天使の図書館ブログ

 オリジナル小説サイト「天使の図書館」の付属ブログです。

動物たちの王国【第一部】-4-

2014-01-17 | 創作ノート
【ラザロの復活】セバスティアーノ・デル・ピオンボ


 ええとまあ、今回の前文は前回の前文の続きということで……わたしが「脳死」という言葉を初めて聞いたのは、1997年に臓器移植法案が可決された時だったと思います。テレビのニュースで「脳死」という言葉を巡って、各界の著名人が色々議論してた記憶がぼんやりあったり

 んで、次に思ったのが次のようなことでした。「息のある人(植物状態の人)を死んだ人のように見なすのは絶対おかしい」――たぶん、テレビでもそのことはさんざ議論してたと思うんですけど、当時は「脳死」なんてどこか遠い国のお話でもあり、そうしたニュースを真剣に見ることはなかったというか

 そしてその後、ふとしたことから「脳死」に関係した本を初めて手に取って、「植物状態」と「脳死」は違うということを知りました(^^;)

 某T大病院のサイトに、とてもわかりやすいページがあったので(「脳死」で検索したらすぐ出てきました・笑)、一応リンクを貼っておきたいと思いますm(_ _)m


       脳死とは-東京大学医学部附属病院 組織バンク-


 ――ということで、「脳死」っていうのは大脳と小脳だけじゃなく、脳幹も死んでしまっている状態であり、この脳幹っていうところは呼吸や心臓の拍動など、人が生きるために必要不可欠な器官であることがわかります。

 にも関わらず、脳死に陥った方が何故その後も生き続けられるかというと、当然「人工呼吸器」があるからですよね。そしてこの機械を外してしまえば、自力で呼吸出来ないわけですから、当然患者さんはお亡くなりになってしまうというか。

「脳死臓器移植」っていうのは、そうした方を対象にして「心臓はまだ動いているけれども」、人工呼吸器を外してしまえば亡くなってしまう方の「新鮮な臓器を他の患者さんに役立てること」なのだと思います。

「人工呼吸器という機械に頼っているにせよ、心臓がまだ動いている人間を死人と見なすなんざ、殺人じゃねえか!」とする見方もあると思うんですけど……あの、脳死じゃなくても植物状態の方のお世話をした方なら、感覚としてわかると思うんですよね。

「自分がもし同じ状態になったら、間違いなく殺してくれって思うだろうな」、みたいなことは(^^;) 

 もちろん、植物状態=誰にとっても不幸な状況とばかりも言えない部分は確かにあると思います。わたし自身もそうした方のお世話をして学んだこともたくさんあるし、ご家族の方にとっては特に「意識はなくても、目に見える肉体がこの世にある」……ただそれだけでも良いといったように、「ただ生きていることに感謝」という境地に達されている方もいらっしゃると思います。

 ええと、植物状態だから外的刺激を何も感じないということはなく、「向こうは本当はわかってるんだけど、自分が思ってることを伝える手段がないだけ」という可能性もあるので、植物状態の方には可能性は低くても「希望はまだある」と、わたし自身はそう理解してきました。でも「脳死」になってしまうと、その希望すらないのだと……。

 と、ところが「脳死・臓器移植の本当の話」という本を読んで、「脳死と判定された人間も、植物状態の人間と同じく、本当は感じていることがあるのにこちらにそれを伝えられないだけだったとしたら、どうするのか?」という疑問が出てきてしまいました

 あの、問題はなんといっても「それをどうやって確認するのか?」ということですよね。そしてそれを「絶対的に確認」出来ない以上は、脳死者から臓器を取りだすことには、やはり殺人の疑いが残ってしまうというんでしょうか

 世の中には、移植医療で助かる方がとても多いので、そちら側から見た世界とドナーサイドである脳死者とでは、見える世界がまるで違うとは思います。わたしも移植医療には全然反対しないし、むしろ普通に賛成派でもあるんですけど……「脳死を人の死であるとあなたは認めますか?」と人に聞かれたら、わたし個人は「はい」とも「いいえ」とも言えないなと思いました。

