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なぜ自民・村上議員は安保法案に反対なのか
「違憲裁判の多発は必至、敗れれば無効だ」
──安保法案に反対する理由は何か。
まず手続きに問題がある。法の番人である内閣法制局は、「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」という憲法解釈を守ってきた。しかし、安倍晋三首相に送り込まれた小松一郎長官(当時)が解釈を変更し、集団的自衛権の行使を可能とした。
これは従来の専守防衛から180度の大転換であり、本来は先に憲法改正を行ってから、法案を提出すべきだ。それを、内閣の一部局の解釈変更で法案審議が始められるなら、憲法は有名無実化する。
違憲判決が出れば安保法案は無効に
安保法案が与党の賛成多数で可決されても、その後は違憲訴訟が多発するだろう。最終判断は司法に委ねられる。法曹界では安保法案は違憲という考えが圧倒的に多い。賛成の議員に「違憲判決が出たらどうするか」と聞くと、答えに窮した後、「無効になります」と返してきた。
──集団的自衛権行使の新3要件をどう考えるか。
たとえば法案では、「日本の存立が脅かされ」「国民の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合を、「存立危機事態」として行使を容認している。だが、その判断基準は、あいまいだ。自衛隊の派遣についても、緊急時には国会の事後承認が認められる。今の自民党内は金太郎アメのように、安倍さんのご機嫌伺いばかりで抑止力が働かない。
──自衛隊の具体的な活動内容として、中東のホルムズ海峡における機雷掃海などが想定されている。
敵側からすれば戦闘行為と見なされて、ミサイル攻撃の対象となる。自衛隊員の死傷者を生むだろう。が、その際に補償を行う、「名誉の戦死」の制度が日本にはない。自国の脱走兵を裁く軍法会議も存在しない。敵側の民間人を誤爆してしまった場合、損害賠償はどうするか、という問題も考えられていない。
自衛隊の定員は現在約25万人で、常時2万~3万人不足している。死傷リスクが高まれば志望者が減る可能性が高い。もし今後、隊員不足が深刻化したらどうするか。法案を成立させようとするなら、政治家は成立後に起こりうる、あらゆるケースを想定しなければならない。今は成立だけ急ごうとしている。
──実際に日本への脅威は増しているのか。
安全保障と防衛とは同義ではない。安全保障でなすべきは敵を極力減らすことである。世論では、中国や韓国にやられっぱなしでいいのか、との声が強まっている。しかし、政治家まで、感情に走ってしまってはダメ。
戦闘機の数で日本は中国に負けている
実際に中国一国を相手にするのも大変だ。中国は、第4世代戦闘機を約600機保有しているのに対し、日本には230機しかない。第5世代になると1機150億円かかる。対抗するには(計算上)飛行場も三つ必要だが、膨大な予算がかかるうえ、普天間移設で大騒ぎになっている日本では、政治的にも難しい。
──それでもアベノミクス効果で政権支持率は高い。
金融緩和と財政支出は限界に来ている。国債や借入金、政府短期証券を合計した「国の借金」は、2015年3月末で1053兆円で、国民1人当たり830万円に達した。これはGDP(国内総生産)比200%以上の水準だ。
太平洋戦争突入直前の1941年でも、国の借金はGDP比200%だった。今は戦争もしていないのにこれだけ借金が増えている。戦争するカネもないのに、なぜ防衛費を増やそうとするのか。社会保障や教育など、ほかに優先すべきことは多くある。
(「週刊東洋経済」2015年5月30日号<25日発売>「核心リポート03」を転載)