天使の図書館ブログ

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はるかな国の兄弟

2011-12-05 | 
 ※以下は、リンドグレーン著「はるかな国の兄弟」の超ネタバレ☆記事です。「はるかな国の兄弟」を読んだことのない方は、将来お読みになった時にせっかくの感動が薄れる可能性があるので、閲覧にはご注意くださいませm(_ _)m

 最近、良質な本の読書体験が続いているきゃんり人です(笑)

 リンドグレーンといえば、一番有名なのがおそらく「長くつ下のピッピ」、「やかまし村の子どもたち」といった感じだと思うんですけど――わたし、実はこれがリンドグレーン初体験作となります(^^;)

 まあ、なんで今読むことになったかという過程はさておき、とにかくひたすらわたし好みの小説だったです

 というか、最初の数ページ、数行を読んだだけで、目に涙がにじみそうになりました

 物語の主人公は、ヨナタン・レヨンイエッタとカール(クッキー)・レヨンイエッタというふたりの兄弟。

 そしてお話の語り手はクッキーで、彼は小さい頃から体が弱く、足にも障害があって、いつも台所にある長椅子で寝ていることの多い子でした。

 兄のヨナタンは成績優秀で友達も多く、それでいて弟のことを色々気遣うことの出来る、心の優しい少年です。

 ある日クッキーは、お母さんと彼女のところに来たおばさんとが、自分は長く生きないだろう……と言っているのを偶然聞いてしまいます。

 そのことをクッキーは悲しく思い、ヨナタンに泣きながら告白するのですが、ヨナタンは十にもならない弟に対し、少し不思議なことを話すのでした。

 人は死んだらナンギヤラという国に行けるので、死ぬなんてそんな大したことじゃないよ、むしろすてきなことだと思うな、と言うのです。

 さて、日本人的な言語感覚でいくと、「ナンギヤラへ行くのは難儀やな☆」といった親父ギャグが浮かんでしまうのはどうでもいいとして……このナンギヤラへは実は、病気で間もなく死ぬと思われていたクッキーではなく、ヨナタンが先に行くことになってしまいました。

 クッキーたちが住んでいた住宅で火事があり、ヨナタンは弟のクッキーを背負って三階の住居から飛びおり、死んでしまうのです!!

 ヨナタンが死ぬ間際に言った言葉は、「ナンギヤラでまた会おう!」というものでした。

 そしてクッキーは、やがて本当にそこへ行くことになります……死後の国であるらしいナンギヤラという場所へ。

 ええとですね、わたしここまで読んで、お話のラストを自分で勝手に決めてしまいました

 つまり、クッキーは病気で生死の境をさ迷っているその時に「ナンギヤラ」という場所で兄のヨナタンと再会し、そこでの冒険を通し、生きる力を回復する……つまり、ヨナタンの死は確定的なものなので変えられないとしても、クッキーは最後に現実の世界へ戻ってくるのではないかと、そう思ったんですよね。
 
 何しろ、クッキーたちのお母さんはシングルマザーみたいな感じの人ですし、それで子供をふたりもいっぺんに亡くすなんて、あんまりな気がしますし、ヨナタンは最後、きっと別れ際にクッキーを抱きしめ、「これからはおまえが母さんを守るんだよ。勇敢なカール・レヨンイエッタ(レヨンイエッタはライオンの心の意味)」とでも言うんじゃないかな、なんて。

 もしかしたら、このお話の終わり方には、少し首をひねる読者さんもいらっしゃるかもしれません。

 でも、自分的には「よく考えると他にありえないのではないか」と、そう納得して、感動とともに最後のページを閉じたといった次第です
 
 ナンギヤラで最愛の兄、ヨナタンと再会したクッキーは、もう足にも障害はなくていくらでも歩いたり泳いだり出来ますし、そこにある<サクラ谷>という場所で、ふたりは暮らすことになるのでした。

 ふたりは<騎士屋敷>という名の素敵なお屋敷で暮らし、馬に乗ったり、魚釣りをしたり、可愛いうさぎにエサをやったりして楽しく過ごすのですが、実はこのナンギヤラという場所には、難儀な(笑)問題があるのでした。

 ええと、読者はここで少し不思議になりますよね。天国にも悪人がいて、善良な人を困らせたりなんだりという問題が存在するなんて……って。

 でもここで、ヨナタンの口からナンギヤラという国の他にナンギリマという場所も存在するのだ、ということが前もって読者には知らされています。

 え?ナンギヤラとナンギリマってどう違うの??っていう感じですが、お話をかなり最後のほうまで読んでくると、なんとなくこの違いがわかってくるような気がするんですよね(^^;)


 ☆ナンギヤラ=良い人の魂も、そうでない人の魂も、ともにある世界。

 ☆ナンギリマ=本当に本当の天国。


 これはまあ、お話を読んだわたしの、勝手な推測なんですけど……ナンギヤラという国では、生前悪いことに手を出していた人にも、実は少し<救い>が残されているのではないでしょうか。

 そしてナンギヤラという国へやって来た時、生前のその悪といったことを悔い改めるなら、その人は善良な人として暮らすことも可能なのじゃないかな、と。また逆に、生前それほどの悪人といったこともなかったんだけれど、ナンギヤラという国で<裏切り者>になってしまう人も存在する、そういうことなんじゃないかな、なんて(^^;)