 わたし自身がもし交通事故か何かで脳死に陥ったら「すぐに人工呼吸器を抜いて死なせてくれ」っていうのが、個人的な意見ではあります。でもこれはあくまで「自分のこと」だったらそう言えるというだけの話であって、他の方のこと、あるいは家族のことになるとまた話は別になってくるというか(^^;)

 あの、「脳死・臓器移植の本当の話」を読んでいて、わたしが特に「こわっ!!」と思ったのは、「脳死者は痛みを感じている可能性があるから、臓器摘出の前には麻酔をかけることがある」という話です。「脳が死んでいて何も感じない死者であるというなら、何故麻酔などかける必要があるのか」……「いやーん、やめて。こわィィィッ!!」とか、真面目に思いました。

 なんていうか、その……確かにわたし、臓器移植の登録をする時、移植できる臓器はすべて移植してOK!みたいにはしましたよ?それを今から変えようともとりあえず思ってませんけど――臓器移植カードに「移植はしない」に○をして、常に携帯するということも、ひとつの選択肢としてとても大切なことなんじゃないかと思いました。

 脳死については、まだ書きたいことがあるのでお話は続くんですけど……ここまでの文章を読んで「不謹慎な奴め」と思われた方がいたとしたら、とりあえず前もってあやまっておきたいと思いますm(_ _)m

 それではまた~!!


 P.S.かなりどうでもいいことですが(笑)、↓に出てくるブルワーカーをご存知ない方のために、参考URLを貼っておきたいと思いますm(_ _)m

       『軟弱野郎ども!ブルワーカーを使え!!』



       動物たちの王国【第一部】-4-

 新人の歓迎会があってのち、二か月が過ぎた頃――まずは三か月耐えなさい、と助言した徳川師長の予言が的中するようになった。

 唯は仕事の面に関してはまだまだ未熟だったものの、とうとう周囲の人間が見兼ねて結城医師の彼女に対する集中砲火を「不当である」と断定するようになってきたのである。

「わたし思うんだけど、結城先生ってもしかして、実は羽生さんみたいな子がタイプなんじゃない?」

「あ、それ、わたしも思った!!自分がちょっと気になる子のスカートめくりをしたりとか、そういう心理に近いものがあるんじゃないかって、たま~に思うことあるもん」

「それかあれよね。あれだけ六つ股八つ股当たり前みたいに先生は言ってるけど――唯一自分が過去に本気で惚れた女が、羽生さんみたいな清楚タイプの子だったんじゃない?で、なんかこうそれがトラウマになってて、今羽生さんに八つ当たりしてるとか……」

 この時、時刻は深夜の二時だった。狭いナースの休憩室では唯の他に鈴村と峰岸、それに中堅看護師の藤森奈々枝がいた。他のナースたちとは交代で休憩に入ることになっているため、黒電話のベルが鳴り響かない限り、約一時間ほどの間、たっぷりと休んでいられる。
 
「まあ、羽生さんは結城先生のことはあまり気にしないことよ。結城先生があんまりあなたのこといじめるから、最近じゃ他の先生たちも「あれじゃ羽生さんが可哀想だ」みたいに思ってるみたいだし……」

「そうだよお」と、藤森が自分の持ってきたドーナツを唯に勧めながら言う。「結城先生はさあ、頭の中で思ったことを五秒後には口に出して言っちゃうような人だからね。あたしに対してもよく色んなこと言ってるもん。『ふじもりー、おまえ太ってんなー。毎日何食ってたらそんなに太れるんだ?』とか、『この世界にはデブ専って男がいるらしいけど、おまえの彼氏もその口か?』とかね。まったく、デリカシーがないんだからっ」

