↑の雑誌は、今回の本文で参考にさせていただいた本になります。
中にですね、「治療方針が「ウィーニングせずにDNAR」の患者、看護師が「笑顔で退院」に導けた判断の根拠とは」っていうエピソードがあって、そちらから借用させていただきましたm(_ _)m
あ、ちなみにわたし、この種の本を毎月買ってたりとかは全然しませんよ?(笑)
この本、2013年の4月号なんですけど、その時にはもう「動物~」の構想があったので、医学的な臨床エピソードっていうんでしょうか。何かそうしたものを少しずつでいいから積み上げておきたいと思って、市内の某大型本屋さんで購入したものと思われます(^^;)
その本屋さんではこうした看護師さんとかお医者さんしか読まない専門書が結構置いてあって、タイトル見たりパラパラ読んだりしただけでも、「出来ればこの本欲しいな~☆」と思うものが結構ありました
でもまあ、値段が安くて4、5千円とか軽くするものばかりなので、家に帰ってきてから密林さんで中古のを探すのが先決なんですけど
それでも、これとこれだけは6千円とか4千円するけど、必ず買って読まねばなんないっていうのがあるので、第二部をはじめる前に買って読む予定です(^^;)
↑の本で知った「もっとも新しい重症患者の早期離床の考えかた」っていう本も出来れば買って読みたかったんですけど、そんなわけでまあ見送ることにしました
なんていうか、ようするに――金に飽かせて(?)、医療的・看護的に自分が気になるエピソードの書かれてそうな本をもし片っ端から買うことが出来たとしたら、たぶんもうちょっと内容のほうは充実したかな~なんて思わなくもなかったり
まあ、基本的に人間関係メインのお話なので、「こんなもんでいっか☆」とは思ったりもするんですけどね(^^;)
あと、本文中に出てくる院内査察っていうのも、「なんかそんなことがあったよな~」とぼんやり覚えているだけだったり。厚生労働省のお役人だったかどうか忘れちゃったんですけど、とにかくどこかそういう役所的なところから、数年に一回くらいだったでしょうか。なんか抜き打ち検査的なことをされるとかなんとか
つまり、院内が清潔に保たれていて、きちんと医療器具類が整理整頓されているかとか、もし地震や火災が起きた際にそこらへんの対策はきちんとなされているかとか、そういうことをチェックしていくらしいんですけど……今にして思えば感染症対策的なこととか、そういうこともなんかうるさく言っていきそう、みたいに思ったり(^^;)
う゛~ん。なんかわたしが噂に伝え聞いたところによると、「抜き打ち」と言いつつ、実際は大体いついつくらいにそういう人たちが来るっていう情報が事前にあるそうなんですよね。なので、その頃になると総師長さんあたりが病院内をチェックして回って、「このへんヤバイからきちんと整理して」って注意したり。
え~と、わたしがぼんやり覚えてるのは、その関連として汚物庫とかそのあたりを綺麗にするようにって言われたことですかね。ただ記憶的にさらに曖昧なのが、MRSAの患者さんがいた時にそういう人たちが来てたのか、それともMの患者さんがいなくなってから来てたんだったか、よく思い出せないという(^^;)
わたしがその病院にいた時、MRSA(感染症)の患者さんがふたりいたんですけど、この二名の患者さんは隔離ってほどじゃないにしても、とにかくその病室に出入りする時には消毒を徹底するようにと言われてました。
ではでは、次回はこのMRSAについて少し書いてみたいと思いますm(_ _)m
それではまた~!!
