【元日経新聞記者】宮崎信行の国会傍聴記

政治ジャーナリスト宮崎信行、50代はドンドン書いていきます。

衆・財金委「特例公債」&3党合意レビュー 「高速」撤回 「子ども」修正「高校」と「戸別」は継続決定

2011年08月13日 21時30分57秒 | 第177常会(2011年1月)大震災・3党合意

[画像]半年間にわたった特例公債法案の修正可決を宣言する石田勝之・衆議院財務金融委員長=衆議院インターネット審議中継からキャプチャ。

【衆院財務金融委員会 2011年8月10日(水)】

 ついついホッとしてしまったのですが、この委員会は書いておかねばなりません。

 2月16日(水)。衆・予算委の昼休みを利用して、財金委で財務大臣の野田佳彦さんと、金融担当および郵政改革担当大臣の自見庄三郎さんの所信表明がありました。他の委員会より早く所信表明があったのは、今国会の政府提出(閣法)1号議案である「特例公債法案(平成23年度の赤字国債発行法案)」を早く衆院を通過させ、参院で否決されても、衆院で再可決させようという思惑からです。これは、民主党執行部はおろか、キャスティングボートをにぎれる社民党幹事長の重野安正・衆院議員も考えていたことです。ところがその翌日の2月17日午前、渡辺浩一郎氏ら16人の民主党比例単独衆院議員が民主党幹事長室に突然、会派離脱届けを、岡田克也幹事長不在にもかかわらず、職員に置いていくという事態が発生してしまい、この時点で「3分の2」カードは消えました。この日から半年間、重野さんのお姿をテレビで見ることが少なかったような感じがします。たぶん誰も気付いていないでしょうが、この騒動でイチバン損をしたのは重野さんだと思います。

 翌週の2月23日(水)。茫然自失とした先が見えない状態で、衆・予算委が休憩になった直後の、午後0時10分から、特例公債法案の提案理由説明がありました。野田財務相はその最後を、「なにとぞご審議のうえ速やかにご賛同いただきますようお願いします」との決まり文句でしめくくりましたが、誰にも先が見えない状態でした。

 3月1日(火)。衆院本会議で平成23年度当初予算案を可決しました。この中には、歳入に赤字国債の発行などの見積もりが盛り込まれていましたが、その裏付けとなる法律がいつ成立するかは不明なままでした。例年だとこの日に一括して法案は採決されるはずでした。昨年は自民党の1期生小泉進次郎さんが討論に立ち、「予算に反対、特例公債法案には賛成」と演説しました。しかし、ほとんど同じ内容の法案にもかかわらず、自民党は賛成してくれませんでした。

 3月2日(水)の財金委は、白川日銀総裁らへの一般質疑で終わってしまいました。

 そして、3月9日(水)。ようやく自民党が起き出します。参院予算委が終わった午後5時10分から委員会がスタート。民主党は早朝、昼間、夕方、夜を全部使って審議をしてほしいと要望していましたが、この日は2時間だけ。冒頭、自民党の後藤田正純・筆頭理事(当時)が「この委員会は古い伝統もあり、定例日以外はやらない。夜なべもやらない。私は個人的には夜8時でも、9時でもよかろうと思うが、きょうは夕なべの2時間の審議となった」と語りました。後藤田さんとしては、野党としてそろそろ起きて、少しずつ与党をいたぶろうという気があったようです。ところで、私も傍聴ノートを振り返ってみて、この過程で毎週(水)だけしか財金委は開かれていなかったことに気付きました。理事会では、毎日でもやろうとする、古本伸一郎・民主党側筆頭理事と野党側理事との攻防があったと考えます。ぜひ、理事会もネット中継を考えて欲しいです。

 しかし、この3月9日の起き抜け2時間審議。いうまでもなく、その2日後、3月11日に東日本大震災が発生しました。不透明の次に来た大不安。そして、特例公債法案の審議がストップしている間に後藤田筆頭理事は女性スキャンダルが雑誌で発覚し、山本幸三さんが筆頭理事のバトンを受け継ぎました。この「3月9日起き抜け2時間」という間の悪さは、私は、後藤田さんにとってはある意味、天命であり、彼の性根が生んだ事態なのかもしれません。あまり、後藤田さんのことはよく知りませんが、そういう傾向が今国会にはあります。

 ◇

 話は飛んで、7月29日(金)。この日は金曜日ですが、財金委が開かれ、久しぶりに特例公債法案が議題となりました。ただし、実務者(民主党・城島光力さん、自民党・鴨下一郎さん、公明党・坂口力さん)の修正協議が進んでいるため、本題とはズレがちでしたが、野田財務相が「野党の理事のみなさまのご協力で審議ができ感謝します」として本来は自民党用語である「バラマキ4k」という言葉を民主党財務大臣が自ら使って、低姿勢を貫きます。そこで、自民党1期生の齋藤健さんが「震災が起こったことを契機に財政を見直したらどうか」と発言。で、今調べたら、やっぱり齋藤さんは東京っ子(港区)なんですね。こういう空気を固めて言葉にするのは東京っ子議員の役回り。野田大臣が特例公債法について「会期末(8月31日)までに成立しないと(次の第178国会前には)予算の執行の抑制につながります」と答弁すると、齋藤さんは「よく分かりました。その点を踏まえて国会も対応しないといけないですね」と応じました。