 ぷんぷんと怒った振りをしながら、チョコレートリングを奈々枝は頬張っている。

「ははっ。藤森、あんたの場合はアレよ。看護師の仕事ってキツイし、結構運動量あるのになんであんたが痩せないのか、結城先生は不思議でしょうがないんでしょ」

 そう言って峰岸はオールドファッションを「もーらいっ」と箱からひとつ取りだしている。

「そうよ。大先輩であるこのあたしに対してでさえ、毎年夏には必ずこう聞いてくるもの。『リンリンさん、ブラの線透けて見えてっけど、それ何カップ?』とかね。『答える義理はございません』っていつも言ってるんだけど、あれでなんで今まで誰も結城先生をセクハラで訴えてないのかが不思議よ」

「そこはそれ、結城先生のキャラって奴でしょ」

 バッグの中から煙草の箱を取りだしたものの、一本もなかった親友に対し、峰岸が自分のを一本分け与える。

「ありがと、京子。まあ確かにあいつはいわゆる愛されキャラって奴だもんね。そういう意味では特っちゃ特な奴かもね」

「うんうん、言えてる」と、奈々枝がふたつ目のドーナツに手を出しながら頷く。「なんて言ってもルックスがいいから、結城先生は。この間も研修に来てた看護学生が「あ、あの人よ、キャ~」とか言って廊下で騒いでたっけ。でもわたし、結城先生のことは顔よりも体のほうが好きかもなー。特に上腕二等筋のあたり」

 でへへ、などと言って奈々枝が笑うと、「このスケベ!!」と、峰岸が奈々枝の広い額を叩く。

「いやいや真面目な話、鈴村主任と峰岸先輩は結城先生の体のパーツでいったらどこがいいと思います?結城先生に抱かれてみた~いとか、そういうキモいことはどうでもいいとして」

「そうねえ。わたしがあいつのたまに垣間見える胸筋や腹筋をチラっと見てて思うのは、昔その横にいたクマちゃん先生のことかもしれないわねえ。クマちゃんの術衣の下からチラリズム的に胸毛や腹毛が見えると、『なんてセクシーなのかしら』って胸がときめいたもんよ」

「クマちゃん先生かあ。懐かしいなあ」と言って、峰岸と藤森がげらげらと大笑いする。

「でもさあ、結城先生があの体作るために実はプロテイン飲んでたり、毎日ダンベルで腕を鍛えてたら、めっちゃ受けるよね。あるいは押入れにブルワーカーがしまってあるとか……」

「出た、ブルワーカー!!」

 藤森の発言がツボに嵌まったらしく、峰岸がぶほっとドーナツを噴き出した。

「昔、うちの弟も持ってたのよ、ブルワーカー。『これで君もモテる男になろう!!』みたいな雑誌の広告を見て買ったらしいの。使用前では生っちろい体してまるでモテない奴が、ブルワーカー使った後には水着姿の女子にモテモテみたいな触れ込みの奴。そっかあ、結城先生ブルワーカーで体鍛えてんだ。なるほどねえ、あの体はブルワーカーの賜物かあ」

 唯もみんなにつられて思わず笑っていると、コンコンと休憩室のドアが大きくノックされた。唯はドキッとするあまり居住まいを正してしまったが、他の三人はそこに当の本人が立っていても、どこ吹く風といった顔をしている。

「おまえら、黙って聞いてれば、人のことを勝手にブルワーカーの所持者にしてんじゃねえぞ。言っとくけど、うちの押入れにはブルワーカーもダンベルもねえし、俺はプロテインなんか一錠も飲んだことはないからな」

「あーら、結城先生。それじゃその立派なお体はどこでお鍛えになってるんですの?」

 鈴村が煙草の煙を吐きだしながらそう聞くと、休憩室の端に腰かけながら、翼は峰岸のセーラムライトを一本失敬した。一応、院内は喫煙室以外は禁煙ということになっており――ナースの休憩室で煙草を吸うのは御法度とされている。それで翼は開きっぱなしのドアを仕切るカーテンを目隠しのために閉めた。

「……ジム通いしてるっていう、それだけだって」 

 翼が言いにくいことを告白するように呟くと、「やっぱり!!」と、三人の看護師たちが声を合わせて大笑いする。

「せんせーはきっと、よっぽど高級なスポーツクラブに通ってんでしょうね、一月の会費が云万円とかいう。んで、そこでトレーナーについてもらって「上腕二等筋を鍛えるためにはここをこうするといいよ、結城くん」とか、ホモのボディビルダーの助言とか受けてるんじゃないですか?」

