天使の図書館ブログ

 オリジナル小説サイト「天使の図書館」の付属ブログです。

動物たちの王国【第二部】-10-

2014-03-06 | 創作ノート


 ↑もまた、今回のお話を書くにあたって参考にさせていただいた本の一冊ですm(_ _)m

 前回貼った三冊は、全部書き終わってから「このへんよくわかんない」と思って買った本なんですけど、↑の本と



 は、書いてる途中で間違いなく必要になると思って先に購入した本だったと思います(^^;)

 まあ、だからそれがどーした☆ということではあるんですけど(笑)、なんの資格も持ってない水原さんのような人が手術室という病院でも専門領域の最たる場所……みたいなところで力を揮ってるって、少し不思議に思われるかもしれません。

 でもとりあえず、わたしが見た限り(ちなみにわたしは中材で働いたことはないんですけど)、長く勤めてる看護助手さんが、新しく来たばかりの看護師さんより人間関係的に力を持っている、みたいなことはあるみたいなんですよね。

 たとえば、その病院で十年以上も勤めてる看護師さんたちと仲のいい、同じように十年くらい働いてる看護助手さんがいたら、まあ「たかが助手」といったようには、絶対扱えないっていうんでしょうか(^^;)

 わたしが話としてよく聞いたことがあったのは、「看護師さんに人間扱いされない助手の話」とかでしたけど、なんにしても病院のような場所だけじゃなく、ひとつの部署で長く勤めてる人はそれなりに力を持っており、それは手術室のような場所でも同じなんじゃないかなって思います。

 う゛~ん手術室っていうとどうも、お医者さんの華麗なメス捌きがやっばり中心になるとは思うんですけど、実をいうとわたしそこよりも、ものっそ地味なことに興味があるっていう、ちょっと変わった人だったり(笑)

 まあ、わたしの書いてるこのお話なんかはいいかげんな知識に基づいた、それこそいいかげんな小説ではあるんですけど、お医者さんが脇役で看護師さんが主人公のお話を書いた場合、手術室の目線って間違いなく変わりますよね。

 もしその視点から面白い小説なり漫画なりを書ける人がいたとしたら、器械出し・外回り看護師はいつもこう考えてるっていう感じで、結構受けるんじゃないかと思うというか。

 あとわたし、実際はよくわかってないのにアレですけど(ドレ☆)、MEって呼ばれる方の仕事にもめっちゃ興味あります。たとえば、手術室における仕事のこのあたりが特にストレスだ……とか、そういうことを知りたいってことですけど(笑)

 そしてこうしたなくてはならないけれども、手術室全体としては脇役と呼ばれる方のほうが――医療ドラマではいるのかいないのかわかんないくらいだったとしても――実は全体をよく見ていてわかっている・状況を把握してるっていうことがあるんじゃないかなって思ったりします(^^;)

 中央材料室の仕事って、実際とても地味かもしれないし、どこにどう使うのかもわからない手術器材をセットしたり、洗浄→滅菌の繰り返しでつまんなくない?と思う方もいるかもしれないんですけど、そこはそれ(だからドレ☆)、世の中には水原さんのような変人が意外にいるものなんじゃないかなってわたしは思ってます。

 たとえばわたしみたいに、本で見ただけでも「アリス鉗子?その名称を聞いただけでトキメくー!!」っていうような変態が、この世界にはいるっていうことですけど(笑)

「ローゼル持針器は何故ローゼルというの?へガール持針器は何故ヘガール?おしえてー、アルムのもみの木よ~♪」とか、何かそういう世界(^^;)

 んで、たま~に「モスキート止血鉗子=モスキート(蚊)というその名のとおり、先端が細く微細な構造になっている」とか書いてあるのを読むと、そこでもまた「トキメくー!!」(specの高まる~!!と同義語☆)なんて思うわけですよ(笑)

 まあようするに、自分で直接使うわけでもないのに、機械的に名称だけ覚えて楽しいもんだろーか☆と思われるかもしれませんが、わたしと同傾向にある人はおそらく、中材での仕事はそんなに苦にならないかもな~と思ったりします(^^;)

 それではまた~!!



