【2005年度7月度収支報告】
7月度の実現損益は51万円程の黒字でした。![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_fine.gif)
・株式 42万円程の利益
・日経225オプション 9万円強の利益
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・合計 51万円程の利益
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【三島由紀夫:潮騒】
以前、司馬遼太郎さんのエッセーを書き移しましたが、文章を書く上で勉強になりました。それで、今度は三島由紀夫の「潮騒」のハイライトシーンを書き移してみます。
新潮文庫の69ページからです。
彼は雨合羽を脱ぎ、ズボンのポケットに燐寸(マッチ)を探した。船の生活の用心深さが、出かけに燐寸を携えることを彼に教えたのである。指は燐寸に触れる前に、朝、浜でひろった貝殻にふれた。それをとりだして、窓の光に翳(かざ)すと、まだ潮に濡れているかのように、桃色の貝殻はつややかに光った。若者は満足して、またそれをかくしにしまった。
湿っている燐寸はつきにくかった。彼は崩した一つの束から、コンクリートの床に枯松葉や粗朶(そだ)を積み上げたが、陰気なくすぶりが小さな焔になって閃くまでには、室内はすっかり煙に充ちた。
火のかたわらに、若者は膝を抱いて座った。あとは待つだけであった。
――彼は待った。少しの不安もなしに。自分の黒いセエタアのほうぼうの綻(ほころ)びに、暇つぶしに指をつっこんで拡げてみたりしながら、若者は徐々に温まってくる体の感覚と、戸外の嵐の声とにぼうっとして、疑わない忠実さそれ自体が与える幸福感に漂っていた。持ち合わせのない想像力は彼を悩まさなかった。そして待つうちに、膝頭に頭をのせて眠り込んだ。
・・・・新治が目をさますと、目の前には一向衰えていない焔があった。焔のむこうに、見馴れないおぼろげな形が佇んでいた。新治は夢ではないかと思った。白い肌着を火に乾かして、一人の裸の少女がうつむいて立っている。肌着をその両手が低いところで支えているので、上半身はすっかり露わである。
それがたしかに夢ではないとわかると、ちょっとした狡知(こうち)がはたらいて、新治はなお眠ったふりをしたまま薄目をあいていようと考えた。しかし身じろぎひとつしないで見ているには、初江の体はあまりに美しかった。
海女の習慣が、水に濡れた全身を火に乾かすことに、さして彼女を躊躇(ちゅうちょ)させなかったものらしかった。待ち合わせの場所へ来たとき、火があった。男は眠っていた。そこで子供らしい咄嗟(とっさ)の思案から、彼女は男が眠っているあいだに、濡れた衣類と濡れた肌とを、いちはやく乾かしてしまおうと考えたものらしかった。つまり初江は男の前で裸になるという意識はなく、たまたま火がそこにしかなかったから、その火の前で裸になったにすぎなかった。
新治が女をたくさん知っている若者だったら、嵐にかこまれた廃墟のなかで、焚火の炎のむこうに立っている初江の裸が、まぎれもない処女の体だということを見抜いたであろう。決して色白とはいえない肌は、潮に絶えず洗われて滑らかに引き締まり、おたがいにはにかんでいるかのように心もち顔を背けあった一双の固い小さな乳房は、永い潜水にも耐える広やかな胸の上に、薔薇いろの一双の蕾をもちあげていた。新治は見破られるのが怖さに、ほんのすこししか目を開けていなかったので、この姿はぼんやりとした輪郭を保ち、コンクリートの天井にとどくほどの焔を透かして、火のたゆたいに紛れて眺められた。
7月度の実現損益は51万円程の黒字でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_fine.gif)
・株式 42万円程の利益
・日経225オプション 9万円強の利益
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・合計 51万円程の利益
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【三島由紀夫:潮騒】
以前、司馬遼太郎さんのエッセーを書き移しましたが、文章を書く上で勉強になりました。それで、今度は三島由紀夫の「潮騒」のハイライトシーンを書き移してみます。
新潮文庫の69ページからです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/book.gif)
湿っている燐寸はつきにくかった。彼は崩した一つの束から、コンクリートの床に枯松葉や粗朶(そだ)を積み上げたが、陰気なくすぶりが小さな焔になって閃くまでには、室内はすっかり煙に充ちた。
火のかたわらに、若者は膝を抱いて座った。あとは待つだけであった。
――彼は待った。少しの不安もなしに。自分の黒いセエタアのほうぼうの綻(ほころ)びに、暇つぶしに指をつっこんで拡げてみたりしながら、若者は徐々に温まってくる体の感覚と、戸外の嵐の声とにぼうっとして、疑わない忠実さそれ自体が与える幸福感に漂っていた。持ち合わせのない想像力は彼を悩まさなかった。そして待つうちに、膝頭に頭をのせて眠り込んだ。
・・・・新治が目をさますと、目の前には一向衰えていない焔があった。焔のむこうに、見馴れないおぼろげな形が佇んでいた。新治は夢ではないかと思った。白い肌着を火に乾かして、一人の裸の少女がうつむいて立っている。肌着をその両手が低いところで支えているので、上半身はすっかり露わである。
それがたしかに夢ではないとわかると、ちょっとした狡知(こうち)がはたらいて、新治はなお眠ったふりをしたまま薄目をあいていようと考えた。しかし身じろぎひとつしないで見ているには、初江の体はあまりに美しかった。
海女の習慣が、水に濡れた全身を火に乾かすことに、さして彼女を躊躇(ちゅうちょ)させなかったものらしかった。待ち合わせの場所へ来たとき、火があった。男は眠っていた。そこで子供らしい咄嗟(とっさ)の思案から、彼女は男が眠っているあいだに、濡れた衣類と濡れた肌とを、いちはやく乾かしてしまおうと考えたものらしかった。つまり初江は男の前で裸になるという意識はなく、たまたま火がそこにしかなかったから、その火の前で裸になったにすぎなかった。
新治が女をたくさん知っている若者だったら、嵐にかこまれた廃墟のなかで、焚火の炎のむこうに立っている初江の裸が、まぎれもない処女の体だということを見抜いたであろう。決して色白とはいえない肌は、潮に絶えず洗われて滑らかに引き締まり、おたがいにはにかんでいるかのように心もち顔を背けあった一双の固い小さな乳房は、永い潜水にも耐える広やかな胸の上に、薔薇いろの一双の蕾をもちあげていた。新治は見破られるのが怖さに、ほんのすこししか目を開けていなかったので、この姿はぼんやりとした輪郭を保ち、コンクリートの天井にとどくほどの焔を透かして、火のたゆたいに紛れて眺められた。