両手を広げて(4)

2021-09-25 16:43:23 | 童話
『お母さん、僕ね、また夢の中で空を飛んでいたよ。今度はね、ジェット旅客機を操縦していたんだよ。』
『あらっ、すごいわね。』

お父さんが『いっぱい努力しないとなれないよ。』と言って、ガンバレと言った。
僕は努力してジェット旅客機を操縦しようと思った。

両手を広げて(3)

2021-09-24 09:56:55 | 童話
『お母さん、僕ね、また夢の中で空を飛んでいたよ。今度はね、ヘリコプターを操縦していたんだよ』
『あらっ、今度はすごいわね。』

お父さんは『そうだなぁ、努力すれば可能性のある夢だな。』と言ったが、すごいねとは言わなかった。
僕は大きくなったらヘリコプターに乗ろうと思った。

両手を広げて(2)

2021-09-23 09:27:30 | 童話
『お母さん、僕ね、また夢の中で空を飛んでいたよ。今度はね、パラグライダーを付け飛んでいたんだよ。』
『あらっ、すごいわね。』

お父さんは『少し現実味のある夢になったな。』と言ったが、すごいねとは言わなかった。
僕はできそうな気がする。
そして、今晩はどのようにして空を飛ぶのか楽しみだ。

両手を広げて(1)

2021-09-22 09:03:18 | 童話
『お母さん、僕ね、夢の中で空を飛んでいたんだよ。』
『あらっ、すごいわね。』
『両手を広げて、ビューンと飛んでいたんだよ。』
お父さんは『夢は何でもできるけれど、本当は飛べないよ。』
だけど、僕は飛べると思う、夢の中で飛んでいたから飛べるんだ。

僕は自転車(5)

2021-09-21 09:31:23 | 童話
僕が他の家に貰われて行く日、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。
おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言ったので、僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。

『バイバイ。』男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。いや、手ではなくハンドルを振った。
ほどなく、自動車は今度僕に乗ってくれる子供の家に着いた。
『わ~い自転車だ、ピカピカの自転車だ。』
『大事に乗るんだよ。』と言っておじさんが僕を自動車から降ろした。
『うん、大事にするよ。』
『明日の日曜日に、公園で乗る練習をさせてやるよ。』
『うん。』と言って僕をずっと眺めていた。

次の日から、自転車の練習が始まった。
『ほらほらっ、下を見ないで前を見て。』
僕は、練習する時に大人はみんな同じ事を言うのだなぁと思った。
『お父さん、手を離さないでね、離したらダメだよ。』
前の男の子の時と同じようにグラグラ、グラグラとしている。僕は必死になってこらえて転ばないようにしていた。しかし、おじさんが手を離した時に僕は転んでしまった。そして、この子も膝を擦りむいてしまった。
『うわ~ん、痛いよ~。』
おじさんは
『少し怪我するくらいでないと自転車に乗れないよ。』
また僕は前の男の子のお父さんと同じ事を言っていると思った。

毎週、練習をして、グラグラするが、やっと転ばないようになった。
この子も僕を大事にしてくれる。転んだ時は家に帰ってから、僕を綺麗に洗ってくれる。この子も大きくなって、大きな自転車を買っても、僕を大事にしてくれると思う

そして、外から帰って来た時に、何も言わないでサドルをボンポンと叩いてくれると嬉しいなぁ。そう思いながら、この子と練習を続けている。

  おしまい