天使の図書館ブログ

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迷宮のカル=ス。-3-

2012-04-18 | 創作ノート
(特にオススメな本っていうわけではないんですけど……でも、子カルに「これ読んで!!」とか言われたら、萌え死ぬのを通りこして、泣いちゃうかもしれません


 今回は、久しぶり(?)に、微エロ☆程度なんですけど、若干そんなよーなシーンがあるよーな(笑)

 それにしても、「姦通がバレた王女のお話」とか、このふたりは寝る前になんの話をしてるんだかwwと思ったり

 まあ、いいですけどね(っていうか、なんかだんだんバカップル☆ぽくなってきたよーな

 これもまたわたしの勝手な妄想なんですけど……10巻のカルと母様がベッドで話してるシーンを見ると、なんか幸せだった頃は母様って、カルに童話とか聞かせてあげてそうですよね。それも夜、寝る前とかに

 んで、カルは「100万回生きたネコ」の話を聞いて、「ねえ、母様。どうして100万回も生きたネコは、100万回も生きたのに、最後は死んじゃったの?」って聞いたり。そんで母様は「さあ、どうしてかしら?それよりも今日はこれでおしまい。おやすみなさい、私のカル」とかって言ってる感じかな~なんて。。。 

 まあ、カルみたいな可愛い子が「るどるふとイッパイアッテナ☆」の本を持って「読んで~!」なんてやって来たら、ガキ嫌いなわたしでも(←うそ☆笑)、喜んで朗読しちゃうと思います♪(しかも張りきりすぎて、声が上ずるという・笑)

 あとは、「シェラ、今日は寝る前に『あらしのよるに』を読んでくれ」っていうのも、結構萌えるかも

 なんていうか、寝る前に童話の朗読でトラウマが癒される男、カル=スっていうのは、完全にわたしの妄想ですけど(笑)、意外にそこらへん、お子さまっぽい気もしますよね、カルって(^^;)

 あと、バスタのコミックス6巻にでてくるお話を、今回ちょっとだけカルの回想として組み入れてみました♪(^^)

 まあ、今回の3でタイトルどおり、「迷宮のカル=ス」っぽい展開になるんですけど……この程度のトラップしか前もって仕掛けられない魔戦将軍って、実は存外無能??と思われるやもしれませんww

 いえ、中・高生くらいの時には、その手のRPGブックを読んでた記憶があるんですけど、今手元にそれ系の本が一冊もないのでそんなわけで、シェラを攫った犯人さんには、なんか申し訳ない感じだったかもしれません(^^;)

 地下迷宮(ダンジョン)にオークとかゴブリンが出てくるお話としては、やっぱり「指輪物語」の描写が凄いですよね。

 とりあえず、大体のところお話を把握する形で読んだので、そのうち映画のほうも見てみたいな~と思ったりしています♪(^^)

 今、ゲド戦記のⅤ、「アースシーの風」と並行して、「ダークエルフ物語」を読んでるんですけど……この小説は「D&D」が世界観の下敷きにあるので、バスタと共通するような点がお話の中にあって、なかなか面白いかな、なんて。

 まあ、今回↓のお話の中で、オークやゴブリンが名前だけ(?)出てくるので、「ダークエルフ物語」からちょっと引用させていただくと。。。


 ~う・○・ち・く☆(笑)~

 ゴブリン=邪悪で小柄な、醜い顔をした人間型生物。寿命は約50年。他の人間型生物を憎む。臆病だが殺しを好み、集団になると残忍性を発揮する。腐肉、ネズミ、蛇から人間までを食す。洞窟や湿った地下住居に住み、住処は不潔で悪臭を放つ。ホブゴブリンはより獰猛な、軍隊社会を形成する別の種族である。

 オーク=人間やエルフ、ドワーフを敵視する、血に飢えた冷酷な肉食原人。灰色がかった緑の肌、全身に生えた剛毛、動物のような鼻面が特徴。寿命は約40年。立ち姿はやや猫背ぎみ。集団で部族を形成し、狩りや略奪で生計を立てる。夜行性で、日光を嫌う。腕のいい鉱夫でもあり、武器職人としても優れる。


 タイトルが「ダークエルフ物語」なので、当然主人公はダークエルフなんですけど(^^;)、お話の中にダークエルフの社会がいかに残忍かっていうことが出てきて、ネイのことを思うと少し胸が痛みます

 ほんと、ただダークエルフとして生きるのも結構大変なことなのに、それが人間とのハーフっていうことになると……「幼い頃からこの体には生傷が絶えたことがなかったわ」と言ったネイの気持ちがすごくわかるというか。。。

