地図のいろいろ

半世紀も地図作りに携わっていましたので、この辺で振り返って地図を見直してみようかな~・・・。

変形地

2008-01-19 16:58:54 | Weblog
変形地は等高線で表現できない、例えば雨水などにより侵食された地形とか、岩などの露出した状況を絵画的に表したものです。

等高線の線の太さは、主曲線が0.1mmですので、1:25,000図では2.5mの太さに成ります。10mごとの高さで等高線が表されていますので、2.5m歩いて10m登る急坂では等高線の間隔はゼロで、隙間がなくなります。等高線ではひょうげんできません。
10m歩いて10m登る坂は勾配は45度ですから、0.2mmの隙間が空きますが、肉眼では殆ど判別できません。これも、等高線では表現できそうもありません。
だいたい、地質により違いますが、30度以上の勾配では、地形が正常に保たれず、「がけ崩れ」の状態になるようです。
従って、変形地の記号表現が必要になるわけです。

現在の1:25,000図の変形地の記号は「昭和61年図式」で、非常にシンプルなものになり、登山者には余り親切ではないのでは・・・?

以前の「大正6年図式」(大6・・・終戦前の記号)では、「頽岩」「露岩」「散岩」「崩土」「流土」「雨裂」などに分類されていました。

「崩土」:土砂が崩壊して生じた崖で、よじ登ることが出来ないところ。
「流土」:表土が雨水によって流出した崖で、「崩土」の規模が小さいもの。
「露岩」:岩石の一部が露出しているもので、岩場となっていて登るのが困難なところ。
「散岩」:地表に散在する岩石で、一般に歩行困難な場所。
「壁岩」(岩崩れ):岩石が崩壊して崖になっているところで、登ることが出来ない所。
「流岩(溶岩)」:火口から流出した溶岩流で、登りにくいところ。
「流砂」:傾斜が砂地のところで、登りにくいところ。
「雨裂」:雨で谷が深くなっていて横切るのが難しいところ。
などの細かい表現がしてあり、登山者には便利な情報でしたが、
 
現在の「昭和61年図式」では、
「岩」と「がけ(岩)、(土)」だけの分類表示になりました。
「がけ」も、 高さ3m以上で、かつ長さ75m以上のものを表示しているだけです。登山者にはこれでいいのかな~?

なお、ある限られた部分だけがへこんでいる地形を「おう地」「小おう地」として表現しています。
等高線の短径が、図上3mm以上のものを「おう地」、図上3mm未満のものを「小おう地」としています。
それに「万年雪」が加わりました。
ま、この辺は進歩でしょうが・・・


本来、地形図は陸軍参謀本部が軍事用に作っていたので、歩兵が登りにくいところの表示に力を入れていました。
戦後、平和目的に地形図が使われるようになって、そうした配慮が省かれ、登山者にとっては、余り役立たない地図に成ったように思いますが・・・。