動物たちの王国【第一部】-10-
「やれやれ。やっと査察の嵐が過ぎ去ったねえ」
藤森奈々枝は蓮見病院長や吉良総師長、是枝事務局長など、病院のトップクラスの一団が病棟中の隅々を見てまわり、二三の注意事項を与えてから立ち去るのを、ほっとする思いで見送っていた。
「ところで結城先生、蓮見院長が先生に「お父さんに三千円返してくれって蓮見が言ってたって言っておいてくれ」って、どういう意味?」
「ああ、あれな」と、転院することが決まった患者のカルテを完成させながら、翼が応じる。「蓮見院長とうちの親父って同期なんだよ。で、あの人俺の顔見るたびに言うんだ。「結城の奴にはパチンコ、賭けマージャン、競馬なんかで払ってもらってない金が三千円くらいある」って」
「三千円って、随分みみっちい金額に院長先生も拘ってるんだね」
「だよな。で、俺も親父にそのこと伝えたら、親父は親父であいつには女のことで貸しがあるって言うんだ。俺も詳しくはよく知らないんだがな。どうせ男同士のろくでもない話なんだろうけど、まさか院長に対して「父は女性のことをお世話したので、その三千円はチャラにしろと申しております」って言うわけにもいかないだろ」
翼が「ふあーあ」と、ひとつ伸びをしていると、蓮見院長や吉良総師長の後ろにつき従い、常に平身低頭といったように胡麻をすり続けた堀田師長が戻ってくる。ご丁寧にもエレベーターまで見送りにいき、彼らの姿が見えなくなるまで頭を下げていたらしい。
「おっと、潔癖症の名ばかり看護師長のお出ましか。じゃあまあ、俺はお役所仕事じゃなく、実に実のある仕事をするとしようかな」
翼はこの時には、自分の視界に入ってくる邪魔なものを攻撃・排除するのではなく、自分のほうが姿を消すよう心がけていた。看護師長のほうでも何度もあった言い争いの結果として、結城医師のことを処分できる力が自分にはないと悟ったのであろう、彼女が師長室から出てきて部下に様々な指示を出す時というのは、翼がナースステーションにいない時に限られていた。
「わたしは病院の環境美化委員会の長でもありますから、今回の査察には特に自分の面目をかけておりました。また、今回無事査察が終わり、二三の注意はいただきましたものの、全体として去年よりもずっと病棟が綺麗になっているとのお褒めの言葉もいただきました。これもみなさんが尽力してくださった賜物と存じております。どうか、査察が終わったからといって気を緩めず、これからも病棟内は綺麗に整理整頓して参りましょう。そのことがまた、病棟内で医療ミスが起きるリスクを減らすことにもなるのですから……」
(まったく、意味のないうぜえ演説だよな)
翼がICU病棟に入っていくと、そこには今日ICU担当だった羽生唯がオーバーテーブルの前で記録をとっているところだった。
ICUは全部で十六床あり、そのすべてが今日もすべて埋まっている。翼の知る限り、最大で約二日の間、満床とならず二床ほど空いていたこともあった気がするが、それがいつのことだったのか、思いだすということがさっぱり出来ない。
「どうだ?変わりないか?」
約一か月前の早朝、意識のない状態でいるところを家族に発見され、救急搬送されてきた患者のモニター心電図や人工呼吸器の波形を眺めながら翼は聞いた。患者は七十二歳の女性だったのだが、絞扼性イレウスであることがわかり、すぐ開腹手術が行われることになった。だがその後、意識レベルが回復せず、脳波の測定などから今後も意識レベルの回復・人工呼吸器離脱は困難という判断が下されていた。
「高岡さんにはたぶん、このまま転院してもらうことになると思う。家族にもその方向で了承してもらってるから」
「あ、あの、結城先生……」
同僚の医師、看護師として普通に話すようになってからも、唯が今のように時々怯えながら話すのを見るにつけ、翼はおかしくて仕方なかった。『俺の前で「あの」とか「えっと」っていう接頭語を使うのは一切禁止だからな』とは、最初の頃より伝えてあるのだが。
(あの新しく入ってきた小娘三人衆もそうだが、俺ってそんなに怖いかね)
まるで自覚のない翼に対し、唯は意を決するように真っ直ぐ顔を上げた。
「高岡さんが搬送されてきた時、イレウスの手術をしたのは境先生でした。結城先生はその日非番だったので……」
「ああ、そうだっけな」
一か月前のことなど、翼にとってはすでに記憶の彼方だった。
「その、手術後の経過を見ていたのはわたしだったんですけど、最初に担当した時、自発呼吸が確かにあると感じたんです」
