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伊勢崎市議会議員 多田稔(ただ みのる)の明日へのブログ

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シャインの組織文化論とキャリア・デザイン

2007-05-23 21:14:06 | デザイン  (キャリア・デザインも含む)
本日のブログでは、
組織の持つ文化と、その中で、
意識的あるいは無意識のうちに、
さまざまな影響を受けている、職員個人に目を向けます。

自治体職員の意識改革の問題は、
組織の人材マネジメントとして捉えるだけでなく、
職員個人の問題としても考えることが必要です。
なぜなら、「職員の意識改革」とは、
まさに人任せではなく、職員が自分自身の問題として
主体的に取り組む必要があるからです。

1 組織文化論
マサチューセッツ工科大学(MIT)名誉教授の
E・H・シャイン(1989)は、
文化を、個人や集団の行動、認識方法、思考パターン、
価値観を決定する強力で潜在的な一連の力と考え、
次のように定義しています。

「ある特定のグループが外部への適応や
 内部統合の問題に対処する際に学習した、
 グループ自身によって、創られ、発見され、
 または、発展させられた基本的仮定のパターン
 
 -それはよく機能して有効と認められ、
 したがって、新しいメンバーに、
 そうした問題に関しての知覚、思考、感覚の
 正しい方法として教え込まれる。」

また、シャイン(2004)は文化には、
非常に可視的なものから、暗黙の目に見えないものまで、
上図のように3つのレベルがあると主張します。
     
レベル1は、文物(人工物)です。
これらは建物や、メンバーの明白な行動パターンなどであり、
部外者にも容易に観察できます。

レベル2は、標榜されている価値観。
グループ内で共有されている
「どうあるべきか」という感覚を反映しています。

レベル3は、背後に潜む基本的な仮定です。
これは組織の中で繰り返し有効に機能した信念や価値観が、
組織の歴史の中でグループ員に共有され、
当たり前のこととなり、組織の中では、
そのような価値観が「世の中の常識」となり、
成功を収めるための「暗黙の仮定」となるのです。

このような仮定は、繰り返し機能するため、
いつか、当然のことと考えられ、
やがて意識にものぼらなくなります。

この基本的仮定がグループ内で強く保持されれば、
そのメンバーは、他の前提に立った行動など
想像もできないのです。

このレベル3の基本的仮定が、レベル2の価値観や、
レベル1の顕在的な行動などを規定しているのです。

「組織文化」と似た概念で、
「組織風土」や「企業哲学」などがありますが、
シャイン(1989)は、「組織文化」とこれらのコンセプトを
混同してはならないと述べています。

なぜなら文化は、
これらのものより一段下の層で機能しており、
これらのものを決定する上で大きな力を振るうからです。

以上が、およそシャインのする組織文化の機能と、
組織文化レベルの3層構造です。

近年、地方自治体においては、
制度改正により成果主義を導入し、
スローガンとして顧客主義やスピード対応などを掲げても、
なかなか実際の職員の行動が改善しない現状を考慮すると、

シャインの主張する、
組織文化論の3層構造を使用して分析することが
有効ではないかと考えられます。

つまり、自治体において、
レベル1に該当する制度やスローガンなどを改めても、
レベル2の価値観、
あるいはレベル3の基本的仮定が改まらないため、
職員の行動が変化しない、という構造が考えられるのです。

2 キャリア・デザイン 
横浜市の「職員仕事満足度調査」(H17年12月公表)では、
仕事を通じた自己変革については、
79%の職員が「市役所の職員として誇りと使命感を感じる」、
75%の職員が「仕事を通じて成長している」、

69%の職員が「仕事にやりがいや意欲を感じている」、
66%の職員が「市民満足度向上に貢献できている」と回答ています。

多くの職員が仕事を通じて自分の成長や満足感を感じており、
職員の仕事に対する意識改革には、
「キャリア・デザイン」の概念からのアプローチが
有効と考えられます。

職員に「キャリア・デザイン」の概念を理解させることで、
より積極的な仕事への取組や自分の将来構想が
描けるようになるのではないでしょうか。

筆者のヒアリング調査(2006)において横浜市の担当者は、
「市職員においても最近の若い世代は、
『その組織に勤めることで、エンプロイアビリティが
 どう高まるか、キャリアにどうプラスに働くか』
 を考える傾向が強い。」と語っています。