 とにもかくにも、<サクラ谷>の近くにある<野バラ谷>には、テンギルという名の圧制者がいて、そこに住む人々を苦しめているのでした。

<サクラ谷>の人々は互いに力を合わせ、<野バラ谷>に住む人々を解放しようということで、一致団結しています。

 でも、何かと情報に洩れがあることから見て、おそらく<サクラ谷>には、裏切り者が存在しているということがわかっていて……クッキーは最初その相手を勘違いするのですが、のちにヨナタンを追って<野バラ谷>へ行こうとした時、それが誰なのかを知ることになります。

 そして、<野バラ谷>でなんとかうまく合流したヨナタンとクッキーは、今度は<カトラの洞>に捕われているという、オルヴァルという名の指導者を助けだしにいくことに。

<カトラ>という名前は、物語のわりと最初から出てくるのですが、それが何かというのは、ある程度お話が進んでからでないと明かされていないんですよね(^^;)

 この<カトラ>というのは竜であり、圧制者テンギルの角笛の音のみに従うという恐ろしい力を持ったそれは大きな竜なのでした。 

 そして<カトラの洞>へ入れられた人間は、やがてこの竜に食べられてしまう運命にあるのです。

 たくさんの危難を乗り越え、オルヴァルとともに<野バラ谷>へ帰ってきたヨナタンとクッキーですが、その後も戦いは続きます。

 テンギルとテンギルの部下たち、そしてサクラ谷と野バラ谷の人々との最後の戦いです。

 多くの血が流され、犠牲が払われましたが、ヨナタンがテンギルの角笛を奪ったことにより――形勢は最後、一気に逆転するのでした。

 こうしてサクラ谷と野バラ谷の人々は本当の自由と平和を手に入れるのですが、竜を操る角笛を持つヨナタンは、カトラを再びカトラがいた場所へと連れ戻し、奴をそこに鎖で繋いでおくという仕事が残っていました。そうしておけばやがて弱って、死ぬのに適した時期がやって来るだろうというのです。

 ところが、ちょっとしたことから角笛をカルマ滝へ続く川の中へ落としてしまったヨナタン。

 こうなると、カトラが再び牙を剥いてレヨンイエッタ兄弟へと迫ってきます。

 ヨナタンは巨岩を落としてカトラを退治しようとしますが、それだけではダメージとして十分ではありません。

 そこへ、カルマ滝に住むという、誰も見たことのない伝説と化していた大蛇、カルムが現われ、二匹は互いに互いを食いあいながら、滝の底へと沈んでいくのでした……。

 ここはなんというか、自分的に見事だなあ、という気がしました。

 何故といって、蛇といえば、聖書によると最初に人類を悪へとたぶらかした存在であり、竜といえば、聖書の最後、黙示録に出てくる滅ぼされる悪の象徴ともいえる存在なのですから(^^;)

 それと同時に、ナンギヤラとかナンギリマとかカルマとかカトラとか……こちらはどことなく名前の響きなどが東洋風な感じがしますよね。

 そしてこの物語は東洋の人が読んでも西洋の人が読んだ場合にも、<天国>というあり方について、共通した普遍性があると思うんです。

 物語の最後、竜の火の攻撃を受けて動けなくなったヨナタンは、弟のクッキーに背負われ、崖下に飛びおりナンギリマへと到達します。ここでお話は終わりなのですが――「本当に本当の天国」へ行ける人と、そうでなかった人とのお話、として読むと、この物語は決して子供だけのものでない、児童文学という枠を遥かに超えたお話なのではないか、という気がしてなりません(^^;)

 ここからはまたわたし個人の推測なのですが、<ナンギヤラ>にはおそらく、死後誰もが、どんな人もが行ける世界なのだと思います。でもそこでもまた人は、苦難を通して魂を<精錬>されねばならないのではないでしょうか。

 お話の中では神さまについては一言も語られていませんし、そうしたお説教くささともまったく無縁なのですけれど、神さまはそのような文字として表されるものではなく、行間に存在するのだと、リンドグレーンはもしかしたらそう考えて本書を執筆されたのかもしれません。

 そして<ナンギヤラ>でどう苦難と向き合い、対処したかどうかで、本当に本当の天国である<ナンギリマ>へ行けるかどうかが決まる……お話自体はとてもファンタスティックで美しいのですけれど、それでいてとても厳しいリアリスティックな面も同時に描かれている、「はるかな国の兄弟」はそのような素晴らしい滅多にない作品だと思います。

 さてさて、たまたま偶然なのですが、このお話を読んだあと、わたしはファージョンの「天国を出ていく」という短編を読んでいたのですが、こちらも素晴らしい傑作でした(^^)

 実をいうと、この間ファージョンの「リンゴ畑のマーティン・ピピン」を読んだことで――その中に出てくる「はるかな国」っていう単語が脳裏に残っていて、今回リンドグレーンのこの本を図書館から借りてきた次第だったり。

 なんにしても、こんなに細部に至るまでわたし好みな小説を読んだのは、久しぶりだったかもしれませんww

 リンドグレーンの他の本についても、そのうち機会があったら読んでみようかと思っています♪(^^)

 それではまた~!!





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