白河夜舟

水盤に沈む光る音の銀砂

e.s.t

2008-06-18 | 日常、思うこと
エスビョルン・スヴェンソンの訃報は衝撃的だった。





僕が彼の名を知ったのは大学時代、ジャズサークルに
入り浸って、生意気かつ迷惑な講釈と後輩との酒宴、
自分の結成したピアノトリオでの音楽に明け暮れて
いたころである。
当時、僕はブラッド・メルドーの演奏に浮かび上がる
「理」の固定的なありかたに違和感を感じていた。





そんな折、たまたまタワーレコード梅田店のジャズを
取り扱うブースにたまたま足を踏み入れたとき、
かのキース・ジャレットがスヴェンソンの主宰する
ピアノトリオ、「e.s.t」の音楽を激賞したとの宣伝を
目にした。





試しにと、Strange Places For Snow というアルバムを
購入し、帰宅して再生した。

ドラムンベースやユーロビートなどのロック・ポピュラー
ミュージックに根ざしたリズム、
クラシックの音楽理論に根ざした巧みな旋法処理、
特殊奏法やエフェクトやサンプラーの多用による斬新な
音響効果など、独自の方法論に依拠しつつキャッチーで
明快なその楽曲のつくりかた、
そのどれもが僕がおぼろげながらに試みてみたいと思い、
それを実現できないでいた演奏のしかたに通じていた。
「理」に溺れて独善に陥ることなく、「知的な児戯」を
音の現場に見事に達成していた。
やられた、と思った。





以来、新譜が出るたびに、e.s.tのアルバムを購入した。
前職時代にキョードー大阪に出入りしていた時、専務と
e.s.tの話になったこともある。
一度、ライブを見てみたい、と思いながら、折り合いが
悪く、ずっと見ることが出来ないでいた。





メディアからの情報では、スウェーデンのピアニスト、
エスビョルン・スヴェンソンは、6月14日、
ストックホルム郊外でスキューバ・ダイビング中に
不慮の事故により急逝した。
44歳だった。





彼の演奏を間近で聴けなかったことに対する悔しさは、
ミシェル・ペトルチアーニの演奏を間近で聴けなかった
悔しさと質を同じくする。
残念でならない。





批評を介在させる間も与えずに、聴衆を無心のままに
魅了することのできるピアニストだった。
冥福を祈る、という言葉を紡ぐ間もなく、悔しさが
湧き上がるばかりだ。





残念でならない。
下に、「e.s.t」の代表曲の動画リンクを掲載しておく。
永久にもう生み出されることのない音である。





http://jp.youtube.com/watch?v=Ew0Hs7-hX6E

http://jp.youtube.com/watch?v=B_VSA8BbDBE

最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (fun-dub-mental)
2008-06-19 02:27:07
僕がこのトリオを知ったのはだいぶ遅いのですが、まさに絶妙。次世代ジャズといわれるようなものが溢れかえっている中でなんとしても生で感じてみたいと思う唯一のバンドでした。そのピアニストが。。。

残念ですね。リンクありがとうございます。目を閉じて聴いてみます。
返信する
Unknown (lanonymat)
2008-06-19 21:31:53
ジャコ・パストリアスのような、言ってみれば
ずっと持続的な「緩慢な自殺」を続けた果ての
死ではないがゆえに・・・本当に、突如として
断ち切られた、という感が強いのです。

見聞きすればとても身が持たないようなことが
最近いろいろ積み重なっていて、このままでは
崩れていく、という不安が募っていたところへ
この知らせでした。
縁もゆかりも、わが事でもないにもかかわらず
本当に悔しく、やりきれず、痛恨の思いです。
返信する

コメントを投稿