白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

Erstarrung

2009-12-20 | 日常、思うこと
この1カ月ほど、身体の調子がおもわしくない。
頻度の高い順でいうと、頭痛、胃の痛み、胸の痛み、
眩暈、腹痛やそれに伴う諸症状、アレルギー性の鼻炎、
手足の痺れ、悪心、動悸、といったところなのだが、
突然の発熱と、のどの痛みと関節の痛みが加わって、
12月の初旬に、とうとうダウンしてしまった。





幸いにして、インフルエンザに罹ってはいなかった。
しかし、身体の不調はこころに直接に響くばかりでなく
仕事や生活にも否応なく影を差し込んでくるのがつらい。
あらゆる事柄を見つめる眼も、受け止めるこころも
考える力も、活動の何もかもが低空で安定してしまう。
墜落していても、気がつかないかもしれない。





会社を数日休んでいる間は、薬とユンケルを飲んでは
眠るということを繰り返していた。
それでも、何か食べなければ生きていられない。
そんなときに限って、冷蔵庫にも収納にも、食材がない。
仕方がないので、後楽園の成城石井へ歩いて出掛けた。





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夜のラクーアはクリスマス・イルミネーションに彩られ
集うカップルや家族連れ、友人同士や旅行客のグループを
万華鏡のなかの綺羅星のように照らしている。
虹色の子供たちが回転木馬に跨って鏡の湖面を駆けている。
カップルが嬌声をあげながら、星空に敷かれたレールを
超高速で走り抜けて、星座の線条を下書きしている。
そんな中、重く熱っぽい身体を地引網でも引くように、
人ごみのほうへ、ひとりずるずる歩いていくと、
トレンチコートとマフラーとマスクという異様な風体の
大男を皆が避けたせいか、ひとりでに道が出来た。





ひととおりの買い出しをして帰宅した後、
さあ、なにを作ろうか、どうせなら栄養のとれるものをと
思案したあと、肉と野菜の味噌炒めを作ることにした。
しかし、発熱のせいで、思考能力が落ちていたせいだろう、
フライパンを火にかけて油を十分に熱した後、なぜか、
先に味噌を入れてしまった。
当然、強烈な焦げの臭いと煙が立ちのぼった。
これはまずい、はやく料理酒で溶かしてしまわなければ、
と、すばやく料理酒の瓶を手にとってそれを注いだ先は、
フライパンではなく、コンロだった。
眼の前に、巨大な火柱が立ち上った。





よく火災報知機が作動しなかったものだと思う。
そして、よくその場で火を止め、フライパンを動かさずに
アルコールの揮発を待てたとも思う。
けれど、眼の前の、すっかり炭素と化した味噌や、
融けたパックやラップと一体化した豚肉を見て、
すっかり料理をする気を失くしてしまった。





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都会での独り暮らしの身にとって、病んだときは本当に心細い。
不安感や寂しさもいや増しになる。
こういうときに、恋人や友人、知人を頼れればいいのだろうが、
恋人はいないし、大学時代と違って、友人、知人は仕事があり
彼らの多くにはもう家庭がある。
それに、こころの話も、すべきではない。
何より自分に起因するものごとの助けは、求めてはいけない。
だから、誰にも頼ることはしてはいけないし、許されない。





本当ならば、この12月は世間では忘年会の季節なのだろう。
今年は、職場の忘年会を体調の不良を理由に断ったせいで、
12月の予定を全く空白に過ごすことになった。
そういえば、かつての友人や知人はどこかで集まったり
会食をしたりしているのだろうか。
東京には相当な数のそうしたひとびとがいるのだが、
彼らの生活の邪魔はしたくないので、どうも声をかけづらい。
そういえば先月、大阪を訪れた折、南海高野線に乗っていて
「こんな遠くから、高槻にまで来てくれていたのか、と思って
思わず、少し遠くの空を眺めた」と記したひとは、
ほぼ時を同じくして、挙式を済ませ、名前を変えたそうだ。





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そんな昨日のこと、大学時代の後輩のエリントンが
会社の同期の結婚式のために上京してきた。
そして、誘われるがままに赤坂へ出かけ、
何年ぶりかの再会を祝した後、
赤坂サカスのベルギービールの専門店へと入り、
途中から合流してきたBIFF氏と、小さな忘年会をした。





BIFF氏と別れたのち、新宿二丁目のゲイバーに向かうも
満席とのこと、そのまま花園神社を抜けてゴールデン街、
歌手の渚ようこの経営する「汀」で軽く飲んだ後、
歌舞伎町の「ラーメン二郎」で締め、
エリントンをタクシーで赤坂のホテルへ送った。
誘ってくれたことに感謝。





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来年1月、22日~24日、大阪に行くことになった。
決してみじめな思いをしに行きはしない。





「病気は、ある点では、身体的妄想である。
 しかも、固定観念であるとみなされなければならない。」

                 (ノヴァーリス)





シューベルトの「冬の旅」を毛布に包まって聴いている。

http://www.youtube.com/watch?v=zkP4H2WdSiY

それにしても、凍るように寒い。
また少し、熱が出てきた。





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