       動物たちの王国【第二部】-10-

「ねえ、ちょっとあんたこれ、どういうことよ?」

 彼女自身もまた麻酔科医ではないかと間違われるくらい、よく入り浸っている麻酔科医の休憩室で、園田は戸田を相手に詰め寄っていた。

「どういうことって?」

(こっちは三十分も休憩とったら、またすぐ手術なんだよ)と不機嫌に思いつつ、戸田は売店で買ったカレーパンに齧りついていた。それからフルーツ牛乳をずずっとストローで吸いこむ。

「だから、外科系ドクターたちはなんで羽生さんのことをいちいち「可愛こちゃん」なんて呼ぶのかってこと。他の看護師たちも流石にちょっとおかしいなって思いはじめてるわ。もしかして、あんたたちまた何か変な賭けをしていやしない?医師たちの中で誰が羽生さんを最初にデートに誘うかとか、ようするにそういうことだけど――」

「まっさか、違うよ」

 ぶほっと思わず咳き込みそうになり、戸田は青い術衣の胸元を何度か叩いた。

「園田のせいで俺、今一瞬誤嚥しそうになったぞ。大体、前にもそんなよーなことがあって、俺たちはもう懲りてる。もう三年くらい前の話になんのかな、あれ。園田も覚えてるだろ。外科の海野先生と関先生が明らかにオペ室の宇佐美ちゃんにマジ惚れしてるってのが見え見えでさ。どっちが落とすことになるか賭けてたら、宇佐美ちゃんが突然泣きだしちゃって……「わたしもう、仕事辞めます!」って言って、ジ・エンド」

「そうよ。女同士の嫉妬は怖いのよ。あんたたちがそんな変な賭けをしてるってみんなにわかって以来、宇佐美ちゃんはオペ室のナースから除け者にされちゃったの。いじめってとこまではいかないけど、軽い無視攻撃にあったわけ。べつに、看護師の中に海野先生や関先生のことを密かに好きって子がいたわけでもない。ただ、仕事中にそういう発情のオーラを感じるとみんなイラッとするわけ。わたしはあんたたちと同じで、「へー。そんな面白いことになってんだ、わくわく」みたいな感じだけどね、そんなくだらないことのために優秀なナースを失うのはたくさんだわ」

「ま、おまえには愛しのてっちゃんが身近にいるもんな。そういう意味で、他の男に飢えたヒステリック看護師どもよりは余裕があるってわけか」

「何よ、あんた。今日は随分突っかかる言い方するわね」

 左右の壁際にそれぞれ三つずつ並ぶ事務机のひとつに、戸田はだらしなく腰掛けていた。他に四人いる麻酔科医は全員手術中で出払っている。園田はスティッククリームパンを食べる戸田の手からそれを奪うと、半分にへし折ってばくばく食べはじめた。

「あーっ!おまえ、何すんだよ。せっかくの俺の貴重な食料源を……午後からオペ中に低血糖症かなんかでぶっ倒れたら、全部おまえのせいだかんな」

「うっさいわね。それより、あんたもわたしも互いに時間のない身でしょ。どうせ最後には白状させられるんだと思って、さっさと言っちゃいなさい。あたしだってこういう時のためにナースの情報をあんたに流してるんだから、今度はそっちの番よ」

「いやあ、でも今回のことについてはな~、俺の一存では……うっしっしっ」

 何やら気味悪く笑いだした戸田のことを、園田は容赦なく睨みつける。

「だから、なんであんたたちはそういう「うっしっしっ」とか「いっひっひっ」ていうような目で、羽生さんのことを意味ありげに見るわけ?あれじゃあ、誰も何も言わなくても、絶対「何かある」っていうのが丸わかりだわ。そういう時には大抵、わたしの耳にも何かしらすぐ情報が入ってくるんだけど、今回はそれもない。だからどういうことなのかってあたしはあんたに聞いてるんじゃない」