 11巻の特別書き下ろしで、子ネイってうさちゃんの人形を持ってますよね

 あのうさちゃんって、カルとネイとD・Sが暮らした家に、なんか今もありそうな気が……んで、その横のほうから「ビロードのうさぎ」とか「白いうさぎと黒いうさぎ」とか「ピーターラビットのお話」なんかが一緒に出てきたとしたら、なんか泣けます

 自閉症カルを立ち直らせてあげるため(?)に、子ネイがそれを読んであげたとか、D・Sが留守にしてる時に、子カルがネイに読んであげたとか……ちょっと萌えるシチュかもしれませんww

 全然関係ないですけど、この11巻の描き下ろし部分のマカPが実はすごくお気に入りだったり(笑)

 線の感じとか色々、なんかすごい好きなんですよ♪(^^)

 でも、19巻以降のマカPは……その後なんかちょっとずつ……お笑い芸人風に。。。orz

 いえ、好きなんですけどね、マカパイン!!(笑)

 シェラも髪切ったりとかっていうのは全然いーんだけど、やっぱり10巻の見開きっていうかトビラのシェラのほうが好きかもなーっていうのはあるかもしれません(^^;)

 そんでもって、あまりにも「今ごろ……☆」な話ではあるんですけど、マカPってシェラのこと抱っこした時、やっぱり触ったのかな~なんてww

 あと、馬橇はシェラが女だって知った時、どういうリアクションだったんだろう(笑)


 ~こんな魔戦将軍はイヤだ☆~

(野宿するマカパインとシェラと馬橇。
 んで、薪が爆ぜる音で、ハッと目を覚ますシェラ。
 ちなみに馬橇は爆睡中・笑)

 シェラ:「こ、ここは……!?」

 マカP:「やっと目が覚めたか、シェラ。ジューダス城で一体何があった?
     まあ、わざわざ聞かずとも、卿がああなっていた時点で、ある程度想像はつくがな」

 シェラ:「おまえと馬橇……じゃない、バ・ソリーが助けてくれたのか?」

 マカP:「ああ。それと、おまえが女であることもすぐにわかった」

 シェラ:「マカパイン……卿、まさか!?」

(体に触られた形跡がないかどうか、自分の体を確認するシェラ☆)

 マカP:「フッ。安心しろ、シェラ。俺は成熟した女の体には興味がない」

 シェラ:「………っ!!」(それはそれで、「コイツ絶対とか思うシェラ・笑)

 馬橇:「ぐお~っ!!すぴぴぴぴ~♪」(ちなみに寝たふり☆)

 シェラ:「マカパイン……おまえ、もしかしてロリコン、なのか?

 マカP:「まあな。ついでに、自分より身長の高い女にも興味はない。そういう意味ではシェラ、おまえは実に惜しかった。出会っているのが、もう数年早ければ……」(ちなみに、マカPの身長は176cm☆笑)

 シェラ:「(謎の少女のほうに目をやる)
      マカパイン、まさかとは思うが、この子たちを拾ったのは……」

 マカP:「フッ。そういうことだ。なんのメリットもないのに、こんなガキどもを連れ歩いても、仕方あるまい?
      男のガキのほうはどうでもいいが、女のほう、はな」

 シェラ:「……………
(あのまま氷漬けでいればよかった!!うわーん、カル様ーっ!!(>_<)とか思ってる☆)

 馬橇:「ぐお~っ!!すぴぴぴぴ~♪
    (へへっ。マカパインはそっちの趣味かよ。だったらシェラのことは、オレがいただいちまうかな。てへっ☆)


 なんかもー、「てへっ☆」じゃねーよって感じですけど(^^;)、こうしてシェラにはマカPから謎の少女を守るという重責と、馬橇の魔手を常に気遣わねばならない気苦労が……まーこんなんで四年以上も旅なんかしてたら、カルと再会した時のシェラの喜びって、並じゃないと思います(っていうか「カル様、助けてください!あいつら実は変態だったんです!!」っていう世界・笑)

 あ、もちろんわたし、マカPはロリコンじゃないと思ってますよ!謎のおにゃのこ☆が正気(?)に戻って、「おにいちゃん、わたしと結婚してくれる?」とか言って結婚したりするのは、一応アリだと思ってますけど(笑)、24~5巻でマカPとシェラって一度離れてるから……マカシェラがここからどーなるのかってすごく気になります(いや、わたし的にはこのあと、シェラには物語の中央付近に立ってもらって、カルと再会してほしいと思ってるんですけどね^^;)

 おおう!!なんかどーでもいい話が長くなってしまったんですけど(ほんとにな☆)、今回は↓の本文も長いので、このへんで♪

 それではまた~!!



