天使の図書館ブログ

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ヘレン・ケラー【2】

2011-10-15 | 

 今回は、ヘレン・ケラーの自伝から、とても心に残ったエピソードを抜粋したいと思います。

 というのも、図書館から借りてきてる本なので……返却する前に、あとで自分で思い返すために残しておきたい、というか。

 まあ、それだったら「本、買え!」って話なんですけど(笑)、何しろヘレン・ケラーの本って色々あって、どれ買ったらいいんだろうっていうのが実はあるんですよね(^^;)

 なんにしても今回は、「ヘレン=ケラー自伝~三重苦の奇跡の人~」(今西祐行さん訳/講談社)より、ヘレンが初めて「愛」ということを理解した瞬間のことを、抜粋しておきたいと思います。


 ~「愛」ということば~

 ある朝のことです。

 わたしは、庭にすみれの花が咲いているのを見つけました。

 その春はじめて見つけたすみれでした。

(そうだ、サリバン先生にあげよう)

 とっさにそう思って、わたしはそれを摘みとりました。

 そして、先生のところへ持っていきました。

 すると先生はとても喜んでくださって、わたしに頬ずりをなさろうとしました。

 でも、わたしはそのころ、母以外の人から、頬ずりされるのは好きではありませんでした。

 わたしは顔を背けたのです。

 すると先生は、わたしを静かに抱いて、

「わたしは、ヘレンを、愛していますよ」

 と、指で話してくださいました。

「『愛』ってなんですか」

 わたしはたずねました。

 先生は、

「それはここにありますよ」

 というように、わたしの胸を指差しておっしゃいました。

 その時はじめて、わたしは、心臓の鼓動に気がつきました。

 でも、わたしはそれまで、手で触れることのできるものの他は知らなかったのですから、先生のおっしゃることは、どうしてもわかりませんでした。

 わたしは先生が手にしているすみれの匂いをかいでから、半分は言葉で、半分は手まねで、

「愛って、この甘い花の香りのことですか?」

 と、たずねました。

「いいえ」

 そこで、またわたしは暫く考えました。

 わたしたちの上に、暖かい太陽が輝いていました。

 わたしはその暖かさのくる方向を指差して、

「これが愛ではないのですか」

 と、たずねました。

 すべてのものを暖め、成長させる太陽ほど、美しいものはないように思えたからです。

 しかしサリバン先生は、やはり首を横にお振りになりました。

 わたしは戸惑ってしまいました。

 これがミモザ、これがスイカズラ……というように、先生はこれまで、何度もわたしの手に触れさせて教えてくださいました。

 それなのに、なぜ先生は「愛」を見せてくださらないのでしょう。

 わたしは不思議でなりませんでした。

 それから一日、二日たってからのことです。

 わたしは、大きさの違うビーズ玉を糸に通すことを教えてもらっていました。

 大きいのを二つ通すと、次に小さいのを三つ、というふうに、釣り合いの良いように通していくのです。

 いくらやっても、わたしはすぐに間違えました。

 そのたびに、先生はわたしの間違いを根気よく、親切に教えてくださいました。

 それでもまだ、わたしは間違えてしまいました。

(どうしたらいいのかしら)

 わたしは暫く手を休めて、考えこんでいました。

 すると、サリバン先生は、わたしの額に指で、「考える」と、お書きになりました。 

 わたしは、はっとしました。

 今自分の頭の中に起こっている不思議な働き、それが「考える」ということなのだなと、はじめて気がついたのです。

 手にさわることの出来ないもの、形でいうことの出来ないものにも、名前があるのだということが、はじめてわかったのです。

 長いこと、わたしはじっとしていました。

 膝の上のビーズのことを考えていたのではありません。

(あの「愛」というものも、この「考える」と同じような、形のない、手にふれることの出来ないものではないかしら)

 わたしは、そんなことを考えていたのでした。

 その日は朝から、どんよりと曇って、時々雨さえ降っていました。

 ところがその時、急に南国の輝かしい太陽が、ぱっと差しこんできたようでした。

 わたしはもう一度、先生に伺ってみました。

「これが「愛」ではないのですか?」

 すると、先生はちょっと考えるようにしてから、

「そうね。『愛』というのは、太陽が出てくる前に、空にあった雲のようなものよ」

 わたしには、一層わからなくなりました。

 すると、先生はすぐに、もっと優しい言葉で、続けてくださいました。

「雲は、さわることは出来ないでしょう。でも、雨は感じますね。そして、雨が降ると、草木や乾いた土がどんなに喜ぶかも、ヘレンは知っているでしょう。『愛』もさわることは出来ないの。でも、その『愛』がすべてのものに注がれる時、その優しい喜びは、感じることが出来るものよ。『愛』がなければ、幸せもないし、きっと遊びたくもなくなってしまうわ……」

 先生のおっしゃることが、初めてよくわかりました。

 わたしは自分の心と他の人々の心との間に、目に見えない、さわることの出来ない、美しい糸が結ばれていることがわかったのです。





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