【2011年8月18日(木) 参院・文教科学委員会】
さて、お盆明け8月15日週でしたが、国会審議は、参議院で委員会が一つだけ。衆議院は何にもなしの体たらく。
今週、設定された唯一の委員会は、「自民党らの議員立法に対して、民主党議員が日本国憲法89条論争を挑む」という談論風発としたものになり、さすがにクソ暑い中設定されたにふさわしい良い国会となりました。
参議院文教科学委員会は、委員長ポストは自民党がにぎっていて、二之湯智(にのゆさとし)さん、京都選出です。
議題となったのは、第177国会参法21号「東日本大震災に対処するための私立学校の建物の災害復旧の特別の助成措置に関する法案」です。
提出者は、メダリストで元外務副大臣の自民党・橋本聖子さん、“ヤンキー先生”こと義家弘介(よしいえ・ひろゆき)さん、83歳の最長老議員の公明党の草川昭三さん、71歳の新人議員(元PHP研究所社長)でみんなの党の江口克彦さんら。
[画像]法案の趣旨説明をする参院自民党の橋本聖子さん、2011年8月18日、参・文科委、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。
私立学校の建物の復旧などへの国庫補助率を3分の2にかさ上げするという議員立法です。そういう風に聞くと、「私学に国庫がそれだけ負担する必要があるのか?」と思うところですが、私学教員の経験がある義家さんの答弁によると、私学助成金は生徒数で計算されるため、県外避難をした家庭の生徒がいると、学費も助成金も減ってしまうという現実が被災地の私学を待ちかまえているとのこと。
そして、義家さんの答弁や、自民党の熊谷大(くまがい・ゆたか)さんの討論によると、与党・民主党では、委員長提案による与野党超党派での議員立法を予定していたものの、政調部門会議でストップがかかり、衆院文部科学委員会の与党側筆頭理事は辞表を出した、とのこと。また、民主党は財政負担増を懸念した「財務省に言われて反対に回った」(熊谷さん)とされました。
このような背景があったからでしょうが、質問に立った民主党の大島九州男(おおしま・くすお)さんは、日本国憲法第7章第89条の「公金その他の公の財産は、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のため、または公の支配に属しない慈善、教育もしくは博愛の事業に対し、これを支出し、またはその利用に供してはならない」との条文と法案の整合性について、問答を挑みました。
[画像]憲法89条論争を挑んだ民主党の大島九州男さん、2011年8月18日、参文科委、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。
なお、はじめに言及しますが、大島さんは私の日大二高の12年先輩ですので、大島さんの国会傍聴記はじゃっかんひいき目な書きぶりになりますので、ご了承下さい。東京電力から広告料を受け取っていることをかくして、「東電賠償スキーム、国が大幅負担へ 素案判明」なんて書く新聞よりずっと良心的だと自負しています。そもそも、議会制デモクラシーの国会を公正中立に書くのなんてムリだし、つまらないです。
私はかねてから、憲法89条は、もっとも違憲立法・違憲行政の議論の余地がある条文だと思います。つまり公金の教育への支出が憲法で禁じられている、と読めます。そうなると、学校教育法第59条の「国や自治体は、教育の振興上必要があると認める場合には、別に法律で定めるところにより、学校法人に対し、私立学校教育に関し、必要な助成をすることがある」としています。
違憲立法・違憲行政は、最高裁に行った場合は、大法廷で15人の裁判官が裁きます。ただ、お昼のNHKニュースを恒常的に見ている人ならば気付くでしょうが、実は大法廷は近年では年に1回前後しか使われていません。国政選挙のたびに選挙区ごとに弁護士が訴えている、一票の格差について「格差は違憲」としながら「選挙は有効(事情判決)」とする判決が年に1回前後あるだけ。裁判所の判例は条文と同じ効力がありますから、日本国憲法は60歳を迎えて、こなれてきたという風に言えるでしょう。
委員会室に戻ります。大島さんは憲法89条について、日本国憲法制定前の審議での議事録や、昭和21年(1946年)の憲法に続き、昭和24年(1949年)に私立学校法ができたときの経緯をひもときながら、細かく指摘。これに対して、まずなぜか橋本元外務副大臣はまったく答弁せず、義家さんが答弁に立ちます。「本法案は、衆議院法制局と参議院法制局と長時間、協議した上でつくったものです」と強調しますが、かなりしどろもどろになってしまいました。この日の審議では、政府参考人は、文科省私学部長ひとりだけで、内閣法制局の長官・部長や、参院法制局の局長・部長などはいっさい呼ばれていませんでした。文科省私学部長もあまり想定していなかったようで、あまりハッキリした答えは出てきません。