       迷宮のカル=ス。-3-



 一方、そうとは知らないカル=スは、まるで夢見る若者のような顔つきをして、美しい月光の下を、川沿いの道に沿って歩いていた。

 彼の頭にこの時あったのは、ただひとつのこと――シェラがきのう寝る前にしてくれた、『姦通がバレた王女さまのお話』の続きのことばかりであった。シェラはいつも、話をいいところで途切らせ、「続きはまた明日にしましょう、カル様」といったようなことを必ず言いだすのだ。

「何故だ、シェラ?結婚する前にある男と通じていて……そのことがバレたその王女は、このままでは処刑されることになるのだろう?いくら王女とはいえ、国の法律を曲げることまでは出来ないからな。いいから、早く先の話を聞かせてくれ。そうしないと続きが気になって、とても眠れそうにない」

「ダメです、カル様。前にも申し上げたでしょう?こうしておかないと、いつかカル様はわたしの語りに飽きてしまうかもしれません。だから、気になるところで毎夜終わらせるくらいでちょうどいいんです」

 カルはシェラの言い分を不服に思ったが、その時ある一種の復讐法のようなものを思いついて、すぐ実行へ移した。

「続きを話せ、シェラ。じゃないと……」

 柔らかいベッドの上に突然シェラのことを押し倒すと、カルは彼女のドレスの下から、絹の下着を剥いだ。途端、びくっ!とするような鋭い反応があり、カルはシェラの着ている服のデコルテラインに沿い、ゆっくりと舌を這わせていった。

「シェラ。さあ早く、今の話の続きを話せ」

 指の動きが止まり、それ以上のご褒美がもらえないことがわかると、シェラは息も絶えだえといった様子ではあったが、それでもなんとか話の続きを語ろうとした。

「お、王女さまは、機転をきかせて……あっ、ああっ!!」

「機転をきかせて、それでどうしたんだ?」

 カルはシェラの背中に手をまわすと、ドレスの背面を閉じている、繻子の紐を手際よく解いていった。そしてその二本の紐を利用して、シェラの手首を軽く縛り上げる。だが、実際にはそんな必要はなかったかもしれない――何故といってそのドレスはすべて脱がせるのがなかなか大変だったので、カルにしてもシェラの胸をあらわにする以上には、それを下にさげられなかったのだ。

「その、最初に寝た男との間にあった、しょ……んっ、んんっっ!!」

 カルは、シェラの唇の端から唾液が流れはじめるのを見て、可哀想に思いはしたが、それでもそれをペロリとなめるに留めておいた。

「しょ、なんだ?早く続きを言え」

「しょ、<処女のしるし>……それを探して、あんっ!!」

 それ以上のことは、シェラの中でもカルの中でも、もうどうでもよくなってしまった。それよりも互いの体の昂りを解放することに神経がいってしまい、物語の最後がどうなるのかを、カルは結局聞けずに終わってしまったのだ。

(確かに、最初の男との間にあった血の痕(いわゆる処女のしるし)を、あの抜け目のない王女はとっておいて、嫁ぎ先の王子との初夜が明けた朝に――これこそ自分が処女であった証拠であるとして、すり替えようとしていたのだ。だが、それがいつの間にか失くなっていたからこそ、あの王女は驚き慌てたというのに……まったく、今夜こそは絶対に続きを最後まで聞いてしまわなくては)

 そう思いながらカルは、<リハイラ王妃の館>の尖塔が見えてくると、川沿いの道から離れて、石畳の坂道を上っていくということにした。

 だが、館の玄関に通じる石段へ足をかける前に、カルはすぐ異変に気づいた。何故といって、いつもいるはずの衛兵ふたりの姿がなかったからだ。

(まさか、何者かに買収されたか……?)

