ブタに身体を乗っ取られた時に彼女の悲惨な人生を体験出来た。ブタは生まれ
つきの霊能力者で、人が考える事はある程度聞こえた。そのため、耳を塞いでも
聞こえる罵声に悩まされた。ブタが人肉嗜食に進む過程にこの特殊な能力に振り
回され続けた事があげられる。自分の醜さから逃げる為に人の身体は器と思う
気持ちが非常に強くなっていく。すなわち、身体は交換出来るといった単純で
原始的な倒錯である。その考えに、自分本位な宗教儀礼と性的な幻想が入って
いく。食材としても思考としても、若い男女しか喰わない意味がそこにあった。
ブタが幼い頃、父親の折檻、性的虐待を母親に訴えた。母親はなんとかすると
約束した。しかし、その約束は自分達の私有地近くにある湖でロッジで破られる。
家族旅行として行ったはずのロッジでブタは父親に性的虐待を受けていた。
それを母親は見て見ぬ振りをしたのだ。その夜、ブタは母親を殺した。これが
最初の殺人だった。しかし、母親の顔はおぼろげではっきりわからない。
田舎の成金の父親は地元でも権力をふるい、人々に恐れられていた。父親の殺害
計画は考えられないくらいに、父親は恐ろしかった。幼い頃から、虐待されたり、
学校で虐められたりすると、親が所有する山に登って自分の空想の世界に浸る
のが習慣だった。ブタがあのビルに来る3年前、いつものように山を登っていると
古びた山小屋で男が母娘を監禁する所を目撃する。その男が高田だった。ブタは
他人が監禁される所を見る事によって、歪んだ性的興奮と鬱屈した精神状態を開放
する事ができた。ブタは早速、家に帰り、キャンプ道具を持って再び山に戻って
来た。監禁2日目にして、母娘にブタが観察している事がバレる。助けを求める
母娘に対して、ブタは笑うだけだった。4日目にブタは少し人間らしさを取り戻す。
自分がやっている事は母親にされた「見て見ぬ振り」と同じ事だと思い、山小屋
周囲に山の麓に捨ててあった斧を数本置くといった行動をする。歪んだ自責の念
ではそれが限界だった。5日目に母娘が悲痛な脱出をした後、ブタは興味本位で
後をつけようとした時に様子を見に来た高田と遭遇する。その日から高田はブタの
奴隷となった。弱みを握られ、脅された高田はブタのカニバリズムの使者となる。
高田は仕事柄、情報源は豊富で、都会で孤独な若者を探し出すのは簡単だった。
高田が「ブタにストーカーされている」と言ったのは苦し紛れに言った嘘だった。
彼は元恋人・いくこにストーカーされていると思い込んでいた記憶を応用したので
ある。利己主義の高田は、ブタの目的など考えずに情報を流していたが、暴走する
ブタに恐れを抱き出した。関係を徐々に断ち切るため、自分がついた嘘を逆に利用
して、あの落書きを思いついた。ブタは元々精神に支障をきたしている所から、
ストーカー説で彼女を法で遠ざけれると思ったのだ。次の日に社員達に発見させる
目的でやった落書きが、まさかブタに追われている由里郁子に見つかると思って
なかった。警察に捜査されるのはまだ早いと焦った高田は外部と連絡を断ち切った。
事件中にブタが人間に対して発していた言葉は本体ではなく怨霊に対してだった。
由里郁子には母娘を視て、高田には自分の母親を視た。ブタは人か霊か見分けが
つかないくらいに錯乱していた。ブタは怨霊に、母娘は人間に復讐していたのだ。
この事件の怨霊はなぜ復讐したい人間に馮依しないのか。人間は自分の事を
怨んでいる怨霊を拒否する事ができるのか。現世で物質的な形で殺したいと
いった怨霊の念なのか。霊界にも掟があるのか。それは誰もわからない。今回
の事件で、人間の肉体はただの器で乗り物であるという事実だけが残された。
最終話と言いながら、今日の夜にエピローグを更新します。読み終えた方は
拍手してください。そして、皆に自慢してください。 ボスヒコ
どんよりとしたこの浮遊感は高熱にうなされる感覚だった。頭が強烈に痛い。
身体が動かない。完全に彼女の身体をブタに制覇されていた。ブタの魂は肉体
など必要なかった。悪魔が踊り、死と言う飲み物を差し出す。彼女は暗闇の中に
