民主党幹事長の岡田克也さんが2011年3月5日(土)午前、「赤字国債発行法案が遅れれば、国債の格付けが下がり、長期金利が上がりかねない」と述べました。そのうえで、「政党政治そのものが問われている」、「イチバン大事なことは民主党が国民に信頼される政党でなければならない」「こういう時こそ人間は見られている」と述べ、野党に歩み寄るよう、民主党議員にまとまるよう呼びかけました。
テレビ東京・BSジャパンの「田勢康弘の週刊ニュース新書」での発言。ホスト役の田勢・元日経政治部次長(元論説副主幹)が予算関連法案について、「私はこれは民主党にとってもピンチですけれども、日本の政治にとってもピンチだと思うんです。私は、自民党の人にも、『自民党にとってこれはタイヘンなピンチじゃないか。ここで野党としての対応を間違うと、政治そのものが国民の信頼を全く失ってしまう』と申し上げています」話を向けました。
岡田さんは、自民党幹事長の石原伸晃さんとの都内での会談について、「きのう石原さんとお会いして、石原さんも(神奈川県の講演などで会談内容について)おっしゃっているので、私も(岡田・石原会談の内容を)申し上げたいと思いますが・・・」と断った上で、赤字国債発行臨時特例法案について、「公債特例法案について、『このままでホントウに良いのか?』ということを申し上げたんです。このまま3月末越したときに、やはりこのことが国債の格下げにつながることがゼロとは言えない。そうすると、長期金利も上がるということになりかねない。まあ、そういうことになれば、(今現在、住宅)ローンを持っている人や、あるいは会社にも影響があって。あるいは、これからお金借りて、家を建てようと言う人や設備投資をしようという会社が慎重になれば、景気の先行きにも影響する。そういう問題について、もてあそんでいいのか、と。つまり特例公債を出すということだけが書いてある法案ですから、それについて反対する理由がないと思うんですね。40兆円の(平成23年度の新発国債のうち)半分は過去の借金の償還と利払いですから。もちろん我々(民主党政権)も責任がないと言いませんが、だけど、自民党や公明党にも責任はあるわけですから。ここは真摯に考えて欲しいと思います」と語りました。
私が記憶する限り、岡田さんが、赤字国債発行臨時特例法案の年度内成立が遅れた場合の、長期金利への影響に言及したのは初めてだと思います。また、閣僚や党幹部が言及したのもおそらく初めてではないか、と考えます。
これは土曜日の午前中ということで、日本マーケットは休場ですし、アジア、欧州も閉じ、米国市場もおそらく閉場に近い時間帯だと思います。また、年度末まで残り19営業日(日本市場の春分の日の休場のぞく)というタイミングなど様々に考慮したうえでの発言だと思います。
冒頭の画像は、岡田さんがちょうど長期金利について語っている場面です。さすがの岡田さんもゆっくりと言葉を選びながらの発言なので、手振りがいつもより多くなっています。きょうの岡田さんのテレビでの発言は、実は、分かっている人には前々から分かっていることでした。しかし、それを初めて言及した岡田さんの勇気と、その精緻さには感服します。筆者も、正直こうやってビデオを繰り返し聞き取りながら、文章起こしをするのは、しんどいですが、これは国益のために、エントリーにしないといけないという使命感で書いています。
田勢さんが「そこは石原さんはある程度理解を示されるんですか?」とたずねると、岡田さんは「気持ちのうえでは理解しておられるかもしれませんが、(昨日の会談での)答えは『反対である』とのことですので、『ホントウにそれでいいんですか?』と。石原幹事長を説得したものの、きのうの時点では賛同を得られなかった、と明かしました。
さて、ここから筆者の意見です。
