佛教お伽噺 その二 牛窪弘善 譯
盲人と象
むかしむかし印度(いんど)といふ國に一人の王様がありました。或る日のこと、お家来(けらい)にいひつけて一匹の象(ぞう)を牽(ひ)き出させました。そして大勢(おおぜい)の盲人をお呼び寄せになりまして、
『何だか當(あ)てゝみろ。』
とおほせられました。盲人どもはかしこまつてそろそろ象(ぞう)の體(からだ)を撫(な)で始めました。そこで王様は、
『どうだね、象という獣(けもの)は一體どんなものだ。』
すると象の牙(きば)を撫でゝゐたものは、
『象の形(かたち)は丁度、葦(あし)の根(ね)の様なもの・・・・』
と申し上げる。耳にさはつたものは、
『箕(みの)の様だ。』
といひ、頭にさわつたものは、
『石の様な形だ。』
といひ、鼻(はな)を撫(な)でまはしたものは、
『杵(きね)の様だ。』
といひ、脚(あし)をさすつたものは、
『いや、臼(うす)の様なものだ。』
といひ、背(せな)を撫でたものは、
『いやさ、床(とこ)の様だぞ。』
腹(はら)を撫でゝゐたものは、
『これは全(まつた)く甕(かめ)の様だ。』
尾(お)を撫でゝゐたものは、
『なんでも縄(なわ)の様なものだ。』
といひました。
盲人がいくら寄つてたかつても象(ぞう)の體(からだ)はどんな形(かたち)だか、ほんとにわかつて申し上げたものは、一人もなかつたのです。なぜわからなかつたかというと象(ぞう)という獣(けもの)は非常に大きくて一時にのこらず撫でまはす事が出来ないからです。
(涅槃経より)
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