落ちて行く。いろんな感情はそげ落ちていき、醜い怨みだけが残りつつあった。
ブタは気絶している彼女の身体を立ち上がらせるだけではなく、空中を浮遊する。
生きている時から邪悪なエネルギーを持ったブタは、自分の肉体と言う枷が無く
なった今、更に凄まじい力を発揮し出した。白目を向いた彼女がブタの負の
咆哮を吐き出すと病院内の電気系統が狂いだし、医療器具などが飛び交った。
「ゥゥゥウウオオオォオォオォゥゥウオオオォオォオォゥゥウオオオオ!!!」
彼女が空中から警官に襲いかかった。彼女を道具として利用したのではなく、
協力者として身体を借りたと思っていた母娘の霊は躊躇した。怨みがあるのは
ブタのみ。斧を振り切れず、まともに突進を受けた。高田の死体が乗っている
ベッドに両者とも雪崩落ちた。強力な力同士の衝突で窓ガラスが弾けとんだ。
………何か聞こえる………懐かしいような……寂しいような………
彼女の魂には音を探る気力はなかった。全てを諦め、暗闇に染まって行く魂。
生きる気持ちでも死にたい気持ちなどでもなかった。そこにあるのは怨みだけ。
何かが降って来た。暗闇のなかに雪が降り出したと思った。彼女の魂が手の
ひらを作り出し、その雪を掴んだ。手を開くと、それは雪ではなく、白い
花びらだった。氷のように冷めていた魂に暖かさが戻った気がした瞬間に
あの“白い手”に鷲掴みにされた。そのまま、凄い勢いで引き戻されて行った。
「グへッグへッブシュブシュ~シュ~ブァアッハッハッハッッハッハッ!!」
警官に馬乗りになった彼女の手には斧が握られていた。彼女が笑いながら、
警官にとどめを刺そうとした時、首、両腕が無い高田の死体が突如動き出し、
彼女の身体を両足で挟んだ。死体をも動かす力がブタの母親の怨霊なのか
喰われた若者達なのかわからないまま、圧倒的な力に恐怖して彼女は絶叫を
上げた。ブタの威力が弱まった瞬間、娘・ゆりの魂は彼女の魂を地獄から
引き戻し、元の彼女に身体に戻した。その勢いでブタの魂は彼女の身体から
追い出され、高田の死体を操っている強力な力の引力で死体に吸収される。
警官に馮依している母・いくこは斧を奪い取り、ブタを閉じ込めた高田の死体
の胸に斧を振り落とした。肋骨が折れる音が聞こえ、ポルターガイスト現象で
室内が吹き荒れ、部屋の四方から怨めしく悔しがるブタの絶叫が響き渡った。

大きな人の形をした黒い影が焼きついている。それはブタの形をしていた。
ブタを地獄に追いやれるのは、母娘の怨念と執念がこもった斧だけであった。
彼女は気を失った。その頃、モリが連絡した警察がやっと到着した。
若い警官は首なし男に追いかけられた時すでに精神状態が錯乱していた。
そんな状態で彼は逮捕されたが、情状酌量にて刑事裁判で揉めている。
その後、警察がいくら探しても高田の両腕と斧だけは見つからなかった。
ある湖から母娘らしい白骨死体が浮かぶが、彼女達の両手は存在していた。

「ぅううぐっ!!し!知らないよっ!!うぐっ!いいぃぃいや…めろ!」
彼女は右手に体重をゆっくり乗せていき、高田の前歯を曲げていく。高田は
充血した目を見開き、足をバタバタさせた。彼女は容赦なく全体重を乗せる。
「どこにあるのか言うのよ!!早く言ええ!!早く言うのよおお!!!」
高田は「話す」と言う意思表示をした。彼女は口からギプスを少しずつ離して
行く。その瞬間に高田は暴れながら大声で助けを呼んだ。彼女は首を絞めながら
ギプスで何度も顔を殴る。包帯からは血が滲み、彼女のギプスも割れ落ちて行った。
「言えっ!早く言えよおお!言えええ!!言えええええええええええ!!!!」
彼女の声質や音量が変化し、頭の中が真っ白になって行く感覚に襲われた。
首を絞める力も尋常ではない力に変わる。そこで、彼女も高田も気づいた。
(これは私じゃない!!母娘でもない!!これは!!ブタだ!!!!!)
「おおおおおおおおおおおおお!!!おおおまあああえええええ!!!!!
やくそくはああ!!!!約束やぶりやがってえええ!!えええええ!!!