「つまり?」
患者の病状に関しては、研修医、あるいは看護師に対してでも、彼が常に根拠を求めてくると知っている唯は、なんとか結城医師に順序立てて説明しようとした。
「今人口呼吸器のモードはA/Cモードです。それで、波形に自発呼吸を認めることがあって……ウィーニングをすることは出来ないかと思ったものですから」
ここで翼の目の色が一瞬変わったのを見て、唯は自分の言いたいことをなんとか一生懸命記録と照らし合わせて説明した。蜷川幸恵のように必要最低限の言葉で結城医師が納得するように話せたとは思わない。けれど、彼が「よし、じゃあ喚起回数設定を下げてみるか」と言ってくれたことで、ようやくほっとした。
「それと、モードもSIMVにしたほうがいいな。当然、そのほうが自発呼吸を生かせるだろうから」
「は、はいっ!!」
――患者の高岡タキは、このことをきっかけにし、やがて意識レベルを回復すると、介助付きで車椅子への移乗も出来るまでになった。人口呼吸器のA/Cモードというのはすべて強制換気になるため、自己の呼吸筋が使われないのだが、SIMVモードというのは自発呼吸に合わせて強制換気を行うモードのことである(自発呼吸時には強制換気を行わない)。つまり、呼吸筋の疲労に気をつけながら、除々に自発呼吸の回数を増やしていったことで、最終的に高岡タキは意識を回復し、車椅子に移動が可能となるまでに病状が回復したのだといえる。
高岡さんが家族と一緒に療養型の病院に転院していくのを見送りながら、その日翼は初めて「よくやったな」と、唯のことをさり気なく褒めた。すると、かつて蜷川幸恵がしていたのとまったく同じ顔の表情を唯がするのを見て、翼は驚いた。
(あいつも、随分成長したもんだな。救急部に来たばかりの頃は、頭の足りないアイドルみたいな話し方をするのが、どうにも気に障って仕方なかったが……)
その後、徳川美咲と廊下ですれ違った際、翼は蜷川幸恵はどうしているかと聞いてみたのだが、彼女もまた外科病棟で新人とは思えぬ力を発揮しているということだった。また人間関係的なことでは、徳川が先に「天然記念物と思って接するよう」配慮を促したとのことである。
最初、翼は蜷川が茶色い髪をしているので、てっきりイケイケのヤンキー娘なのだろうとばかり思っていた。ところが本人に聞いてみると、「自分は性格が暗いので髪の毛が茶色いほうが明るい人だと思われると思った」との意外な返答が返って来――(面白い奴だな)と翼は思ったものである。
茶髪ということでは、翼も少しばかり思い出があった。というのも、研修医として救急部に初めてやってきた時、突然クマちゃん先生こと茅野正に頭を引っつかまれ「おまえ、この髪の毛はなんだ!!」と怒鳴られたのである。翼は茅野の毛深い腕を振り解くと、「今時茶髪なんか珍しくもねーだろ!」と当然反論した。
「おまえ、自分が患者にどう見えるかわかってて言ってんだろうな!?おまえみたいな六本木のホストみたいにチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラチャラ(ブレス)してる男が、ICUのあたりをうろついててみろ。たったそれだけのことでこっちが家族に訴えられるんだぞ!!」
そうは言われても、翼は自分の意志を曲げず、「見た目で人を判断する奴のほうが悪い」と主張し続けた。すると、茅野のほうで間もなく、
「ふうん。俺が少しばかり怒鳴っただけでスプレーで黒くしてくる奴は多いが、おまえはちょっと違うらしいな。何かポリシーがあるって言うんなら、聞いてやるから言ってみろ」
そう聞かれた翼は、電源をオフにしていた携帯を取りだし、一枚の写真を茅野に見せた。
「なんだ?まさかおまえ、このアイドルに憧れて茶髪にしてるってわけじゃないんだろ」
「ちゃいますよ。つーかそいつ、アイドルじゃねーし。俺の高校時代の親友なんだけど、地毛の髪の毛がもともと茶色い奴なんです。で、俺のほうは真っ黒クロスケで高校の三年間を過ごしてました。べつに内申に響くからとかなんとかいうのが理由じゃないですよ。ここで髪の毛茶色くしたら、絶対こいつの真似してるって思われんだろーなと思って、ずっと黒毛和牛でいたってだけ。でも大学に進学したらなんかこう気持ちが自由になって、自分の好きな色に髪の毛を染めてみたってだけの話です」
「ふうん、なるほどなあ。けどまあ、茶髪にするのを完全にやめろとは言わんが、もうちょっと色を抑え目にできんのか?おまえ、後ろから見たら間違いなくヤンキーにしか見えんぞ」