 ここの館の衛兵の勤務は、王城の番兵と同じく、三交替である。しかも、内密の勤務であるため、王城の番兵がもらう給金の三倍のものを支払うという約束が最初から取り交わしてあった。カルにしても、人選については一通り調べ上げ、誠実な人物を手配したはずだったが、おそらく富籤にでも当たらぬ限り、平民が手にすることはないくらいの金額を、目の前にちらつかせられたのだろう。

「シェラ、無事か!?」

 バン!!と大きな音をさせ、館の扉を開けると、甘い香の漂う中を、カルは大股に歩いていった。その間にも、ふたりの人物の<気>が交錯しているのが、カルには強く感じられる……。

(ひとつは、間違いなくシェラのものだが、もうひとつはおそらく、男のものだ)

 自分の知っている人間かと思い、意識を集中させようとしたが、それ以上のことはカルにもわからなかった。何より、相手が男だとわかった時点で、カル自身の<気>が乱れてしまったそのせいでもある。

 カルが二階の寝室へ向かうと、ワゴンの上に果物の鉢や紅茶のティーカップ、陶器の皿にはお菓子が手つかずで並んでいるのがわかった。カルはティーコゼのかけられたポットに触れ、まだそれが熱かったことから、シェラがこの場からいなくなってそう時間は経っていないだろうと判断した。

 そして次の瞬間、ハッとしてカルは天蓋付きのベッドの中を覗いた。その中央には呪符が貼られ、その下に置き手紙らしきものがある。


『氷の至高王、カル=スよ。
女を帰して欲しくば今すぐその呪符を用い、異空間を通って我が元へと来い。
もし来なかったその時には、女の身柄は淫獣の餌食になるものと、そう思え』


「この字は……」

 その手紙を書いたであろう人物に、カルは心当たりがあった。魔戦将軍マカパイン・トー二・シュトラウスの書く、実に特徴のある読みにくい文字だった。

「背反、か」

 カルはそう呟き、そして呪符の力を解き放つために、魔法の呪文をいくつか唱えた。寝室の壁には東洋の龍が描かれた大きな磁器皿が飾ってあったが、呪符が空中を舞い、壁の中央に吸いつくようにピタリと貼られた瞬間――その奥から暗黒の空洞が現れ、そこから響いてくる振動に耐え切れなかったように、その大皿は木っ端微塵に砕けていた。

「東洋はシノワ王国の、由緒ある贅沢な一品だったんだがな。まあ、仕方がない。それよりも今はシェラのことが心配だ」

 カルは大きな獣が縦長に口を開いたかのような、いびつな暗い空間へ、一歩足を踏み入れた。そして数歩進んだ時に、後ろの空間が閉じられる気配を感じ、青白い光の魔球をいくつか生じさせた。

 このニフレイムと呼ばれる魔法の光には、普通の明かりにはない利点がある。つまり、光の当たった場所に影が生じることがないので、かなり広範囲に渡って隅々まで辺りの様子を探ることが出来るのである。

「やれやれ。このような不気味なダンジョンに足を踏み入れたのは、一体何十年ぶりのことだろうな」

 カルはそうひとりごちるように言いながら、カツカツと足許の感触を確かめるようにして、一歩一歩先へ進んでいった。おそらくこの先には、敵のいる本拠地へ辿り着く前に――いくつもの巧妙なトラップが仕掛けられていることだろう。

「むっ!?」

 カツカツという足音に一瞬変化が生じたのを感じ、カルは思わず後方へ飛びすさった。ダンジョンの壁は土煉瓦で出来ており、床と天井もまた同様である。カルはニフレイムの光を出来るだけ遠く……五メートルほど先にまで飛ばし、当たりの様子を探ったが、特にこれといったものは何も見つからない。

 そこで後ろを振り返り、小石をひとつ拾い上げると、先の空間へと投げた――途端、何かの仕掛けが作動し、バカッ!!と床の空間が左右に裂ける。

 そこでは、ニフレイムの青白い光に照らされて、大蛇や蠍や毒グモといった気味の悪い生物たちが蠢いていたが、カルはあくまで冷静に「まあ、よくある初級のトラップだな」と、独り言を呟いていた。

「はっ!!」

 助走をつけて跳躍すると、カルはその不気味な三メートルほどの暗い空間を楽に渡りきった。そしてストッ!と着地したあとは、まるで醜いものなど何も見なかったように、再び淡々と歩を進ませていったのであった。

「さて、と。右の道を取るか、それとも左の道を取るのか……それが問題だ」

 カルはT字路に出ると、右の手指を形のよい顎にのせ、暫しの間思案した。そしてそんな彼の脳裏に――一体何十年昔のことだったかと思われる、あるひとつの記憶が甦ってきた。

