
(ゲーム理論)
日本国の借金は対GDPで比べると
ギリシャよりもはるかに悪い状態です。
それなのに、
「なぜ日本国債は暴落しないのか?」
と質問を受けました。
いろいろな要因があると思いますが、
ゲーム理論を使って考えて見ます。
「ゲーム理論」は、れっきとした学問です。
「相互作用を及ぼしあう複数、又は単独の主体の振る舞い」
に関して研究する応用数学の一分野で、
あるルールのもとで各プレイヤーがとると考えられる
最適な行動の組合せの解を求める理論です。
(囚人のジレンマ)
ゲーム理論の中で一番有名なのは、
「囚人のジレンマ」と呼ばれるケースです。
囚人は、お互いに協調すれば
一番よい結果になる事がわかっているのに、
裏切りあって損をしてしまうというジレンマです。
<問題>
共同で犯罪を行った思われる容疑者A,Bを自白させるため、
警官は2人を別の部屋に分けて、それぞれ次の条件を伝えた。
もし、2人とも黙秘したら、2人とも懲役2年。
しかし、1人だけが自白したらそいつはその場で釈放し、
自白しなかった方は懲役10年だ。
ただし、2人とも自白したら、2人とも懲役5年だ。
なお2人は、双方に同じ条件が提示されている事を
知っているものとします。
容疑者A,Bの行動と懲役の関係は下表のとおりです。

<解説>
容疑者2人にとって、
互いに裏切り合って5年の刑を受けるよりは、
互いに協調し合って2年の刑を受ける方が得である。
しかし囚人達が自分の利益を追求すると、
互いに裏切り合うという結末を迎える。 これがジレンマです。
このジレンマが起こるのは以下の理由です。
まずAの立場で考えると、
1 Bが「協調」を選んだ場合、
自分(A)の懲役は2年(「協調」を選んだ場合)か、
0年(「裏切り」を選んだ場合)だ。
だから「裏切り」を選んで0年の懲役になる方が得だ。
2 Bが「裏切り」を選んだ場合、自分(A)の懲役は10年か、5年だ。
だからやはり「裏切り」を選んで5年の懲役になる方が得だ。
以上の議論により、Aにとっては、Bがどのような行動をとるかにかかわらず、
常にBを裏切るのが最適な選択と言える。
しかし、それはBにも同じ事が言えるので、BもAを裏切る事になる。
よって実現する結果は(裏切り, 裏切り)となる。
重要なのは、相手が黙秘しようが裏切ろうが関係なく、
自分は裏切ることになるという点です。
(国債のゲーム理論分析)
日本国債について、次の二つの場合について整理しました。
国債市場が安定している場合と、
国債の暴落が始まりそうな場合です。
ゲーム理論に当てはめるために、A銀行と、
その他の国債保有者との関係で考えます。
A銀行は左側で、他者Bは右側とします。

まず国債が安定している場合は、各投資家は今の状態で
最適になるように動いているはずなので、
左上のAも、Bも10である状態と考えられます。
次に、国債市場が安定して、かつ
Bが保有し続けているB1戦略のときに、
Aだけ国債を売却(A2)すると、Aだけが損をします。(8,10)
同様に、国債市場が安定しているのに、
Bだけが国債を売却(B2)するとBだけ損をします。(10,8)
最後に、国債市場が安定しているのに、
AもBも国債を売却すると、国債暴落のきっかけになりかねません。
その場合は、AもBも丸損なので(0,0)状態となります。
以上のことから、
国債市場が安定している、と関係者が考えている間は
だれも売却という行動をとりません。

これは、国債の暴落が始まりそうな場合です。
左上は、AもBも国債を保有し続けたまま
暴落が起こってしまうケースです。
大損害を受けます。(0,0)
左下は、A銀行だけ先行して
国債を売り抜けた場合です。
多少損をしますが、丸損ではありません。(8,0)
右上は、Bだけが先行して
国債を売り抜けるケースです。(0,8)
右下は、暴落前にAもBも
国債を売り抜けた場合です。
かなり損をしますが、丸損ではありません。(2,2)
以上のことから、
国債がまもなく暴落する、と関係者が判断した場合は、
互いに誰よりも早く国債を売却しようとします
(ナッシュ均衡)
ゲーム理論において、
他のプレーヤーの戦略をこちらがコントロールできない場合、
どのプレーヤーも自分の戦略を変更することによって、
より高い利得を得ることができない場合は、
お互いに手詰まりとなり、市場の動きは均衡します。
これを「ナッシュ均衡」といい、
この条件の下では、どのプレーヤーも
戦略を変更する動機付けを持ちません。
つまり、
「国債市場が安定している」と関係者が考えている間は、
他者が戦略を変更しないのに、自分だけ戦略を変更することは、
自分の利潤がマイナスにしかならないのです。
それゆえ下表では、
どのプレーヤーも左上のマスにとどまったまま、
金縛り状態になっているのです。

