京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

涼しそうだということは即涼しいということ

2022年07月01日 | 日々の暮らしの中で
一日早く水無月の菓子をいただいたけれど、無事に過ごせた半年を有難いことと喜ばせてもらおう。残る半年、やっぱり健康第一に考えて、そのうえで楽しみを見つけながら暮らしたいものだ。

盆月は例年見送っているが、今月はお講さんをたきたいという声が届いていた。尼講さんはみな高齢なのに、どこからもなんとも言ってこない。
(おくどさんで鉄鍋に味噌汁を炊くの!?)と猛暑の中の火焚きに心の内は穏やかじゃない。仏さんのお花だって暑さでもたず、立て替えなくては見目が悪い。堂内も小ぎれいにして…。あっつい!

午前中、当番さん3人が分担した野菜を持ち寄って、みそ汁の具を刻み始めた。
本堂脇の玄関を上がってもらった6畳ほどの座敷は、戸や窓を開放して南北に風の道を作る。境内の砂利の照り返しを和らげようと簾をかけた。水を打って、扇風機を回し、冷たいお茶で迎えた。


ちょうど開く機会があった杉本秀太郎さんの『半日半夜』に収められた「夏涼の法」での言葉を借りる。
「京都人の夏涼の法は、…一種の見立ての方式にもとづいている。涼しそうだということは即涼しいということだと考える。」
住まいの夏物への衣替えに始まり、夏越の祓には氷に見立てた和菓子の水無月。腹に求肥の鮎の和菓子も見た目涼やかで、まさにこれから。まっ白な鱧の切り落としは祇園祭と重なる。暑い夏を乗り切る様々な知恵を私たちは先人から受け継いでいる。
氏は「涼しいという見立ての式を信じていなければ、所詮は効用なきに等しい」と続ける。

市中にある氏の住まいは、落日の時間を追うごとに、北山からの涼しい風が家の奥深くまで入るのを感じ取っておられた。軒が低く、間口よりずっと奥行きのある町家の暮らし。およそ50年前のことで、高いビルやマンションも建った今はどうなのかしら。
夫人の千代子さんは、長い間京の町家の裏方を預かり、涼感を大事に、伝統を守り次代に伝えようとされている。秀太郎氏と同様に、京の家屋は「夏を旨とすべし」と語られていた。

我が家の庫裏も、軒が低く奥へ長いなど造りに似た部分はある。何度も打ち水をし、なかばやせ我慢もありだが、「涼しそうだということは即涼しいということ」と捉える心性は、暮らしに工夫を凝らす形で代々の女に継がれ、義母から私と継いでいる。


「家より本堂の方が涼しいさかい」
冷房はなく、南や西を開け放ち、扇風機を回す本堂なのに。
そんなわけで酷暑のお講を開くことになった。白米は各自持参なので、明日のご馳走は味噌汁と漬け物。無事に済ませたい。
後ろに前に、ほとけさんがいてくれてはりますさかい。本堂という場所が持つ特性。無事終わりますように。

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4 コメント

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おはようございます (siawasekun)
2022-07-02 03:26:03
素敵なショットと解説から様子、雰囲気などが伝わってきました。

ご紹介、ありがとうございました。

いろいろ情報交換できる、ブログでのコメント交流、いいものですね。
応援ポチ(全)。
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可愛いお小僧さん! (Rei)
2022-07-02 10:53:12
本堂のひんやり感は私も知っています
実家のお寺(菩提寺)で毎年「お施餓鬼」で体験しました。
桶狭間にあり長福寺の境内には今川義元の「首塚」もあり
数々の遺品も残っています。
この数年は失礼していますが。
夏の暑い京都では、昔から涼を呼ぶ工夫が伝統的に
今も残っているとテレビで知りました。
和菓子も季節季節のものがあり
そこからも涼を感じるのでしょう。
我が家は玄関マットを籐製に変える、それだけです。
返信する
siawasekunさん (kei)
2022-07-02 20:46:48
お訪ねいただきありがとうございます。

私もつい最近もウグイスの声を聞きました。
姿を見かけることはありません。
猛暑の中で、慰められます。
返信する
涼を呼ぶ工夫 Reiさん (kei)
2022-07-02 20:58:51
「それだけ」とはおっしゃいますが、そのお気持ち、心配りが何よりの事なのですよね。

昔ながらに冬季はストーブに火鉢で暖を取ります。
夏は、明け放しますから意外に涼しく、奥へ深いですから日差しは届かず、
「ひんやり感」はありますね。
吹き抜ける風のやさしさ。仏さまがおいでか?と。
信じる云々ではなく、そんな感じを楽しんで。
我慢できるくらいの暑さは、夏なのですから(笑)

由緒あるお寺さんですよね。
歴史を知っていると拝観もまた楽しいでしょうね。

今日も暑かったですわ。
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