 
『なんだよー、アビゲイル。まったくオマエときたらつっまんねえな~。石橋タカシを叩いて渡るって言葉は、オマエのためにあるよーな言葉なんじゃねえの?』

 昔、あるダンジョンでダーク・シュナイダーとアビゲイル、そしてカルの三人が道に迷ってしまった時のことだった。その時、アビゲイルがあまりに慎重に進路を決めようとする姿を見て、D・Sはそんなことを言ったのだ。

『オレ様の直感によるとすれば、だ!このT字路はぜってえ左だな、うん。なんでかわからねえが、超絶美形のオレ様の判断はいつも正しい!!さあ、アビゲイルにカル、先へ進もうぜ』

『待ってください、ダーク・シュナイダー』

 と、冥界の預言者アビゲイルは、いつもの暗い顔つき、そして妙に耳に残る低い声とでこう忠告した。

『あなたがそう言ってずっと道順を決めてきた結果として、我々は迷ったのではありませんか。ここは慎重に慎重を期してですね……』

『そんじゃーまー、ここはひとつ多数決ってことでどうだ?カル、おまえは右の道と左の道、どっちが正解だと思う?』

『私は右のような気がするが……』

 すると、アビゲイルがさっさと右の道を選んで、先に進んでいってしまった。

『これまで私達はダーク・シュナイダーの言うとおりしてきて迷ったんです。ですからここはひとつ、カル=スの言葉に従ってみるのがいいでしょう』

『いや、だがアビゲイル』

 と、カルは幾分心許なさそうに言った。

『私もD・Sと同じく、ただ直感でものを言っただけで……何か根拠とするところなど、ひとつもありはしないのだ』

『はっはっはっ!!そりゃいーや!!』

 もとより奔放で楽天的な性格のD・Sは、そう言って先をゆくアビゲイルの背中をすぐに追い越した。彼は誰かの後ろについて歩くなど、我慢の出来ない性格なのだ。

『くぉぉーんな辛気くせぇダンジョンなんざ、いざとなったオレ様の禁呪で木っ端微塵に粉砕してやるぜ!!』

『むっ!?ダーク・シュナイダー、まさかとは思うが、それは……』

『おう。天地爆裂(メガデス)っつー、解読中の禁呪でな。どのみち近いうちにどっかで試しに使ってみたいと思ってたんだ』

『……………』 

『……………』

 アビゲイルとカル=スは、ほぼ同時に黙りこんだ。ここで『そんなことはよしたほうがよい』などと諌めたとすれば、どこかへそ曲がりなところのあるダーク・シュナイダーは、むしろそれをすぐにも使いかねないと、ふたりにはわかっていたからである。

 だが、その後も地下水路からは地妖・水妖系のモンスターが次から次へと現れ続け、そして追いつめられた結果として……。

『カル、アビゲイル!残りの魔力を結界に集中させろ!!』

 もう破れかぶれとでも思ったのだろうか。アビゲイルはこの時、存外すんなり『わかりました』と応じていた。対するカルとすれば、その禁呪のもたらす破壊力がいかに凄まじいかを知っているだけに――当然止めようとした。もっとも、そのようなカルの忠告に、耳を貸すようなD・Sではなかったが……。

『バカな!危険すぎる!!待て、ダーク・シュナイダー!よさないかっ!!』

『いっくぞぉーーーっっ!!天地爆裂(メガデス)!!!!!』

 ――といったよーな経緯を辿り、結果として深紫(デイ・パープル)王国は、エデ・イーという魔物に滅ぼされることになったのであった。


「フッ。まあ、今となっては、懐かしい想い出といったところか」

 カル=スは、感傷に浸っている暇はないとばかり、軽く首を振った。そして、あの時とは逆に、D・Sの選んだ左の道を選ぶということにしたのだった。

 その後も、ゴブリンやオークといった地下世界にお馴染みのモンスターどもが姿を現すたびに、カルは氷雪系の呪文を用い、彼らのことを次々と撃破していった。

 そして、再び床の音に変化が表れた時――カルは自分がたった今息の根を止めたゴブリンの死体を、小石がわりにそこへ放り投げたのであった。途端、どこかでビィン!!と何かが引っ張られるような音がし、トラップの発動する気配が感じられる。次の瞬間、汚らしくて醜いゴブリンの体はさらに、四肢を裂かれて中空へ浮かぶような格好となった。

「特殊鋼(ワイヤー)か……」

 ゴブリンの体は、闇にとけた見えない糸にギリギリとなお肉を裂かれ続けていたが、その体が完全に引きちぎられる前に、特殊な鋼の糸をくぐり抜けるようにして、カルはその場をあとにしていた。

