法学館憲法研究所 http://www.jicl.jp/hitokoto/より転載
2016年2月15日 |
鶴本圭子さん(一人一票実現訴訟原告) |
"私達の憲法の素晴らしいところ、それは、私達の社会同様、日々進化するというところ。" タイトルの一文は、現職の米国連邦最高裁・アントニン・スカリア判事(保守派)と同ルース・ベーダー・ギンズバーグ判事(リベラル派)※1 を題材としたオペラ("Scalia-Ginsburg" 2015)でのギンズバーグ判事のセリフであり、ギンズバーグ判事自身のお気に入りのセリフでもある。 1人1票裁判−本当の相手は最高裁判所 私は、2009年以降の国政選挙に関する1人1票裁判※2 の原告である。裁判では、最高裁に対し、「憲法は1人1票(人口比例選挙)を保障している」と明言する最高裁判決を出すことを求めている。 裁判を重ね、私は、『明確な判断基準(1人1票の憲法上の保障)を示さない玉虫色の最高裁判決を駆除しない限り、この問題は解決できない』ことを体得した。 (私が初めて1人1票裁判の原告となった)2009年当時、日本では、『一票の不平等は衆院選で3倍まで、参院選で6倍まで』が常識だった。2016年現在では、現職の最高裁判事のうち、鬼丸かおる判事(弁護士出身)、山本庸幸判事(行政官出身)、千葉勝美判事(裁判官出身)の3名が、1人1票(人口比例選挙)の原則を判決意見で明言するまでに裁判は前進した。※3 もっとも、最高裁を相手に闘っているなどと威勢よく聞こえるかもしれないが、なんとか現職の最高裁の過半数の判事が、1人1票(人口比例選挙)の原則を明言するよう、原告(主権者)としてできることを日々行い、もがいているというのが事実に近いのかもしれない。 民主主義は多数決−多数決は1人1票 民主主義を理解するうえで最も重要なことは、「民主主義は多数決」であることを腹の底から理解することだ。 自己の望む政策を実行するためには、賛成多数をとる必要がある。その賛成多数を取るために、国民は草の根活動をする。そして、最終的に国民の多数意見が何かを明らかにするために、投票(選挙)を行い、その勝敗を決めるルールが多数決である。 今年は4年に一度の米大統領選挙の年である。アメリカでは、南北戦争で約60万人の犠牲者がでた苦い経験を踏まえ、殺し合いによって政治を変える代わりに大統領選挙を行っているという。選挙は、本来、人間と人間、主義と主義がぶつかりあう命がけの真剣勝負である。 Freedom of speech(言論の自由) 多数決というと「多数の横暴」と反射的に反応する人が少なくない。しかし、多数決という意思決定のルールは、現代の先進民主主義国で共通して採用されているルールである※5 。このこと自体を否定する人はいまい。 多数決の結果により行われる政策に異論がある者は、次回選挙で過半数を取り、他の政策が実行されるように草の根活動をする、というのが民主主義の仕組みだ。そのためには、多数決の結果の政策に異論を唱える権利(言論の自由)は、何としても保障されなければならない。しかし、多数決のルール自体を変えることは、決して許されない。 前出のスカリア判事も、あるインタビューで、民主主義のなかで最も重要な自由とは、『freedom of speech』(言論の自由)なのではないかと述べ、なぜなら、民主主義は、お互いに説得しあい、そして投票し、多数決で決めることを意味するからである、とその理由を説明している。※6 多数決を否定する際、ヒトラーの例が引用されることもある。「ヒトラーは選挙という民主的手続きを経て独裁国家を作った。多数決は恐ろしい。」との議論だ。ここでは詳細は省くが、ドイツ史を正確に見れば、1933年当時のドイツの選挙は言論の自由、人権、被選挙権などが停止された中で行われている。ナチスは決して民主的に正当な選挙で国会議員の議席の過半数を占めたわけではない。※7 進化する社会の中で生きたい−そのために私達国民がやるべきこと 現行憲法は、「言論の自由」(憲法21条)、「投票権」(憲法15条。国民主権につき憲法1条、前文第1文。)、「多数決」(憲法56条2項)を明定している。 日本の民主主義は、憲法の定めどおりの、国民の多数意見が何かを明らかにする正当な選挙(1人1票・人口比例選挙)を行うことから始まる。 現代社会では、物事を決める際、避けることができない、また、避けてはならない多数決。最高裁判決も判事の意見の多数決で決まる。 米国では、今から50年前の1964年の連邦最高裁判決※8によって、1人1票が実現した。 2016年、日本で1人1票(人口比例選挙)の原則を明言する最高裁判事が過半数の8名になるよう、私達国民がやるべきことがある。※9
※1 両判事は、お互いに反対意見を書き合うことで知られる一方、刑事手続きに関する事件などでは意見が一致することも多く、仲がよいことでも知られている。尚、スカリア判事は、2016年2月13日、旅行先で急逝された。 あなたの1票の価値チェックはお済みですか?クイック検索はこちらから
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