どうしたらいいの?NHK受信料「安くする方法・払わずにすむ方法」
本音はみんな…
できることなら払いたくない――。でも払っている人にとっては、未払いの人がいては不公平となる。そんな制度が、NHK受信料だ。「どうしたらいいのか」と、もやもやしてきた人たちのための、最新版「受信料の技術」。
知られざる「家族割引」
「NHKです。こちらのご住所でまだ受信料の届け出がなされていなかったのでお伺いしました」
突然の受信料徴収員の訪問に、何気なく応じる人もいれば、ひょっとすると無視を決め込む人もいるのではないか。
NHK受信料は、衛星放送が2ヵ月4560円、地上契約のみなら2ヵ月2620円(振り込みの場合)。20歳から80歳まで払い続ければ150万円に達する受信料をどうしたら安くおさえられるのか、その技術を伝授しよう。
まず、NHKには受信料免除制度がある。だが、「タダ」を勝ちとるのはハードルが高い。全額免除の基準は、「身体障害者手帳の所持者が家族にいて、かつ世帯構成員全員が住民税非課税である」ことや、生活保護受給者であることなどだ。
「半額免除」は少し範囲が拡大する。たとえば1・2級の身体障害者手帳保持者が世帯主の場合、手続きをすれば年間最大で1万3680円(2ヵ月払い・衛星契約)が浮くことになる。
一般的には、まずチェックするべきが「家族割引」なる制度である。この制度は、多くの人が対象になるのに、見逃している人が多いと語るのは、NHK地方局勤務の山村順一氏(仮名)だ。
「徴収員が、わざわざこの制度をアピールして回ることはありません。契約時に、いちいち誰と同一生計なのかを確認することなどありませんしね。申し込まないかぎり、正規の受信料を払い続けるハメになりますので、まずチェックすべきです」
制度そのものは単純だ。親許から離れた学生や、単身赴任のビジネスマンなど、実家と生計が同一であれば、受信料が半額になる。
見逃せないのは、この半額制度は、「子」だけでなく「親」に対しても使える点だ。
「同一生計という建て前があれば、自分の親とのあいだでも使えます。受信料が同じ銀行口座から引き落とされるか、同じクレジットカードを使って決済しているかでチェックされます」(山村氏)
後からでは割引分を取り戻せないので、対象者は急いだほうがいい。
さらに、別荘や別宅を持っていて受信料契約を行う際も半額になる。いずれも手続きは簡単で、NHKのホームページ上から行うことができる。
そもそも月あたり2280円のNHKの受信料(BSも含む)は「高すぎる」と思っているむきもあるだろう。放送法を建て前にしたNHKの徴収員に申込書をいつの間にか渡され、いつの間にか契約をしてしまっているのだから。
しかし、NHKとの契約を解除することは可能だ。ネットフリックスなどのネットテレビやYouTubeしか見なくなったという都内在住の西島涼氏(仮名・40代)は、'17年に契約を解除した。
「合法的な方法は、ひとつだけです。受信設備(テレビかワンセグ付き携帯電話)をいったん捨てること。リサイクル券の半券か、業者の買い取り証明書をとっておく必要があります。
そのうえで、解約届を提出する。NHKに電話すれば、解約届が送られてきますから、それを返送すればいい。揉めないためにも書留で送るべきです」(西島氏)
ただし、今の放送法では、テレビのみならず、ワンセグチューナーがついている携帯電話やカーナビ、パソコンを1台でも持っていれば、契約解除ができない。
それらがもし自宅にあるのならば、機種変更や廃棄(いずれの場合も証明書を店でとる)の必要があるので要注意だ。NHKスタッフが現認のため自宅を訪れることもある。
5世帯に1世帯が未払い
だが、そもそも――。「あんまり大っぴらにはいえないが、受信料を払っていない」という人は、実は多い。NHKが公表している受信料の推定支払い率は78.2%だ。
受信契約対象となる世帯数の推定が4621万件のところ、支払いを行っている世帯は3612万件。実に5世帯に1世帯は、受信料の支払いを行っていないのである。
受信料について、放送法第64条はこう定める。
〈協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない〉
テレビを設置したなら、契約はしなければならないという。だがこの法律は罰則規定がない。
一度も支払いをしたことがないという大阪府在住の佐々木洋平氏(仮名・68歳)の考えが典型的だ。
「NHKが家に来ても、絶対に支払わないよう妻にも子供にも言ってきた。初回の支払いが契約の開始だから、それ以降払わなければ、すべて滞納扱いになってしまう。
しかし、1回も払っていないのなら、契約もしておらず、払う必要がないっていうことだよね」
だが、'17年12月6日、最高裁によって出された判決は、佐々木氏の考えを否定するものだった。
〈設置者が受信契約の申し込みを承諾しない場合は、NHKが承諾の意思表示を命ずる判決を求め、判決の確定によって受信契約が成立する。それにより、受信設備設置の月以降の分の受信料債権が発生する〉