「うっせえ、藤森。大体てめえはこんなもんばっか食ってっから、ぶくぶくぶくぶく太る一方なんだぞ。ちっとは摂食したらどうなんだ、このメスブタが」 

 翼が奈々枝の手からハニーリングを取り上げると、すぐに抗議の声が上がる。

「ひっどーい、人のことブタだなんて、そんな本当のこと言って……ねえねえ、羽生さんはどう思う?結城先生って医者としてはともかく、人間としてはほんと最低よねえ。人のことデブとかブタとか平気で罵るし、ちゃんと彼氏いる人のこと処女とか呼んじゃって失礼ですよ。つーか、この際だから羽生さん、彼氏の写真とか結城先生に見せちゃえば?ほら、携帯の画像、前にわたしに見せてくれたでしょ」

(ここでその件に踏み込むか、おそるべし藤森!!)と、ふたりの先輩看護師が驚いているのも構わず、奈々枝はどこか無邪気な顔すらして、唯の鞄を揺すっている。

「あの、でもなんていうか……そんなお見せするほどのものじゃないっていうか……」

(うわー、この子マジで天然だわ!!)と、むしろ自分たちのほうがドキドキしながら、鈴村と峰岸は事の成りゆきを見守った。

「べつにどーでもいいだろ、そんなもん。お嬢ちゃんに彼氏がいて休日ごとにやりまくってようと、俺にはなんら関係ねえからな。それとも何か?近く結婚する予定だから、そのせいで仕事に身が入りません。多少のミスは勘弁してくださいってか?だったら今すぐ看護師なんかやめちまえ」

(藤森、あんたむしろやぶへび!!)――流石の鈴村と峰岸にもフォローが不可能状態になっていると、救いの神というべきか、ここで黒電話の音がけたたましくあたりに鳴り響いた。

 途端、まるで何かのリセットボタンでも押されたように、翼が休憩室からすぐ外に出る。百戦錬磨の鈴村と峰岸にしては珍しく、この時ばかりは結城医師がいなくなって心底ほっとした。

「ごめんね、羽生さん。なんかわたし、余計なこと言っちゃったみたいで……んー、でもなんかのきっかけがあれば、結城先生と羽生さんは仲良く出来そうだな~なんて思ったもんだから」

「す、すみません。わたしがうまく喋れないっていうか、うまく切り返せなかったからいけないんです」

「あーもう、羽生さんはそれがいけないのよっ!!『結城、このクソバカのセクハラ野郎!!てめえなんかいつか女に刺されてコンクリート詰めにでもなっちまえっ!!』って言い返せるくらいにならなきゃ」

「ま、最初からそれが出来てりゃこんなにこじれてないかあ。なんにしても休憩時間は強制終了ってことになりそうだわね」

 徳川師長の召集の声に耳を傾けながら、鈴村は煙草を灰皿に押しつけて消した。化粧直しをする暇もなくナースステーションに出、電話で洩れ聞いた内容から早速救急処置室の準備にかかる。

 まずはモニターの電源を入れ、無影灯をつけるといったことにはじまり、輸液の準備を藤森奈々枝に頼む。それから人工呼吸器や吸引の準備をし、救急カートの中に足りないものがあったので助手に補充させるが、その時早速とばかりサイレンの音が近づいてきた。

 翼は部下のひとりに命じて仮眠室の研修医を起こしにいかせたあとは、救急車が到着し、後部からストレッチャーが下ろされるのを待っていた。この時にはすでについ先ほどまでしていた看護師たちとのささやかな語らいのことなど、彼の頭からは消え失せていたといって良い。

 とはいえ、(何がブルワーカーだ。俺がジム通いしてんのはこういう時に体力を消耗するからだろうが)とは、最後までしつこく思っていたものの……。



 >>続く。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