[画像]答弁する法案提出者の自民党の義家弘介さん、2011年8月18日、参文科委、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。
ここで大島さんも武士の情けという風情で、「正直なことを言うと、私もこの法案が出て来なければ、ここまでしっかり憲法や議事録を読み込まなかったと思います。とはいえ、この憲法制定当時に国会で先輩たちがどういう議論をしていたかということを私たちはもっと虚心坦懐にとらえて、法案を審査すべきではないでしょうか」と語りかけます。
見かねた江口さんが「大島議員のお話はごもっとも」と答弁したので、笑ってしまいました。さらに江口さんは「私のように人生を長くやっていますと、公立だけでは(受け入れる生徒数などが)やっていけないということはよく分かります」と人生経験アピール。
[画像]法案提出者でみんなの党最高顧問・参院議員の江口克彦さん、2011年8月18日、参文科委、参議院インターネット審議中継からキャプチャ。
大島さんは「ですから、大きな幹の枝葉だけをチョコチョコ変えるような法令をそろえるのではなくて、幹をしっかりつくるのが私たち国会議員の仕事ではないでしょうか」と語りました。
これに対して江口さんは「同感ですが、今は非常時だからチョコチョコやらないとダメなんです。被災者のためなんです」と答弁します。しかし、冷たいように感じるでしょうが、非常時だからこそ、チョコチョコやってはいけない、それが法治国家における立法府だと私は考えます。まあ民主党内閣の法案提出のスピードがtoo late であることは私も認めます。
大島さんは「私学助成金があって運営されているのが私学の実態であって、私学助成金という制度の幹をしっかりつくり、行政を監督するのが国会の役目だ」と強調して質問を終わります。ただ、この法案は一度は民主党が共同提出に合意したのに反故になった経緯があったようですから、大島さんとしても逃げの質問だったんでしょうが、やはりそういうテクニックは必要です。そして、逃げの質問を憲法論争に持っていった大島さんはなかなかダイナミックな政治家だと感じます。
次に法案に賛成する予定の自民党の熊谷さんが質問に立ちました。この時点で、憲法論争はおされ気味だったので、「ここで改めて文科省に憲法89条との整合性についてお聞きします」と質問しました。
これに答えるのは、民主党参院議員でもある文科副大臣の鈴木寛さんで、ペーパーをみながら、答弁しました。
そして、熊谷さんは自分の認識を示した上で、「発議者にお聞きしますが、私の認識で正しいでしょうか?」と述べると、義家・発議者は「まったく認識を一致しています」と述べました。熊谷さんのナイスフォローとなりました。
けっきょく、委員長(自民党)が採決に加わらないことから、委員会採決では、自民党、公明党、みんなの党の賛成少数で否決されました。これは「20人委員会で」、日本共産党と参院会派「たちあがれ日本・新党改革」は委員を出していません。しかし、22日(月)の本会議では二之湯委員長の報告のあと、参議院議員全員で採決しますので、賛成が反対を上回る見込みで、可決し、衆院に送られる見通しです。参議院は、こういった綱渡りで輿石東会長ら政権与党は参議院を運営しているのに、衆議院側の政府外議員が、民自公3党の修正協議をみて、「岡田幹事長はマニフェストの魂を売った」などと言うのはホントウに恥ずかしい。昨年7月の直近の民意(参院選での与党・民主党へのお灸→衆参ねじれ)を無視しているというか、気付いていなくて、あの人たちは憲法の二院制を無視した“違憲議員”ではないでしょうか。代表選の会合なんか出てないで、参議院の委員会を傍聴したらいいんですよ。
さまざまなねじれがあるなかでの、議員立法と憲法論争ですが、ただ、政務三役も含めて、議員同士が憲法の「解釈」を議論するのは少し違うような感じがします。ただ、大島さんが「正直、この法案が出たからこれだけ勉強した」という触媒になったのは大歓迎です。
熟議の国会は、ホントウに実現してきていると、正直に感じています。
法案は衆院送付後に、与野党修正協議がされるものと思います。会期末(8月31日)まであまり時間がありません、急げ!
