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「子どもに関しては楽観しない方が良い」鹿児島大・秋葉教授「小児の放射線被ばくと健康への影響」を聴いて

2012年07月04日 | 東日本大震災・原発事故
鹿児島大学・秋葉澄伯教授の小児の放射線被ばくに関する講演を聴いてきました。
ネット上では御用学者のリストにも名前が載っているのでどうなのかと思っていましたが、低線量被曝に関しては「証拠がないことは影響がないことを必ずしも意味しない」と一貫して慎重な姿勢を示し、3.11以降の専門家の乱暴な発言が混乱をもたらし学者への信頼を失わせたと批判していました。

がんや遺伝的影響以外の放射線被曝の健康影響については白内障などを除いて殆ど触れられませんでしたが、この講演を聴く限りでは「安全側」の御用学者とは一線を画しており、なぜリストに載っているのか根拠が希薄であると思われました。

以下、講演メモの中からポイントと思われる点だけを抜粋しますが、あくまで備忘録としてのメモであり、秋葉氏の意図と異なる可能性があることをおことわりしておきます。

2012.6.30 青森県小児科医会総会・講演会
「小児の放射線被ばくと健康への影響」
鹿児島大学 秋葉澄伯教授

秋葉教授が「ショッキングなデータ」として紹介した最新の「CTによる白血病と脳腫瘍増加」の論文。
まだ全文に目を通していないので、SummaryのFindingsの部分だけ引用しておきます。

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Radiation exposure from CT scans in childhood and subsequent risk of leukaemia and brain tumours: a retrospective cohort study
Mark S Pearce
The Lancet, Early Online Publication, 7 June 2012
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960815-0/abstract

Findings
During follow-up, 74 of 178 604 patients were diagnosed with leukaemia and 135 of 176 587 patients were diagnosed with brain tumours. We noted a positive association between radiation dose from CT scans and leukaemia (excess relative risk [ERR] per mGy 0.036, 95% CI 0.005―0.120; p=0.0097) and brain tumours (0.023, 0.010―0.049; p<0.0001). Compared with patients who received a dose of less than 5 mGy, the relative risk of leukaemia for patients who received a cumulative dose of at least 30 mGy (mean dose 51.13 mGy) was 3.18 (95% CI 1.46―6.94) and the relative risk of brain cancer for patients who received a cumulative dose of 50―74 mGy (mean dose 60.42 mGy) was 2.82 (1.33―6.03).

過剰相対リスク excess relative risk [ERR] ERR=RR-1
 白血病 0.036/mGy
 脳腫瘍 0.023/mGy
相対リスク relative risk [RR] <5mGyと比較して
 白血病 30mGy以上 (平均51.13mGy) で3.18
 脳腫瘍 50-74mGy (平均60.42mGy) で2.82
(1mGy=1mSv)

1mSvのCT外部被曝で白血病が元の割合に対して3.6%(元が1%なら1.036%)、脳腫瘍が2.3%増える(同1.023%)
(twitterで最初に「1mSvのCT外部被曝で白血病が3%、脳腫瘍が2%増える」と書きましたが不正確なので訂正します。)
30mG以上(平均50mGy)で白血病が約3倍、50mGy以上(平均60mGy)で脳腫瘍が約3倍。
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放射線 α線:1Gy=20Sv γ線:1Gy=1Sv
交絡
(例)放射線による心筋梗塞のRR=3.3と出た場合でも、喫煙(RR=5.0)で分けると放射線のRR=1になる

急性
0.5Svでリンパ球減少、0.5-1Svで脱毛(別の説も)、2-3Svで脱毛・皮膚紅斑、4Svで死亡
LD50は4Grよりも高くなっている(原爆当時の医療環境のデータ)
10Grで急性の中枢症状

JCO事故:16-20GyEq ←染色体から推定
チェルノブイリ:skin burns kills patients

DNAの二重鎖切断
安定型染色体異常  →長期間増殖 →がん化
不安定型染色体異常 →数回増殖  →がんリスクと関連なし
 主に電離放射線被ばくによる 1対1で安定型を生じる
どんなに低線量でも染色体異常は起きている

遺伝的影響(2010)
「夢千代日記」の夢千代は被曝二世の白血病だったが、ヒトでは明確な証拠得られておらず。
ないと否定できるわけではない。
胎児被曝 Oxford prenetal X-ray survey (1975)
 20mSvで白血病・がんのRR 1.47
原爆では在胎8-15週の被ばくで小頭症・MR増加
小児がん:増加せず 大人のがん:増加

胎内被曝
 母:染色体異常:増加 児:染色体異常:増加せず
 しかし、数十mSvをピークとした低線量で染色体異常増加あり、
 感受性の高い人かと。
がんのリスク:胎児<小児

