ライフ&キャリアの制作現場

くらし、仕事、生き方のリセット、リメイク、リスタートのヒントになるような、なるべく本音でリアルな話にしたいと思います。

115.猫が気づかせてくれたこと

2019-08-25 23:02:53 | 人、本、旅 日記
 近所の小さな寺に住み着いていた猫がいなくなった。誰かが拾ってきた野良猫だった。子猫の時からおよそ2年たっていたから、猫年齢は2~3才だった。この寺には、他に2匹の猫が住み着いている。年長の黒猫と、若い猫。年長の黒猫とあまり折り合いが良くないのか、黒猫がいないときに2匹が餌を食べ、仲良く昼寝し、時々じゃれ合ったりけんかしたりしていた。
 
 1年くらい前から、この寺にはいろいろな人が寄ってくるようになった。地元商店街の人や近所の子連れママさん。自転車整理係の高齢者や仕事中のサラリーマンが境内で一服していることもある。テレビの街ネタニュースで「猫のいる寺」として紹介されてからは、遠方から愛猫家らしき人々や観光客なども立ち寄るようになった。また、働いていないのか昼間行き場がないのだろうと見える人なども涼みに来ていた。老若男女。ただ見物に来たり、毎日餌をやりに来たり、スマホで写真を撮りに来たり。猫たちは人々から可愛がられていた。住職一家も猫たちの世話を毎日していた。

 そんな猫たちの一匹がいなくなった。おとなしくて、マイペースで、ほとんど境内から出ずに、大体いつも境内でゴロゴロしているか草陰で寝ているような猫だったので、かわいがっていた人たちは大いに心配した。近所を探し回った人もいた。皆、いつか帰ってくると待っていた。

 「猫を探しています」という写真入りの貼り紙が外壁に貼られて間もなく、住職のもとに猫はもう帰ってこないという知らせが入った。どこかで生きていると信じていた人たちは、ショックを受けた。号泣した人もいた。住職も涙をこらえた。残念な思いで気持ちが沈んだ。
 
 私は、もう帰ってこないと知った時、喪失感があった。泣いた人の話を聞いているうちに、悲しくもなった。いなくなって初めて、自分も猫たちに癒されていたとわかった。あたりまえと思っているささやかな日常も、当たり前ではないと気づいた。あたりまえのように自分の周りにある物、あたりまえのように周囲にいる人に、感謝の気持ちを忘れてはいけないと思った。

 「猫を探しています」という貼り紙は、しばらく貼ったままだった。皆の心のどこかに「猫違い」であって欲しいという気持ちがあったのだろうか、忘れたくない気持ちもあったのだろうか。猫を探しその名を呼ぶ人の声に、命を守りたいという思いを感じた。人それぞれの思い、良心、人情の一端を垣間見る出来事だった。今もいる若猫に「どこにも行くなよ。」と強く言いつける声には、慈しみの響きがあった。

 若猫は、いつものように餌をもらい、ゴロゴロしている様に見えるが、遊び相手がいなくなって寂しそうと話す人もいる。一方、境内には毎日餌をやったり見守ったりという役割が減って、寂しそうな人もいる。

 人もまばらになった境内に、ツクツクボウシが鳴き始めていた。

 

 


コメント
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