まず、長期金利(新発10年国債利回り)は1・300%前後となっています。国債といっても、財務省から新規発行国債を買うだけでなく、既に発行された国債はマーケットで売り買いされます。このとき、国債の値段(表面価額)が安くなると、長期金利は上昇します。比喩を使って説明します。たとえば、8年後に償還期限を迎える国債を買うとします。で、その国債を買った時点で、地面に立って、8年後の国債の(償還額+利払い額)を見上げたとき、仰角(仰ぎ見る角度)が例えば、30度だったとしてください。その30度、あごを上げた分が、8年後に儲かるお金です。そこに一つの星があるとします。そして、その後、日本が“地盤沈下”したとして、表面価額が安く売り買いされるようになったとする。そうすると、地面から50センチ掘り下げたところから星を見る。そうすると、仰角は45度になるかもしれません。すなわち、国債の値段あるいは価値が安くなると、仰角が高くなります。つまり、これは「より儲かる」ことになります。国籍を問わず、儲かってうれしい人はいるでしょう。しかしそもそも日本国債の価値が下がるということは、日本国・日本政府への信頼が下がるということです。そして、日本国債のほとんどは、「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」のほか、銀行、生命保険会社が持っています。このため、各社が保有する国債の価値は大きく値崩れし、数兆円規模の含み損を抱えます。もちろん、この含み損はすぐに処理しなければいけないものではありませんが、各社は貸し出しに回すお金について慎重になるでしょう。また、銀行はこの長期金利に基づいて、新規融資の利率を決めていますし、すでに融資したものであっても、長期金利に連動する格好の商品があります。また、表面価額が値崩れするからと、国内の金融機関だけで、数百兆円の国債を持っているのですから、いっぺんに売りに出たら、さらに値崩れします。よって、日ごろは多様な意見を述べるエコノミストたちも、「ゆうちょ銀行・かんぽ生命は保有する国債の100分の1も売りに出せないだろう。売りに出したら資産が目減りするから」という意見で一致しています。ただ、国内外のすべての機関投資家が同じ状況、同じ考え方ではありません。そして、なにより、この期に乗じて、おそらく外国籍のヘッジファンドなどの機関投資家が投機的な揺さぶりをかけてくる隙が生じる可能性があります。国債の格付けや表面価額は、けっして、日本国・日本人・日本政府の信用への正当な評価ではないのです。マネーゲームなのです。
これだけ国債を発行していて、長期金利が1・300%前後に収まっているのは、日本国・日本人・日本政府が信頼されている証拠であり、それは胸を張って良い。あるいは、日本人のムラ社会、人口移動が少なく、都会に出て会社に勤めても統制が厳しいということの裏返しかもしれません。それはさておき、「足して2で割る」のがお得意の日本人には気付かないことですが、このパーセンテージ(百分率)というのは掛け算です。掛け算はおそろしい。たとえば、長期金利が1ポイント上がるというのは、日本国債では長期金利が2倍になるということで、国債の利払いが数兆円増えます。平成23年度の国の一般会計の税収見込みは40兆9200億円です。それで数兆円の積み増し分はかなり負担が重いです。
で、まずは落ち着いてください。そして、もしも、このエントリーに書いてあるようなことを金融機関から言われて、3月中の住宅ローン新規かけ込み契約を考えている人は、まずはいったんハンコを置いて、親族に相談してみることです。金利が低かろうが、高かろうが、返せる人は返せるし、返せない人は返せません。いざというときに頼りになるのは、親族ですから、なんちゃら法案よりもまず、親族をしっかり固めてください。
では、田勢さんの番組に戻ります。
この、いわば「3月危機」ともいえる状況について、岡田さんは「政党政治そのものが問われているということですので、政治がなくていいや、という風潮になりかねません」「イチバン大事なことは民主党が国民に信頼される政党であるということで、そこの基本が崩れたら、政治そのものがおかしくなりますし、民主党も将来がないと思うんです」と述べました。
そして、統一地方選立候補予定者も含めた、全議員に向けて、「こういうときこそ人間は見られている、ということを考えて欲しい」と語りかけました。