後影響 late effect
原爆で白血病は2年後から増加、5-6年でピーク、減少し、後年増加。
固形がんは10年後から増加して増え続けている。
チェルノブイリでは4年後から甲状腺がんが増加。
マーシャル諸島の水爆では10年後から甲状腺がんが増加。
福島も4年では安心できない。10年は見守る必要。

固形がん ERR、EARともに若い人ほど増。 ※
乳癌は差なし。肺がんは逆。「種類・部位によって異なる」。
小児は余命が長いので累積リスクは高まる。
甲状腺がんは15歳以上では増加していない。

低線量被ばく
原爆・白血病は線形二次、固形がんは低線量ではLNTの直線よりもむしろ高め。 ※
閾値ありやホルミシス効果は否定。放影研では喫煙の影響かと。
インド自然放射線では生涯500mSvまで全く増えていない。
1回の被曝との違いかと思われるがよくわからない。

※ ERR、EARの説明と、原爆の低線量でのリスクについて、放影研の論文と今中先生のコメントを下記のページに掲載しています。低線量でむしろ高めという今中先生の判断と一致しています。

「1Gy被曝でがん死リスク42%増」の意味 LNT仮説が「哲学ではなく科学」であることは明白 中川恵一批判(2012年03月19日)
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/2ad492da4a74ac761c45ccfd75842712

「インド自然放射線でむしろリスクが下がっているように見える」との質問に対し、
「免疫賦活化される」という説も。ホルミシス効果は証明されない。
「福島にあてはめて言っても詮無きこと」と。

I-131の内部被ばく
4月の弘前大・床次教授の調査に参加した。
Scientific Reportにaccept。(掲載予定)
100mSv超える人はいないが、20-30mSvの人はいる。
いわき市に小児が多数いたが、測定結果がない。
毎日新聞の報道の通り、福島県が止めた。県はI-131がなくなってから調査した。

Predictive risk
「許容リスク」を決め対応する線量を推定する。
「許容リスク」は人によって異なる。ここが問題。
「正しくこわがりましょう」一般の人には意味不明だった。混乱の原因。
「正しく理解して行動しましょう」と言うべきだった。
福島以降、専門家が様々なことを言い出して、学者への信頼を失っている。議論が乱暴だった。

「10mSv/年の環境で子どもが住んでいても良いか」の質問に対し、
「子どもに関しては楽観しない方が良い」。CTのReport(白血病・脳腫瘍)を再度強調。

放射線被ばくによるがんリスク:まとめ
・白血病は被ばく2年後くらいから増加し、5-6年後くらいにピークに達し、その後過剰リスクは減少
・その他のがん(固形がん)は被ばく後10年後くらいか
・被爆時の年齢の影響:がんの種類・部位で異なる
・内部被ばくと外部ひばく:甲状腺がんリスクは同じ?
・低線量の放射線被曝の影響:過剰がんリスクが有るか無いかわからない
 しかし、証拠がないことは、影響がないことを必ずしも意味しない
・急性被ばくと慢性被ばくでは、線量当たりのリスクが異なる(乳がんは例外?)

低線量域のがんリスクの有無は不明
1.閾値モデルよりは、安全側に立っている
2.単純である(よくわからない時には、単純さが重要)
3.原爆被爆者の中高線量のがんリスクのデータはLNTモデルを支持

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3 コメント

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Unknown (温泉天国)
2012-07-24 18:38:37
福島県医師会報にある小児科医の投稿が載っていて、それがまた、安全だということをうるさく説いています。
こういう方がいるから、福島県民の人心は大きく惑わされているんだと思います。

http://onodekita.sblo.jp/article/57199567.html

院長の独り言のホームページで見ることが出来ます。

私も、今度9月に仙台で行われる、放射線影響学会とかいうのに参加してみようと考えています。
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ありがとうございます (kuba)
2012-07-24 23:46:44
ご紹介のHPも昨日みました。同じ内容の日本小児科医会誌の論文も繰り返し読みました。また、先日同氏の学会発表も聴く機会がありました。昨年3月の山下教授の福島講演をネットの音声で聴いてから「これは事故以上に大変な事態になるな」と感じたのですが、現実はそれ以上だったと言わざるを得ません。確認したわけではありませんが、小児科医の99%はご紹介の医師の意見に賛同してる(または口をつぐんでいる)ようです。30年後に同氏の「預言」が的中することを祈るのみです。(多分確認できないと思いますが)
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Unknown (温泉天国)
2012-07-25 00:45:52
ええーーっ。99%というか殆どそうなわけですね。酷いもんです。
どうしてそういう結論になるのか、私には理解出来ません。とりあえず、情報収集は続けて、知り合いには情報を流し続けるだけしか手はありませんね。
医療崩壊の現状もそうですが、生暖かく見つめるしかないのか。
残念です。
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