 そして、8月2日(火)にはまたしても驚くべき事態が。この日も特例公債法案が議題となりましたが、自民党・無所属の会が持ち時間の2時間40分を、茂木敏充さん一人に配分しました。茂木さんは質問がスタートして1時間半後の時点でも、「金融担当大臣、ちゃんと質問通告しているでしょう。このパネルをちゃんと見てください」と、さすが自民党広報本部長と思わせる一人舞台を演じました。とはいえ、1人に2時間半も質問時間を与えているのですから、「もうそろそろいいのではないか」という雰囲気が出たのではないか、と想像します。

 そして、8月9日(火)に3党合意が成立しました。

2011年8月9日(火)の民主党、自民党、公明党の3党合意文書。
民主、自民、公明の3党は、以下の点について確認する。
一、歳出の見直しについては、以下の通りとする。
    高速道路無料化については12年度予算概算要求において計上しないこととする。
    高校無償化、農業戸別所得補償の12年度以降の制度のあり方については、政策効果の検証を基に、必要な見直しを検討する。
    なお、これらを含めた歳出の見直しについて、11年度における歳出の削減を前提に、11年度第3次補正予算ならびに12年度予算の編成プロセスなどに当たり、誠実に対処することを確認する。
一、歳出の見直しと併せ、子ども手当等の見直しによる歳出の削減について、11年度補正予算において減額措置することを、特例公債を発行可能とするための法案の付則に明記する。
一、法人税減税等を含む11年度税制改正法案(その内容を一部切り出して6月22日に成立した法律にあるものを除く)については、復興のための第3次補正予算の検討と併せ、各党間で引き続き協議する。
一、東日本大震災復興基本法第8条に規定する復興債の償還財源の具体的内容や償還ルールなど、あらかじめ決めることとされているその償還の道筋については、第3次補正予算の編成までに、各党で検討を進める。
 一、11年度第1次補正予算における財源措置として活用した年金臨時財源については、第3次補正予算の編成の際に、復興債で補填(ほてん)することとし、そのための財源確保策と併せて、各党で検討
する。
一、以上を踏まえて、特例公債を発行可能とするための法案について速やかに成立させることとする。
 以上、確認する。


 これを受けて、8月10日(水)の午後1時半に財金委が開かれました。初の菅直人首相が入っての財金委員会となりました。そして、民自公3党が、「補正予算での減額」を盛り込んだ修正案を出しました。午後3時38分、修正案は可決され(日本共産党が反対)、翌日8月11日(木)の本会議で参院に送られました。

 さて、この8月10日(水)の財金委は、あたかも、野田佳彦財務大臣、自民党で質問に立った野田毅さん、公明党で質問に立った竹内譲理事ら3人とも旧新進党員でした。そして自公の旧新進党員が、イデオロギー対立のない政権可能な二大政党による政権交代ある政治を1994年~1997年にめざした旧新進党員からは一人も出ていない内閣総理大臣を出そう。固有名詞は言わなくても誰のことだか分かりますが、そのような風情でした。やはりオリジナル民主党の共同代表が2人総理をやったので、ここで、「新進党勢」を首相にして民自公にちらばる人脈を活用すれば、衆参ねじれの中、政治を前に進めることができるのではないかと考えます。総理が使い捨ての状況が続いていますが、ここで土台を作り、国会法や内閣法の改正までいってから解散すれば、どちらが政権を担おうとも首相が使い捨てにならないシステムをつくれるのではないかと考えています。これについては、固有名詞も絡み、いろいろと叩かれやすいので、エントリーを改めて、来週にもアップしたいと思います。

 なお、閣法2号である「国税などの改正法案」はいまだに衆・財金委にとどまっています。私としては、おそらくこの法案は会期末で廃案になるのではないか、と推測しています。廃案になると、法人税率の5%引き下げと、相続税率の5%引き上げと控除額の引き下げ(5000万円→3000万円)が実施されません。税理士さんでもどうなるか分からない人がいるでしょうが、当面、相続税制は変わらないのではないでしょうか。国会の場で税制改正が部分的とは言え見送られる、という異例のケースとなりそうです。

 それと、石田勝之委員長(埼玉2区)がしっかりと委員席にすわり、議事を進めました。委員長は理事に席をときどき替わってもらえますが、石田委員長は他の委員長と比べても、しっかりと委員長席(議長席)に座り、きっちりと議事をこなしていた印象です。選挙区のライバル、自民党の新藤義孝さんが訪韓で名を馳せましたが、地味に委員長職をこなした石田さんを選挙区の人はきっちりを評価に入れて欲しいと願います。

 ところで、予算関連法案を中心に現地やネットで傍聴していて気づいたことがあります。今国会の衆院では、財金委が可決し、翌日の本会議の日程として採決されることが多かったです。その一方で総務委員会では午前中に審議し、可決し、その日の午後の衆本に緊急上程して採決することが多かったように思います。財金委は衆院議員の野田大臣と参院議員の自見大臣が出席するのに対して、総務委は、民間人の片山大臣だけですから、日程調整はしやすいと考えます。それなのになぜ総務委は緊急上程ばかりだったのか。前半国会で与党側筆頭理事をしていた人は「3・11」で両親、奥さん、長男、秘書が津波で流され難儀した方なので、あまり触れたくないのですが、なぜ総務委の日程は財金委より半日ずつ遅れたのか? 国会というのは、人がやっているんだという当たり前の現実を痛感し、小沢一郎氏という人の独断的手法で新進党を壊してしまったことで、救いようのない天罰を現代の日本国民にもたらしている、と私は改めて思います。

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