なお、詳しい方は、次のエントリーもご参照下さい。これは2009年8月4日に、BS11「インサイドアウト」に出たときのようすをエントリーにしたもので、このときは7月21日に既に衆議院は解散され、8月18日の公示・30日投開票のあいだに外国為替特別会計・外貨準備高の米財務省証券など、およそ1兆ドル(およそ100兆円)の扱いについて、政権交代があった場合の対応についてのメッセージです。2009年8月5日付エントリー)岡田幹事長が「米国債は売らない」と断言
この時期、民主党政調会職員(須川清司さん)と、岡田さんの衆院議員としての政策秘書(本庄知史さん)の2人が、米側の「政権交代を見越して、意見交換をしたい」との要望で当時の鳩山由紀夫代表の正式な名代として、ワシントンを訪問をしていました。私の記憶では、政権交代後に、円ドル相場の大きな変動はなかったと記憶しています。
繰り返しになりますが、「こういうときこそ人間は見られている」ということです。
そして、日本政治、国会全体でいえば、まあなんとかなる、と思います。複数の方から、「私も宮崎さん同様楽観的に見ています」とのメールをちょうだいしています。楽観的に、泰然自若でいましょう。ただ、このエントリーは書いていて、とても肩が凝りました。ロボコップになりたい・・・
追伸) なお現在コメント欄を閉鎖中ですが、よく「しっくいさんと宮崎さんのコメント欄のやりとりを読むと、安心する」というご意見もちょうだいします。なので、しっくいさんから、メールをもらえたら、その辺も追記でご紹介します。しっくいさん、お待ちしております。この時期、お忙しいでしょうが、よろしくお願いします(^_-)
【追記 2011-3-6 9:00】
というわけで、あっという間に「しっくい」さんから、メールをちょうだいしました。メールですので、本名の部分がありましたので、その部分は修正して、しっくいさんのご意見をご紹介します。
[しっくいさんからちょうだいしたメールから引用はじめ]
感覚的なものなのですが、最近の菅総理と岡田幹事長の動き(発言の内容やタイミング、処分の仕方)は安心して見ていられます。
さきほど宮崎さんのこのエントリーを見たときも「おおっ幹事長がいよいよ踏み込んだなあ、宮崎さんの解説どおり考えてのこの時期での発言なんだろな」と安心して受け止めました。
自分が安心してみていられる原因は「危機にもあっても組織のナンバー1とナンバー2の信頼関係が崩れていないことが見ていて判るところかな」と自分なりに分析してみました。
また、ねじれの中でも国家予算を目標どおり衆院通過させることができたのが政権党の執行部としての大きな自信に繋がっているのだろうなとも思いました。
なにか見ていて民主党チームが信頼感を保ちつつ目標を達成していくことにワクワクしております。
トップ(菅総理)がやりたいこと(どんなに苦しんでも一政権が4年間任期を全うしてその結果を国民が判断する政治文化の定着)を民主党の多くの人たちが理解し始めたような気がします。
執行部内の意思疎通もかなりよくなっているような気がし、「チーム民主党」で少なくとも執行部は闘っている感じがして見ていて安心します。
何か漠然とした感じの主観的なコメントばかりで申し訳ないですが、目端の聞く評論家たちも、菅政権にかなり懐疑的で小沢一郎復権もあり得るとしていた花岡氏が衆院予算通過を境に一気に論調を変えたり、田原総一郎氏も同時期にコロッと論調を変えてきておりと雰囲気が変わってきているのではないでしょうか。
・「解散」に追い込めない自民党の力量
2011年3月3日
・菅首相はどこまで粘れるか、退陣への道筋と後継者を読み解く
2011年2月24日
ttp://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090513/152254/?rt=nocnt
・菅内閣は意外と持ちこたえるかもしれない
2011年3月3日
・あの政治家が民主党をつぶそうとしている
2011年2月24日
ttp://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20080923/100463/
[しっくいさんのメール引用終わり]
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しっくいさん、ありがとうございました。
【追記終わり】