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[写真]カメラを使って、回りの情報を収集する、公明党代表の山口那津男さん、2010年、与那国島、同党の遠山清彦さんのツイッターから。
公明党代表の山口那津男さんは、2011年8月19日(金)、北海道で、「大連立そのものを否定するわけではないが、民主党内でいろいろな意見がある以上、民主党としてどうするのか方針を決めて明らかにすべきだ。大連立という枠組みを代表選の争点とすることが妥当なのか、よく考えてもらいたい。我々は国民のために優先順位を決めて、何をやるかを最も重視したい。これまで民自公の3党協議を重ねてきた実績を生かしながら、臨んでいきたい。まずは震災の復旧・復興で合意形成を進めるのが妥当だ」と述べました。きょう(20日)付の公明新聞が伝えました。
[写真]民自公3党協議のようす、2011年8月9日、民主党ホームページから。
山口さんは、同日開かれた北海道や東北を担当する参院議員の横山信一さん(全国比例)の政治資金パーティーのため、北海道・札幌を訪れていました。横山さんのパーティーでの講演では、特例公債法案が「辞任3条件」になったことについて、「公明党は(3党間での)合意形成を積極的に図った」として、菅直人首相を退陣させるために合意を急いだわけではないと強調。山口さんはこのところ、地方議員向けの夏期研修会などで、2013年の都議選・参院選・衆院選トリプル選挙に向けて、じっくりと日常活動をして党再建をめざす考えをくり返していますが、ゆうべのパーティーでは「政権の追い込みを画策する時ではない」としました。また、首相の菅さんが6月2日の「退陣」ととられかねない発言をしてしまって以降、「内政・外交の課題に対応できず、空白の不利益」が出ているとして、民主党に「必要なことは新体制で取り戻す気概を示すことだ」としました。
先日、当ブログ開設5年目入りということで、初心に返るために傍聴した参・農水委では、この横山さんが質問に立ち、「ホタテ養殖の丸カゴが、(震災の影響で)ベトナム製、中国製が大量注文されており、国内産の調達を急ぐべきだ」、「岩手の漁業者から『横山さん、無保証の融資はないのか』と聞かれたが、その融資制度はある。周知されていない」、「漁業者を無収入のまま浜に縛り付けておくことはできないが、サラリーマンになってしまい生活が落ち着いたら、もう後継者(としては漁業に)は戻ってこない」などと、まさに庶民の生活の代弁者として、鹿野道彦農相に声をダイレクトに届けていました。鹿野農相がどういう答弁をしていたかは、ちょっとノートにもとっていないし、覚えていないので、ちょっと分かりません。
なお、けさ(8月20日朝)放送のTBS「みのもんたのサタデーずばっと」の中で、鳩山グループが「岡田幹事長は衆参ねじれなのに、他党と根回しをしない人だ」と述べたところ、ひごろ強硬派の参院自民党幹事長の小坂憲次さんが「でも、交渉の過程(プロセス)を目に見えるところでのはいいことだ」と鳩山グループをたしなめるシーンがありました。ちなみに、山口さん、小坂さん、岡田さんは3人とも、第39回衆院選(1990年2月)初当選組です。
また、今週はニクソン・ショック(1971年8月15日)から40周年でしたが、New Yorkでは金曜日後場で1ドル=75円をつけるシーンがありました。山口さんは円高対策について中小企業の「現場の人々の生活に寄り添って考えれば一刻の猶予もない」と述べました。