これが、ゲーム理論により分析した
日本の財政がギリシャよりも悪いのに
日本国債が暴落しない構造です。
(いつ暴落モードになるか)
市場が「国債はまだ安定している」と考えている間は、
「ナッシュ均衡」により、どのプレーヤーも
現在の戦略を変更できません。
しかし、
「まもなく国債が暴落する(かもしれない)」と、
市場関係者が感じ始めたら、少しでも早く売り抜けることが
自分の得になりますので、われ先に売りが始まります。
このように考えると市場関係者は、
「なにをもって国債が危ないと考えるのか」が
重要なポイントなのです。
現在のところ私が考える
重要なターニングポイントは次の2つです。
1 史上最低レベルにある利率の国債を買うよりも、
もっと有利な投資先が出現すること。
2 国債を買い続けるための余剰資金が国内で枯渇すること。
<1の説明>
個人でも、銀行や生命保険会社などの企業でも、
国債を購入するのは、その利息をあてにした投資です。
現在、日本では不況が続いていますので、
国債以外に有望な投資先がありません。
それが銀行や生保、証券会社などが、
こぞって国債を買っている理由です。
もし今後、
国債の利率よりも有利な投資先が出現した時は、
当然のことながら国債を売却し、そちらへ投資が移ります。
<2の説明>
たとえ1に挙げた環境が続いた場合でも、
国内にあるお金は有限です。
毎年国が販売している国債は、新規発行分だけでなく
莫大な借り換えの国債も買ってもらっているのです。
日本の国民と、企業が、
総力を挙げて国債を買い続けても、
いつかは買うお金のほうがなくなります。
マクロ経済的に考えると、
あと3年くらいが限度ではないかと考えています。
<インフレの場合>
インフレの場合は、1に含まれます。
自民党の安倍総裁は、建設国債をすべて日銀に買ってもらえとか
インフレターゲットを定めて強力にインフレ誘導せよ、
と主張しています。
そのとおりにインフレになった場合、もしくは、
市場関係者がこれからインフレになると信じた場合、
公定歩合をはじめとした利率は上昇します。
株価が上昇する場合は、
ほとんど利息のつかない国債に投資するよりも、
株などを買ったほうが良いからです。
その場合、国債の利率が低いままだとまったく売れないので、
国債の利率も上昇を始めます。
新規発行される国債の利率が上昇すればするほど、
過去に発行された低利率の国債は、
その利息分だけ取引価格が下落します。
つまり保有している国債の評価損が発生します。
インフレが強烈であるほど、金利も上昇しますので、
それに連動して国債の評価損が大きくなります。
安倍発言は、国債暴落の引き金になりかねないのです。
安倍さんはたとえ国債が暴落しようとも、
インフレになればよいと確信犯的に考えているのか。
もしそうならば、ある意味ものすごい決意と信念です。
それとも、国債の事はまったく考慮せずに、
「景気が良くなる=インフレ」と単純に考えているだけなのか。
もしそうならば、、、、、。
(11月25日追記)
暴落モードに変わる重要なターニングポイントをもう一つ追加します。
3 ソブリンリスクが高いと判断された場合。
「ソブリンリスク」とは、
国債等の返済が約束どおりに行われるかという信用リスクのことです。
近年は先進国であっても財政赤字や公的債務残高が多ければ、
リスクが高いとされ国債の格付けが低下します。
先に上げた1と2の条件がクリアされていても、
国の返済能力そのものに大きな疑問が生じた場合は、
国債は買われなくなるでしょう。
<怖いのは税収と利払いの逆ザヤ>
ソブリンリスクが高まる要因は色々あるとおもいますが、
その一つは「税収」と「国債の金利合計額」のバランスです。
現在は、 (税収>利払い) の状態ですので、
過去の借金は返済は進んでいませんが、
国債の借り換えを繰り返して自転車操業的に首がつながっています。
今年度の政府予算における「新規」の国債発行額は44.2兆円です。
しかし、借り換えなどを含めると国債の発行は総額で174.2兆円。
国の年間予算が100兆円程度なのに、
一年間で国が売り切らなければならない国債が、174.2兆円!
現在の国債の金利は史上最低ランクですので、
(税収>利払い) の状態となっています。
国債の発行額が増える、あるいは国債の利率が上がると、
逆ざや(税収<利払い)になりますので、
国は国債の借金を返す原資が足りなくなってしまうのです。
この一線を越えてしまうと、ソブリンリスクが高まりますので、
国債市場関係者が「国債が危ない」と考える
ターニングポイントの一つになるのではないかと危惧します。