのに、湖畔の気温は26度ですこぶる快適。
顔にぱらぱらと夕立の雨が当たるまで3時間近くも寝てしまった。
満腹、快眠、今日も幸せ。
善光寺の境内でカメラを構え、心待ちにしていたスカイ・ペインティングが始まった瞬間、おもわず「あっ、始まった」と叫んでしまった。幾重にも微妙に重なったかすかな爆音と共に、五つの飛行機の影から次々と白いスモークが空に放出されていく。
ところが、放出されたスモークは最初のうちこそ黒っぽい影をしていて良く見えたのに、すぐに背景の白い雲と同化してしまった。写真を撮ろうとデジカメのファインダーを覗いても、雲の模様とスモークの区別がつかない。結局、飛行機が最後の文字を吐き出した時には文字の半分以上が見えなくなっていた。
スモークを吐き出し終わった飛行機は@幕張の上空で反転すると、五つの小さな塊となって遠くに飛び去っていく。呆然と見送りながら思わず呟いた。
…こんなはずじゃ、なかったのに。
-最初は地元の新聞に載った小さな記事を読んだ事がきっかけだった。
31日に長野と松本でスカイ・メッセージのイベントを行なう、という内容のその記事はあっという間に@幕張を虜にしてしまった。昔、オリンピックの開会式や航空ショーなどでスモークを出しっぱなしの曲芸飛行は見た事があるが、タイプライターのようにスモークで空に文字を刻むスカイ・タイピングは初めてだったからである。
早速、見学場所を探し始める。
空をただ見上げるための場所探しだなんておかしな話だが、ただ下から見上げるだけではつまらないし、どうせ見るなら特等席で見たい。最初は近くの高ボッチ高原の展望台から見ようかと思ったが、結局は美ヶ原高原から見ることに決めた。美ヶ原高原の展望台からなら北アルプスの山並みを背景に、松本の市街地を眼下に見渡せる。もしかしたらメッセージを上から眺める幸運に恵まれるかもしれない。
機材は300mmレンズをつけた銀塩カメラや12倍ズームレンズのデジカメ、小型のビデオカメラまで準備した。当日の登山ルートは重い機材を背負って1時間近く歩かねばならない松本ルートではなく、車で頂上付近の美術館まで行ける和田峠ルートに決める。
ところが当日の朝、念の為に最初のフライト出発時間に松本空港に確認するとそんな飛行機の発着はないと言われてしまった。新聞記事には松本空港発着と書いてあったので慌てて大塚製薬のオフィスに確認すると、今日は新潟空港から飛び立った飛行機のスケジュールが変更されて、新潟市、長野市、長岡市の上空でイベントを行ない、松本は後日にずれ込むようだとの情報。しばらくするとホームページの情報が更新されて長野市は10時30分の予定になっていた。
どうしよう?! 空を見上げるときれいに晴れていて、絶好のイベント日和。時間は8時30分を過ぎたばかりなので、長野までの移動時間は充分ある。すでに和田峠に向かって走っていた車をUターンさせると、高速道路を使って長野まで行くことにした。こんな時の@幕張は猪突猛進タイプになってしまう。あ、豚走猛進か。
長野市での見学場所は善光寺の境内に決めた。特に理由はなく、ただなんとなく。本当は千曲川の堤防沿いとかオリンピックの開会式の行なわれたエム・ウェーブとか、他にもっと見晴らしの良い場所がいくらでもあったのだが、高速を走っているうちにナゼか善光寺に決めてしまったのだ。たぶん、きっと長野市に住んでいた頃のいろんな思い出が一番詰まった場所が善光寺の周辺だったからかも。
で、2時間近くかけて善光寺の境内に行き、ワクワクしながら見た光景が冒頭のシーン。
あまりにあっけなかった。あっという間に見えなくなったスモークに「それで終わりかよぉ」とツッコミを入れても、もちろん空が答えてくれるなんてオチもない。仕方がないから本堂でお参りを済ませて帰ってきた。いいや、次の機会を楽しみにしよう。まだ松本のイベントがあるんだから。
途中、長野駅構内でかねてより目をつけていた駅弁を買い、スーパーで飲み物を調達する。
ブランド地鶏の真田地鶏を使った「信州松代真田地鶏 とりすてーき」弁当(1,000円)と大きな角煮の詰まった「豚(と)にも角煮(かくに)も豚の角煮弁当」(980円)を選ぶ。残念ながら1日10個限定の「信州牛すき焼き弁当」は売切れだった。
昼前で気温が33度を超え、時折吹く風も生暖かい空気になっていたのでスーパーではお茶と共に良く冷えたポカリスエットも購入。最近、車のバッテリーが調子悪くなってエアコンを全開で使えない上に、山に登るつもりで長袖を着てきた@幕張は全身が汗だくになっている。なんでも、汗腺の開いた健康的な汗は匂いもなくさらっとしているのに対して、エアコンなどに慣れて汗腺が閉じてしまった人は体内のミネラルが混ざって汗臭く、ドロッと体にまとわりつく汗をかくのだそうだ。@幕張はというと、黒いTシャツに白く塩が噴き出していて今日は完全に後者の汗。
一気にペットボトルを飲み干すとホッとしたのか疲れてしまった。
生坂村付近のダム湖の湖畔でランチタイム&お昼寝。
とりステーキ弁当は味噌漬けの鶏肉が大変美味。冷えても美味しいオカズが詰まっている。いつものように角煮弁当も一緒に二人前を食べてしまおうと思ったが、疲れて眠かったので家へ持ち帰ることに。昼食後にシャツを着替え、汗をふき取って湖畔でしばらく昼寝をする。長野市内は33度もあったのに、湖畔の気温は26度ですこぶる快適。
顔にぱらぱらと夕立の雨が当たるまで3時間近くも寝てしまった。
満腹、快眠、今日も幸せ。