音楽に関する仕事がやりたいと言う思いで
この世界に飛び込んだ。
とは言え、
思うように望む仕事が入ってくる…なんて、そんな甘いものではない。
地方局の新人アナウンサー時代に地元のオーケストラの定演でプロコフィエフの《ピーターとおおかみ》のナレーションを依頼された事があった。
実はコレが1番、やりたかった仕事で、
この時は本当に嬉しかったし楽しかった。
ここ数年、影ナレの仕事で音楽関係のナレーションの依頼を受けることが増えた。
昨日も20年前から縁あって続けている地元新聞社と邦楽協会の主催する定演のナレーションの仕事だったが、
聞けば長年使用してきたホールが閉館になったと言う。
(今回使用するホールのナレーションブースの場所はどこにあったっけ?)
…と心配しながら会場入りすると、
十分に原稿が置ける広さとライト、
それにいつもの邦楽専門のQ出しのスタッフがついてくれると言う。
まずはひと安心。
安心して気持ちに余裕ができたせいか、
私は、ここで自分を試される場面を作ってしまった…
…と言うのは、作らない選択肢もあったからだ。
東音会の方が多く出演される最初の演目で
長いナレーションがあった。
新曲「浦島」の歌詞の部分だ。
全部読むと出演者が板付いてから5分間のナレーション…
出番の前に、代表者に相談すると
「あら読んでくださるの?別に歌詞の部分は読まなくてもいいけれど…」
と言われたのだが、新聞社の担当者からは読むように言われている。
「読むものと思い込んで一応、練習はしてきましたが…」と言うと
「そうなの、じゃ読んでくださる?」
とのこと。
「youtubeで聴きながら読み方を確認させていただいたのですが…」
と前置きして幾つか確認すると、
「あら〜、その通りよ、すごいわね!」
と驚かれた。
(いやいや、それフツーだから)
内心そう思いつつ、
(あぁ、こりゃ絶対に失敗できないや)
と後悔。
自分でやります、と言った以上、
一度でも噛むわけにはいかないし、当然失敗はできない。
ヘタすりゃ《墓穴を掘る》のパターンだ。
だけど、準備はしてきた。
主催団体からも1ヶ月前に台本とプログラムを送ってもらっている。
(ここで勝負に出ないで、どうする?)
ナレーションは演奏前の会場の雰囲気を作るためにある。
それに応えなくてはいけないのだ。
敢えて難しい歌詞を読む事に挑戦した。
本番が終わって、
代表者が来てひと言「よかったわよ!」
と声をかけてくださった。
ホッとした。
第一の難関をクリアできたと思った。
その後も、
今年は何故か歌詞のナレーションが多くて、緊張の連続だった。
一字一句を丁寧に、曲調に合わせて明暗を使い分けながら読んだ。
知らない曲はyoutubeで探したり、
曲解説を読んで調べたのが役立った。
(もう、今回で最後かも)
と思いながら終了のナレーションを読み終わった直後、
「来年は10月1日だからお願いね!」
と担当者から声をかけられた。
先のことはわからない。
返事に迷っていると、
「あなたが読むと格調高くなるのよ、だからお願い!」
と笑いながら言う。
上手いとか下手とかではなく「格調高い」
と言われたのは初めてだ。
なんだろう…。
実母がずっと日舞をやっていて子供の頃から邦楽に馴染んでいたことなどが少しは役立っているのだろうか?
一応、プロで永くやっているのだからナレーションはできて当たり前だし、
直接褒められることも全くないわけではないが、
昨日の一言は特に嬉しかった。
敢えてチャレンジして良かったと思う…
まさにナレーター冥利に尽きるとはこう言うことなのだな。
しかし、
コレは稀なケースだ。
主催団体が早めに原稿を送ってくれたからこそ準備ができたおかげだ。
年齢を理由にはしたくないが
声も滑舌も訓練しないと年齢とともに衰えていく…
プロであっても、
ナレーションを上手く読むには十分な準備と整った環境が必要なのだ。
これからは、今まで以上に一つ一つの仕事を丁寧にこなしていきたい、
そう心に決めた瞬間だった。