組織の側がキャリア・デザインの概念を教えるというより、
すでに若い世代は「キャリア・デザイン」に基づいた
行動をとっているのです。
   
地方分権法が成立するまでの地方自治体は、
「中央集権」の基本的仮定(シャインの文化レベル3)
の上に成立していました。

そのため地方自治体職員には、
国に言われたことを正しく行うというコンピテンシーが
強く求められてきました。

職員は、終身雇用と年功序列に身をゆだね、
一生組織に面倒を見てもらう代わりに、
仕事の意味や、何をやりたいかなど深く考えず、
ひたすら言われたことをやる、

という意識であったと考えられるので、
これまで「キャリア」は組織に丸投げ、
「キャリア・デザイン」は空白状態だった、
と言えるでしょう。

しかし、
時代は中央集権から地方分権へと変わり、
地方自治体にとっては、存在基盤の大変革、
まさしく地殻変動が起こったのです。

行政課題は国が見つけてくれるのではなく、
自治体自身が、そして職員自身が
見つけ、そして解決方法を考えなくてはなりません。

それに対応するために、
自立型組織と、自立型職員が求められているのです。
多くの自治体で組織体制はピラミッド型から
フラット組織へ変わりつつあります。

しかし、高橋(2001)によれば、
見かけの組織図の階層をいくら減らしても、
職員が自立していなければ、
本当の意味でのフラット組織ではありません。

では、職員の自立とは何か。
地方分権という新たな基本的仮定から求められる
自治体組織と職員の関係は、組織丸抱えの従属関係ではなく、
自立した職員と組織の対等の関係なのでしょう。

個人が組織と対等関係となり、
主体的に仕事に取り組もうとするならば、
シャインの文化レベル2の「価値観」の層において、
「個人にとって仕事とは何か」という問いが生じるはずです。

この新たに個人に与えられた課題について考えることが
「キャリア・デザイン」なのです。

整理すると、
自治体において「中央集権」から「地方分権」へと
「基本的仮定」(シャインの文化レベル3)の一部が変化。

それを受けて地方自治体は、
「文物(人工物)」(文化レベル1)にあたる、
組織制度改正や、マネジメントツールとして目標管理制度などを導入。

しかし、中間レベルの「標榜されている価値観」において、
職員の自立を支えるはずの「キャリア・デザイン」が
職員の意識に欠けているため、制度は変わったが、
職員意識は旧態依然のまま
-という構図が推測されるのです。

これ以外にも職員が意識改革できない理由はあるでしょうが、
職員の意識に「キャリア・デザイン」が欠けていることの影響は
非常に大きいと考えます。
なぜなら、これなしでは中央集権時代のように、
言われたことをやるだけの意識のままだからです。

また、
「自分にとっての仕事の意味を考えること」
つまり
「キャリア・デザイン」の概念は、価値観が変化したというより、
職員にとって従来の価値観の中で「空白」だった部分
と考えられるので、公務員にとっては、
「欠けている」という認識を持つことさえ困難なようです。

なぜなら、公務員のキャリア研修の場では、
「公務員は自分で異動先や仕事内容を決められないのに、
なぜキャリア研修する必要があるのか?」
という質問がたびたび出てくるからです。

(参考文献)
E・H・シャイン(1989)「組織文化とリーダーシップ」ダイヤモンド社
E・H・シャイン(2003)「キャリア・アンカー」白桃社
E・H・シャイン(2004)「企業文化-生き残りの指針」白桃社
高橋俊介(2003)「キャリア論」東洋経済新報社
多田稔(2006)「公務員の意識改革-組織文化の観点から」三菱総合研究所『自治体チャンネル』No.83
横浜市(2005)「職員仕事満足度調査」
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