――この頃には翼はすっかり、茅野の医師としての力量に圧倒されていたため、彼の言うことならば聞いても良いという心境になっていた。そこで行きつけのヘアサロン「ベサメムーチョ」でお気に入りの美容師に「黒と茶色の中間にしてちょ!!」と頼むことにしたわけである。
そしてその後、翼が後輩の医師を持つようになった頃、やはり同じように髪が茶色かったり白衣を着ていなかったら医師に見えないチャラ男が紛れこんでくるのを見ては、(茅野さんもこんな気持ちだったんだろうな)と、そんなふうに翼は思うようになっていた。
中には茶髪どころか、赤や緑や紫に染めている研修医もいたが、大抵は軽く怒鳴っただけで次の日には黒くしてくるのが常だった。(やれやれ。腰抜けどもめ)と、翼はその度に拍子抜けしたが、やはり自分と同じようにひとりだけ、紫のメッシュを主張し続ける男がいて、茅野医師と同じように「その頭は何かポリシーがあるのか」と聞いたことがある。
彼こそは、今でこそ救急部の中堅として育っている大河内卓だったが、研修医として来たばかりの頃は必要最低限以上口を聞かないような、実に暗い男だったのである。
それが今では……。
「先輩、これ旭化成の薬ですよ。イヒッ!!」
などと、よく変な笑い方をするおかしなキャラに変貌している。大河内卓の髪の毛は今では真っ黒く元に戻っていた。翼がその昔「たとえばバンドをやってるとか、何か理由があるんなら言ってみろ」と聞いたところ――「髪の毛でも染めれば家族が何か言うかなと思った」と、大河内はボソリと話したものである。
「うち、年の離れた兄貴がいて、実家の病院は兄貴が継ぐことになってるんですよ。病院なんて言っても、小さな個人病院なんですけど……で、この兄貴って人が優秀で、兄貴が病院を継いでくれれば俺はいらないっていうか、オマケみたいなものなんですよね、ようするに。最近、兄貴が結婚したんですけど、その嫁さんっていうのがめちゃめちゃ美人なんです。俺に対しても「スグルくん、スグルくん」って、色々話をしてくれて……なんか俺、それで自分がすごく嫌になって。もちろん兄貴には兄貴なりの苦労があるっていうのはわかるけど、なんでこの人は大して苦労もしないで親の病院継いで、こんな美人の嫁までいるんだろうっていうか。髪の毛を紫にしてみたのは、ちょっとした思いつきです。父か母か兄貴が、「おまえ、その髪の毛はなんだ!?」って怒るかと思ったら……べつに誰も何も言いませんでした。それでなんとなく引っ込みがつかなくなって、現在に至る、終わりって感じです」
「ふうん。なるほど」
(随分ガキくさい悩みだな)と翼は思ったが、とりあえずそれ以上何も言わなかった。髪の毛を他の色にしろとも黒くしろとも……だが大河内の中ではその日以来、何かが変わったらしく、自分のアイデンティティを主張する方法を変えたらしい。つまり、ストレスを感じる家に帰るのではなく、救急部の兵士宿舎のベッドに泊りこみ、シャワーはロッカー室にあるのを使うという、ほとんど病院の住人にも近い生活をはじめるようになったのである。
このことをきっかけに、大河内卓の医師としての能力は伸びた。と、同時に彼の中で何かが壊れた。それがあの時々不意にでる「ウヒヒ」とか「クックックッ」という笑い声に象徴されているような気がして、(俺も後輩の育て方を間違ったかな)と翼としてはつくづく感じるところである。
(でもまあ、大河内の場合はなあ。葛城先生の遺伝子が色濃く混ざったところが悪かったのかもな。俺の遺伝子よりも、葛城先生のほうのそれが強く出たのかもしれん)
なんにせよ、翼には今小さく大きな悩みがある。というのは、翼としては尊敬する医師の先輩であるクマちゃん先生こと茅野医師、また及川道隆部長から伝えられたことを後輩にそのまま譲り渡したいと思い、育成に当たっているところがあるのだが――どうもその良き素晴らしい遺伝子が自分のところで止まっているような気がしてならなかったからである。
(これは俺に人間として欠陥が多いそのせいかもしれないな)と、翼としては反省せずにいられないことだったが、羽生唯の中に自分が伝えたいと思っていたものを見た時……翼は純粋に「嬉しい」と感じた気持ちを、その後暫く忘れることが出来なかった。
>>続く。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます