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<コスタリカ報告⑤> 本当の積極的平和  伊藤 千尋

2017-02-14 02:27:50 | 立憲主義 民主主義

 伊藤 千尋さんのプロフィール写真、画像に含まれている可能性があるもの:1人伊藤 千尋 2月13日

コスタリカ報告、本当の積極的平和

 旅の最後の夕食会で話してくれた平和活動家のマリオ・グランさん(写真右)は、しきりに「平和には社会正義が必要だ」と強調しました。「平和は銃で得られるものではない。過去を許すことはあっても忘れてはいけない」とも。

 これが平和学で言う積極的平和です。平和とは、ただ戦争がない状態を言うのではありません。差別や格差、いじめなど紛争につながる社会の悪を対話によってなくし、正義が実現された社会を創ることです。過去の教訓から学び、過ちを繰り返さないことです。コスタリカは中学2年の公民の教科書でそう教えています。その対極にあるのが、気にくわない相手は武力で黙らせようとする安倍首相の積極的平和主義です。言葉は似ていますが、内容は全く違います。

画像に含まれている可能性があるもの:2人、立ってる(複数の人)

 バルガス先生も平和教育で同じことを指摘しました。先生が挙げた平和教育のキーワードは共生です。その内容が新鮮でした。最初に挙げたのが自分との共生、つまり自分が安心して生きることです。平和の出発点は自分という個人の平穏な生活だと言うのです。

 平和を語る際に日本ではまず国家を考えがちです。国が平和であるためには国民の少々の犠牲は当然だという考えがそこから生まれます。一方、コスタリカの平和の発想の原点は個人です。まず一人一人の国民が平和に暮らしていると感じられてこそ、社会も国も世界も平和であるというのです。大きな違いです。

 小学校で落第があることを知って参加者から驚きの声が出ましたが、落第は本人が知識をきちんと持って自分で考え自分で行動できる人間となることを支援するためです。落第した子は先生方がしっかり面倒を見て卒業時にほかの子と同じレベルまで引き上げます。落第した本人にとってはその時点ではつらいでしょうが、小学校の基礎ができていなければ中学、高校その後の人生はさらに悲惨になるでしょう。授業に出てさえいれば理解してなくても卒業させる日本の方がおかしいのではないでしょうか?どうも日本の教育は形だけ民主的のように思えます。

 また、日本の平和教育は戦時下や原爆の悲惨さを訴えることが中心になっています。日本人も被害者だという意識が先に立ち、加害の事実についてはまったく知らされません。これではアジアの人々との和解は無理でしょう。さらに、時がたって戦中派がいなくなれば、過去の事実は忘れられていきます。これに対してコスタリカの平和教育は現在の問題としてとらえるので、いつの時代になっても通用します。

 次に他人との共生ですが、バルガス先生の幼稚園だけでなくコスタリカは国の政策として、すべての移民や難民を受け入れています。米国が国境に壁を築き、欧州では難民を制限しようとする時代に、人口400万人だったコスタリカは100万人規模の経済難民を受け入れました。これはすごいことだと思います。しかも3年滞在すると国籍まで与えています。移民の多くはコスタリカと領土問題などで対立する隣国のニカラグアからです。いわば日本が中国人の移民を4000万人規模で受け入れるようなものです。コスタリカの寛容な姿勢は驚くばかりです。世界から尊敬されるのは当然でしょう。

 最後に自然との共生ですが、エコツアー発祥の国であり国土の4分の1を国立公園ないし自然保護区に指定したコスタリカの真骨頂です。国立公園に行く途中に、国内唯一のトンネルを通りました。この国は自然破壊をしないためトンネルを作らない方針なのです。ここにトンネルを作ったのは、普通の道にすれば国立公園を分断することになるからです。動物たちが行き来できるように、人間がトンネルで地下を通るようにしたのです。

 トルトゥゲロ国立公園でウミガメを保護しているNGOの活動を聞きました。代表はスペイン人でベネズエラ人の女性活動家もいました。国境を超えて自然保護にかかわっています。ガイドしてくれた原田信也君も日本で環境保護のNGOをしたあとコスタリカの環境保護団体に加わりました。世界中の自然保護活動家がこの国に魅かれて集まり自然を保護しているのです。国籍や文化が違っても共に活動できる寛容性がこの国にはあります。

 素晴らしいコスタリカですが、もちろん天国ではありません。まず経済で難があります。主な産業はパイナップル、バナナ、コーヒーなど農業ですから、理想を実現しようにも先立つ資金が乏しいです。学校が足りず、子どもたちは小さい校舎を2部、3部制で使い分けながら授業を受けています。教科書代も高く、貧しい家の子は買えません。でも、そこは工夫でしのいでいます。先生が独自にプリントをつくって授業を進めます。日本のように検定教科書に従った授業ではなく、教師の裁量に任せられる部分がとても多いし、また教師もそうした努力をしているのです。

 政治家の腐敗もあります。過去に汚職で訴追された元大統領が来年の選挙で返り咲きを狙っています。経済がうまくいかないため、少しくらい汚くてもカネもうけのうまい政治家に任せたいという、背に腹は代えられないと言いたげな国民の声があります。

 犯罪が増えたのも悩みです。南米から米国に麻薬のコカインを運ぶマフィアが、途中経路のコスタリカに入り、仕事にありつけない移民が犯罪組織のメンバーとなっています。それでも移民を追い出せという世論にはならないのがすごいと思います。犯罪への対応のため、かつて警棒しか持っていなかった警官が今やピストルはもちろん自動小銃まで持つようになりました。麻薬組織は軍隊規模の武器を持つため国境警備隊が太刀打ちできず、武装を強化せよという主張も見られます。しかし、再軍備という話にはならないところが、これまたすごい。過去の積み重ねの成果でしょう。
 こうしたマイナス面を知っても、なおプラス面の方が圧倒していることを感じたのが今回の旅でした。

 

 

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