京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

「カキダシスト」

2019年04月18日 | 日々の暮らしの中で

1年前に始まり、この2月に終わった新聞の連載小説は、江戸時代後期の石見銀山を舞台にした澤田瞳子さんの『輝山』でした。

幕府から密命を帯びて石見にやってきた下級役人の金吾は代官所の中間として働き始めます。いろいろな人達の人生がつながっていく多彩な人間ドラマ…。友人が毎回楽しみに読んでいると言っていたのに、私はせっせと切り抜くばかりで1年余、ためにためて今読み始めたところです。まとめて読もう、と思っただけだったのですが。そして32回目まで、楽しんでいる。

 「代官所御門脇に居並ぶ男たちの袂を、強い北風がしきりにはためかせている。」と始まります。
 
    

 「大晦日のその夜、私は、ゆっくり湯につかりながら、慌ただしく過ぎた一日をおもいかえしていた」。

これは、佐伯一麦さんの新人賞受賞第一作の冒頭だそうだ。これを読んだ先輩作家に、「君ね、書き出しぐらいは、もう少し考えたほうがいい」とアドバイスされたという。書き出しが下手な例だ、と佐伯一麦さんが自ら書いておられた。
また、宇野浩二は芥川賞随一と言われるほど辛口選評をしたようだが、書き出しのうまい作者を〈カキダシスト〉、結びのうまいのを〈キリスト〉と分類したことを教わった。(『月を見上げて』)

読み手としては、文章のリズムが自分と合わなかったり、何かしら引っかかってしっくりせず、作品の世界に入り込めないということはある。
どう出発するか。やっぱり書き出しは大事…。



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