「わかった、わかった。けど、マジな話、ここだけの話にしといてくれよ。結城先生がさ、あの羽生って子がオペ室に異動になってから、麻酔科医たちに真顔でこう言ったんだよ。『あの可愛こちゃんは俺のものだから、おまえら絶対手を出すなよ。出したら殺す』って」

 これが笑わずにいられるかとばかり、戸田はげらげらと笑いだした。

「なんかさー、部下の加瀬先生とか斎木先生にも同じこと言ってるらしいな。で、あっという間に噂が広がって、羽生さんの顔を見るたんびに意味ありげにみんな「可愛いこちゃん」って呼ぶようになったわけ」

「まさか。結城先生に限ってそんなこと……」

 園田は自分が思った以上に動揺していることに驚いた。園田の中で結城医師という男は、そうした仕事とプライヴェートを混ぜる男ではありえなかったからだ。

「おりょ?園田、もしかしておまえ、愛しのてっちゃんがすぐそばにいながら、ちっとは結城先生に浮気心起こしてたんでねえの?あの人も罪な男だよなー、実際。オペ室のナースなんか全員、結城先生がちょっと小指動かしただけで、なんでも言うこと聞くんじゃねーの?けどさ、俺たちになんで自分があの子を好きなのか説明していくあたり……結構可愛いとこあるよ。なんか、あの子大人しそうに見えて意外にモテるんだって。だから自分がなんとかする前に他の男が手垢をつけるのだけは絶対避けたいって話だった」

「やってくれるわねえ、結城先生も。流石、台風の目だわ」と、灰色の椅子に腰掛けたまま、園田は脱力したようにぐったりする。「ま、あんたの言い種じゃないけど、結城先生は確かに可愛いところがあるわよね、実際。もし本当に結城先生が羽生さんのことを好きなんだとしたら――全部直球の豪速球で来るんじゃない?で、ナースの休憩室あたりに平気な顔してやって来て、「一緒にメシでも食いに行かないか?」なんてやられたら、完璧アウトよ」

「べつにいいじゃねえか。嫉妬させたい奴には勝手にさせとけって。しかしねえ、あのいかにも女に不自由してなくて遊んでるっぽく見えた結城先生が……実は片想いしてるなんて、なんともいじましいじゃねえか。そんなわけでまあ、俺たち野郎どもは羽生さんの半径五十センチ以内には近づかず、あったかーい眼差しで優しく眺めちゃったりしてるわけよ」

「そのあったかい優しい眼差しとかいうのが、マジでウザキモいのよ。だから他のナースたちも「絶対変だ」ってみんな気づいちゃったんじゃない」

 そう言って園田は立ち上がり、「この役立たず!」と戸田の脛のあたりを蹴ってから、麻酔科医の休憩室をあとにした。自分の欲しい情報さえ絞りとれれば、こんな借金まみれのギャンブル狂に用はないのだった。

「いってえなあ、まったく。だからおまえらオペ室の看護師は無神経なんだっつーの。男の純情についてなんて、これっぽっちも理解してないくせに……」

 当然、戸田のこのつぶやきは、園田の耳には入っていなかった。彼女は休憩室のドアをピシャリと閉めると、ナースステーションに置かれたホワイトボードを眺めにいく。そして午後からの手術の予定表を見上げ、そこに結城医師の名前を探した。

(あー、たった今オペ中か。でも<ダ・ヴィンチ>で食道癌の手術をしてるんだったら……)

 園田は第十手術室にはおそらく、彼の徒弟が何人も群がっているだろうとわかってはいたが、時計を見てやはりそちらへ向かうことにした。オペのほうが順調に進んでいるとすれば、そろそろ終わる頃合ではないかと思ったからである。



 >>続く。





最新の画像もっと見る

コメントを投稿