白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

初夢と神籤

2009-01-02 | 日常、思うこと
以下、初夢を、記す。





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落陽の時刻、空気は一面の黄河色であった。
終着の回転場へと向かう古い路線バスのなか、
僕はひとりノートパソコンを抱えて、右往左往の時を過ぎて
途方に暮れていた。
旅の途次、突如、ノートパソコンのキーボードの隙間から
泥水がちろちろと浸み出し始めて、
どうにも止まらなくなってしまっていたためである。





この怪奇としか言いようのない事変を前にして、
僕は手持ちのバスタオルやハンカチで必死に拭いたり
逆さに振り乱したり、を繰り返した。
しかし空しく、パソコンはとうとう泥を吐くのをやめる事無く
着ていたセーターやズボンはすっかり敗残の泥に汚れた。
悪戦苦闘も、キーボードの配列を区切る隙間も何もかも、
一切合財、微粒の泥で埋まってしまった。





僕はどうやら東京を食い詰めて、地方へ流れたものらしい。
いったいここへはどうやって流れてきたものか、
まるで見当もつかなかった。
車窓に見つけた沿道の標識には、山形県村上市、とあった。
しかし、起き醒めてから地図を眺めてみたところ、
そんな自治体は、この世に存在しなかった。





バスの席の傍らでは、乾いた泥が砂塵となって、
微風に巻かれ、ギターケースに降りかかっている。
僕はどうやらフォーク歌手、何とフォーク歌手であるらしい。
その余りの身の惨めさに、夢の中に迷い込んだらしき理性が
けたたましく嗤っていた。
けたたましいその声を、僕は聞いた。





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コンクリートの、打ち放しの車路が
波線を引いて下っていく終着の回転場の手前で、
路線バスは跨線橋を渡りおえたところで大きく揺れた。
思い返すと、道中は終始下りの坂道で、
乗客も始終ずうっと僕ひとり、
空しい徒労に疲れ果てたあげくの、泥だらけの風体で
いったいどの面下げて、この街に降り立てというのか、
終着して、僕は苛立ちからか荷物を窓から投げおとして
そのままバスを降りた。





辺りの黄色い路面には、僕の荷物が散乱していた。
ギターケースやバスタオルは乾いた泥に塗れていて、
時折、路面の砂塵がふわり、風に舞い上がった。
パソコンから浸み出す泥水は、いよいよ、がぶ、がぶ、と
恐ろしい水量となり、辺りに大きな水溜りを作り始めた。
そこへ、トレンチコートがばさり、水面に被さって、汚れた。
何だ、と、見上げると、路線バスの運転手が無言のまま、
車内に残っていた僕の荷物を窓から投げ捨てていた。





憤怒して叫ぶ間もなく、バスは排煙を大きく黒く吹き上げて
走り去った。
辺りが排煙の臭気に満ちて、僕は思いがけず嘔吐した。
吐き出したのは、真っ黄色をした泥水だった。





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よろめき、ふらつき、ぐるぐると、眩暈のする身体で、
僕は散乱している泥だらけの荷物をその場で選り分けた。
写真やCDや下着は、近くのゴミ箱にまとめて投げ込んだ。
泥だらけのコートやタオルをスポーツバッグにねじ込んで、
友の家へ向けて、やおら歩を進めた。
こんな惨めな思いはかつてしたことがなかった。
しかし、終末のバスの回転場で、泥だらけの風体で、
疲れ切った身体を襤褸切れのように引きずっているのでは
こんな街に住んでいられる友を訝しむほかに仕方がなく、
この現実虚実入り混じるなか、
悲しさも切なさも情けなさもなく、一切の感情を失って
僕は歩き出すより他がなかった。





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友は僕を家に入れなかった。
誘われるまま、僕は近くの公園へと歩いていった。
フェーン現象が起きていたらしく、空気は乾いて暑かった。
公園の水飲み場で、泥のついた服を洗うと、
友は着古した自分の服を、着替えだと言って、渡してくれた。





おそらくせがんだものだろう、
お礼だと、僕は友の前で、調律の狂ったギターを弾きながら、
代表曲だ、と言って、

満天の星 曇天の地

という、ゴミのような歌の、サビの部分を何度も繰り返し歌った。
着替えを恵んでもらったという恥ずべき現実にも気がつかずに、
こんなゴミのような歌を、
こんなゴミのような歌を歌い続けて、
友が去ってもなお気付かずに、

満天の星 曇天の地

と、歌っていた。





黄砂が消えて、眼が醒めた。





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雪降る中、ボルボを駆って、初詣に出かけ、
引いた神籤は半吉という、中途半端極まりないものであった。





神籤によれば、
今年は、この世の万事が安寧になるように祈り続けるほかに
術はない、という。
願い事は半分だけ叶うという。
また、訴訟沙汰や、大きな契約を行うには悪くなく、
縁談や転身にも、良い結果があるであろう、とのことであった。





また、今年は、南東に行けば良いことがあるそうであるが、
僕の家から見て、南東は、海である。







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