要するにこういうことだ。未契約の家にNHKの徴収員が来訪したとき、拒否や無視をすれば、NHKは「受信契約を成立させる」ための裁判を行う。その判決が出れば、「テレビを設置した月以降の受信料」を払わなければいけない――。
「あの表示」で訴えられる
ただし、それには条件がある。NHKが「テレビ設置の時期」を立証できることだ。
現実問題として、ある人が「はじめてテレビを設置した日」を正確にNHKが知ることは困難である。前出の山村氏は語る。
「NHKの契約書は必ず受信機設置日を書かねばならないのですが、それは本人の申告を元にします。もし契約をするハメになっても、自分の記憶をもとに書けばよい」
さらに言えば、そこを逆手にとった裏技もある。元NHK職員で葛飾区議の立花孝志氏が言う。
「録音しながら、NHKのスタッフにこう問えばいいんです。『正確な受信機の設置日について、記憶もないし記録もとれていません。受信機の設置日をどのようにすればいいですか』と。
NHKは『お客様のほうで書いていただくしかない』としか言わない。そこで『NHKが同意のうえで、今日の日付を書きますね。本当は今日じゃないけど、いいですね』と問えば、NHKは契約を断ります。放送法違反を恐れるからです」
そうはいっても、NHKは過去6年間で280人の未契約者を、次々と訴えている。だが「訴えられる人は共通している」と立花氏が言う。
「B-CASカード番号をNHKに伝えている人ですよ。逆にいうと、それ以外は未契約者を訴える術がないんです」
B-CASカードとは、現在の地デジ対応テレビに必ずついているカードで、これがないとBS放送を見ることができない。一つのカードに20桁の番号が紐付いている。
NHKのBS放送をつけたとき、左下にあらわれるメッセージを見たことがあるだろう。【受信機設置のご連絡のお願い】というものだ。ここからNHKに伝わる。
「メッセージを外すためにはB-CASカード番号を入力する必要があります。入れてしまえば、NHKを見ている証拠になるわけです」(立花氏)
なお、「紅白歌合戦」などの番組観覧の申し込みなどをした人も、NHKを熱心に見ている人の典型だとみなされ、もし受信料を払っていなければ狙い撃ちにされる可能性がある。
それでも受信料を払いたくない人は――。東京大学名誉教授の醍醐聰氏は、こう説明する。
「まずは『放送法には支払い義務が書かれていない』と突っぱねるべきでしょう。ただし、無条件で拒否するのではなく、『NHKの報道姿勢に疑問があり、国民の知る権利として報道されるようになるまで支払いはストップさせていただく』などと丁寧に主張すべきだ」
一方で、「すでに契約をしているのに未払いの人」はどうだろうか。NHKが法的措置をとった件数は、この10年間で9000にも達する。だが、驚くべきことに、その中には「契約をしていた」という認識がなかった人さえいる。
千葉県・松戸市に住む今田健三氏(仮名)は、'03年3月に受信契約を結んだにもかかわらず受信料を払っていないとして、過去11年間分の受信料18万4820円の未払い分を請求された。
ところが、NHKが裁判所で提出した今田氏の契約書は、偽造の疑いがあったのだ。
「私も家族も、誰もNHKと契約していなかったのですが、マンションに引っ越してきた日を『契約日』とした契約書が突然裁判で出てきたのです。一度も見たこともないものでした」(今田氏)
松戸簡裁は、契約書の署名を「今田氏や妻の筆跡と異なる」と判決で指摘し、「今田氏が受信契約を締結したものとは認められない」とNHKの請求を棄却した。だが、二審の千葉地裁はNHKが逆転勝訴した。
「時効分を除いた5年分の支払いを求める判決が出ました。地裁の判断は、『(私でなくても)家族の誰かが書いたのではないか』というものでしたが、私の名前で契約したのですから、契約不履行だと思うのですが……」
もし、訴えられたら
契約書の真偽はともかく、裁判ではこの『時効』が実はポイントになる。'14年の最高裁で、滞納者が時効を主張した場合、過去5年分までしか徴収できないという判決が出ている。
ただしNHKには通知義務はないため、こちらから主張しないかぎり、NHKは5年を超えてさかのぼって請求してくる。
「もし巨額の請求が来ても『5年の時効』を主張するべきです」(立花氏)
直近最大5年分であれば、約14万円(衛星契約の場合。地上契約のみならば約8万円)の支払いを行えばいいことになるわけだ。
NHKの事業収入のうち95%を占める受信料は、年間6769億円にものぼる。弁護士の梓澤和幸氏はこう言う。
「自宅にテレビを入れたら強制的に受信料を払わねばならないという論理は、政府の伝声管の役割を果たした戦前の公共放送のようなもの。人々がつくりあげるNHKに変わらねばならない」
NHKは週刊現代の取材に対し「引き続き、公共放送の役割や受信料制度の意義について視聴者の皆様に丁寧に説明し、公平負担の徹底に努めていきます」と回答した。
不要なものまで払いたくはない。生活を防衛する意味でも、「公平負担」が今後どうなるかをしっかりと見守りたい。
「週刊現代」2018年1月6日・13日合併号より