けろろの「浜あるき・野良あるき」

漁あるところ、農あるところへ、風土のにおいに誘われて、いそいそ出かけています

瀬戸内海、アマモの石風呂

2011-03-09 02:33:44 | 浜あるき
広島県竹原市、忠海駅の近くに「国宝にしてもいい!」ような、すんごいお風呂があります。
海っぺりの洞窟に掘られた岩穴の床に、直接ガンガン焚き火をして岩ごとあっため、
炭と灰をかきだしてから、海水を含ませた藻を敷きつめる、一種のサウナ風呂です。

もともと温泉がわいていない瀬戸内海沿岸には、中国四国合わせてたくさんの石風呂があったそうです。
それが、今では4つに減り、そのうちの3か所はイベント時のみの営業。
日常的に、日帰り入浴施設として営業しているのは、ここだけ。最後の1か所!!!です。

  

端っこの小屋が脱衣所。手前の岩山の中にお風呂があります。
岩穴は戦時中の、軍事用運搬船の秘密格納庫。戦後に、先代がお風呂にしたそうです。
穴は2連になっていて、火を焚く「あつい方」と、熱い空気を送り込む隣の「ぬるい方」があります。
水着に着替え中に入ると…、一瞬息がつまる熱さ。藻から上がる湿気が雲みたいに見えます。1分で汗だくに…。
でも、藻の香りがただよい、うす暗くてなんだか胎内のようでもあり。“癒し”の空間ですね、これは。



焚きつけは、近隣の山のシイやカシ、マツなどの剪定枝。ガスや石油は使いません。
「お百姓さんにしばってもらう」のを買うそうです。この調達がまず大変。
もっと調達に苦労する、しかしいかにも瀬戸内海らしいのが、熱くなった床に敷きつめる藻のアマモ。

  

アマモは最近、海の自然再生のキーワードになっているので、ご存知かも。
浅く穏やかな内海に生える藻ですが、海藻ではなく、イネに近い種子植物「海草」。
アマモが茂る藻場は別名「海のゆりかご」といわれ、生き物の産卵場所や隠れ家です。

かつて瀬戸内海沿岸は一面の藻場で、船が立ち往生するほどでしたが、埋め立てと濁りで急激に消えました。
今、アマモの海を取り戻そうと、自治体や漁協、環境団体などが、種まきや苗移植に懸命に取り組んでいます。
そのアマモを、惜しげもなく刈り取ってお風呂に敷きつめるとは、何たるぜいたく!!
近くの安芸津に豊かな藻場があって、夏に1年分を刈っても、翌年にはまた元通り回復しているそうです。

ご主人ご夫妻が、超がつく好人物で、お茶を飲みながら色々とお話を聞かせてくださいました。
すべての作業を1人でこなすご主人は70歳。後継者はありません。
「あと5年で終わりだな。スーパー銭湯がこんなにできたから、経営はギリギリだよ」。

海山両方の自然の恵みで成り立つアマモ風呂。自然のバロメータともいえるのでは?
これは日本人の宝ですよ~。
文化財に指定してでも、何とかして守り続けないといけないのではないでしょうか?