 ゴブリンの体は両手・両足、そして首とが完全に切断されたあと――バカッ!!と開いた地下の墓場へと真っ逆さまに落ちていった。そこは強酸性の小さな池となっており、不運なゴブリンの亡骸は、すぐにも溶解して見えなくなった。もっとも、先を急ぐカル=スは、その緑の液体で満たされた不気味な空間を、わざわざ覗き見たりはしなかったのだが。

(助かったよ、ダーク・シュナイダー)

 敵の攻撃が、あまりにも定石的でたわいのないものばかりだったので、カルは道を間違えたかとばかり思っていたが、今の特殊鋼のトラップにより、自分がやはり正しい道……シェラが囚われているであろう場所へ向かいつつあるということを、カルは確信していた。

(それにしてもマカパイン、本当にシェラをさらったのはオマエなのか?どうしても私には、そうとは思えないのだが……)

 カルは再び分かれ道にでたところで、暫しの間迷いながら考えた。今度は道が左右だけでなく、目の前にも一本伸びており、そちらへ続く道へはアーチ型の大きな門がついている。普通に考えたとすれば、左右の土煉瓦で出来た今までと同じ通路より、誰もがそこを出口と考え押し開くだろう。

 だが、こうしたことはまったく、よくある罠(トラップ)のひとつであるというのも、よくあるお話である。しかしながらカルはやはりその、孔雀が対になって描かれた門扉を開き、通っていくことにした。

「<ブロン・ドーブ・セシオン……メイス!!【開門】>」

 ガチャリ、と錠の外れる重い音が響き、ギィと内側に扉が開かれると――そこは今までとはまったく違う、大理石で出来た厳かな神殿のような場所であった。

 カル=スは左右に並ぶ列柱の間から、今にも何かのモンスターが現れるのではないかと身構えたが、そのような気配はまるでなく、あたりはあくまでシーンと静まり返っている。だが、一度開錠したはずの扉が、再び不吉な音を立てて閉まった時……ギシャギシャという、奇妙な音が先の暗い空間からしてきた。

「デーモンか!?ということは、裏切り者はマカパインだけではなかったということになるな」

 魔界幻師、イダ・ディースナもまた、カルにとっては信任のおける部下であり、彼が裏切るということなど、カルにはまったく見当もつかないことであった。だが、シェラのことをさらった手際の良さから見ても――敵が極身近な存在だということだけは、カルにもよくわかっていたのである。

(私はいつの間にかそんなにも、彼らの厚い信頼を裏切っていたのだろうか?)

 二十数匹を越えるデーモンを前に、<絶対零凍破>(テスタメント)の呪文を唱えはじめながら、カルはなおも考え続けた。

「<ルーイ・エリ・グレ・スコルビリー。汝、黒き魂にて我れを清めたもう。おお、冥王よ。至高なるものの強き集いの内に、我れは死の凍嵐を身に纏いたり……>」

(何故だ。やはり私には、彼らが私に刃向かおうとする理由がわからない) 

 カルは、呪文の詠唱の邪魔となる雑念を払いのけると、最後の呪文の言葉に入った。

「今、新たなる契りによる、氷雪の力束ねん……絶対零凍破(テスタメント)!!!」

 蝙蝠の羽と曲がった角を持ち、顔に複数の眼がある赤銅色をした悪魔たちは、次々と氷漬けの柱となってその場に立ち並んでいった。相手のこうしたトラップの意図が、ここへ至るまでに自分の体力と魔力を消耗させるために仕組まれたものであろうことは、カルにもよくわかっている。

 軽く百匹はいるように見えた、ゴブリンやオークの群れには<雪狼轟咆覇(ワイ・アーンティ)>を幾度か放ったし、実際カル自身、思わぬことではあったが……彼は実はきのう、あまりよく眠っていないのだ。というより、ここのところ<リハイラ王妃の館>へ行くのが楽しみで、睡眠時間というものをかなりのところ削る毎日が続いていた。そのせいで、今ごろになってその蓄積された疲労に見舞われようとは、カルにとっては誤算としか言いようがない。

(もっとも、後悔だけはしていないのだがな)

 そう思いながら、デーモンどもが残していった鈍く銀色に光る球――それを祭壇の中央にカルは、力任せに投げつけた。そこに奉られた古代の神の神像が、途端に歪んで見えなくなる。そしてカルはこの時、はっきりとあることを確信していたのだ。

 つまり、この件を仕組んだ真の裏切り者が、一体誰なのかということを。



 >>続く……。。。





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