もうおおお一回死んでこいやあああああ!!!!おっかあああああ!!!」
病室の外で私服警官達の叫び声が聞こえた。病室内で格闘している2人には、
外で起こった惨劇は聞こえなかった。病室の電気が、ドン!と言うあのラップ
現象と共に消えた。病室のドアが自動ドアのように勝手にゆっくり開く。そこ
には廊下の明かりで逆光になった“母娘”の1つの黒いシルエットが映っている。
“母娘”は高田がいるベッドに向かう。再び勝手にドアが閉まり、内鍵がかかる。
鼻血やよだれ、汗などを出して彼女は見た目も完全にブタに入れ代わっていた。
“母娘”に気づいた“ブタ”は何度も邪魔をされる事に怒り狂い、呼吸困難になる。
しかし、“母娘”は凄まじい力で彼女を高田から引き離して壁にぶつけた。そして、
黙って高田を見下ろす。高田は“母娘”の姿を見て安心し、泣きながらすがった。
「!た、助かりました!ありがとうございます!!おまわりさん!!!」
高田は礼を言った後にその若い警官がおかしいのに気づく。若い警官の右手には
あの「斧」が握られていた。(そ、そんな馬鹿な!?)警官の後ろに“母娘”の姿が
視えた。高田は絶望感と恐怖で顔色が変わり、吐く言葉も礼から謝罪に変わる。
「ゆ!許してくれ!! 殺すつもりはなかったんだ!! 俺には良い結婚話が
あったのに! お前…イクコがユリの認知を迫るから悪いんだ!!ぼ、僕の
子かどうかわ、わ、解らないじゃないかっ!!! だ、だから!!ちょっと
こ、懲らしめようと、お、思っただけで!! じ、自殺するとは!!!!」
若い警官は斧を振り上げた。そして、若い警官の中にいる“母娘”が口を開いた。
「…手は返してもらう…」
斧はギプスをしている高田の左手に振り下ろされた。ギプスが割れ、手が
ちぎれるまで振り下ろされた。それから今度は気を失いかけて動かす事が
できない右手を奪った。“母娘”は痙攣しだした高田に近づき、耳元で言った。
「私達は自分達の誇りの為に自殺しようとあの湖に行った……だが…
無念にも…自殺する前に殺されたのよ……あの湖に引きづりこまれたの……
今…お前に取り憑いている……ブタの母親の怨霊に引きづりこまれたんだよ…
……だから…お前達は許せないわ……絶対に!!!!」
高田が絶命する前に、“母娘”は彼の首をはねた。“母娘”の若い警官は壁の近くに
倒れている“ブタ”の彼女に近づいて行く。彼女自身は気絶していて動かない身体を
“ブタ”は立ち上がらせて行く。“母娘”は“ブタ”の首を切る為に斧を水平に構えた。

私は面会に必要な書類に名前を書き込んで、高田さんが入っている病室へ
向かう。私服警官らしい人達が病室の前に立っていた。重要参考人と言う
より、容疑者としての扱いに見える。おそらく、警察も高田さんに関して
何か掴みかけているに違いない。私はその警官達に軽く会釈して入室した。
高田は上半身を軽く起こし、女性と話していた。容姿端麗の女性は高田の
妻だった。女性は彼女にお見舞いの礼を言い、気遣って病室を出て行った。
彼女は高田が結婚していた事に驚くと同時に哀れな母娘の事を思い出して、
ヒステリックな感情が徐々に湧き出てきた。高田は動けるかげりの動作で
訪問の喜びを伝える。以前の彼女だったら、包帯だらけで痛々しい高田が
屈託のない笑顔で迎えてくれただけで、モリが言った事を疑問視しただろう。
しかし、高田がなんらかの形で、ブタとあの母娘に関与している事だけは
明らかだ。彼女は挨拶をほどほどにして、高田の横に行き、本題に入った。
「私の質問に正直に答えてね。……私、あの事件の時に“手”を見たって言った
でしょ。ある所で無惨な死に方をした母娘の怨霊のメッセージだったのよ。」
高田はうさん臭そうに彼女を見つめた。
「君はまだショック状態が続いているんだね。僕もブタに追いかけられる夢を
見てうなされているよ。気にしなくて良い。時間が解決してくれるよ」
彼女は白々しい高田に合わせる無駄な事はしなかった。
「それで…彼女達は「手を返せ」と言っているの……。その母親と恋人同士
だった高田さんはこの事をどう思う? そして、手はどこにあると思う?」
唐突の質問に包帯で隠れていない方の目が大きく開く。高田は彼女に言い返した。
「……君は警察か?…確かに昔の恋人が行方不明なんで事情聴取を受けた事は
あったが、ただそれだけだよ。誰だって忘れたい過去はあるんだよ。それを
この状態でほじくり出す権利が君にはあるのか? 手だと?何の事だか
さっぱりわからないね……これ以上の質問は無意味だ。もう、帰ってくれ。」
こいつ……!! 私の中で何かがうねる。気分も悪くなり、呼吸もしづらく
なって来た。私の中の母娘が怒っているのだろうか。拉致があかない事が
わかった今、普通の質問をしていては駄目だ。あの山奥で私だけが解った
小さな事実を高田さんに言えば、少しは話が展開するかもしれない。
「話は関係ないけど、高田さんはなぜ私を名字か名前で呼ばないの?」
「な、なんだそりゃ? 知らないだけだよ。君は頭がおかしい。」
「知らない?それはおかしいわ。だって面接官は高田さんだったし、それなり
の時間を過ごしているわ。言えない理由を言ってあげましょうか?」
「もういいよ。もうわかったから、帰ってくれ。君とは二度と会いたくない。」
「私の名前は「由里郁子」。アナタが見殺しにした母親は「いくこ」で娘が
「ゆり」。偶然とはいえ、どちらも罪の意識で呼べなかったんじゃないの?」
高田は看護婦を呼ぶスイッチに手を伸ばしたが、彼女が一瞬で取り上げて引き
ちぎった。そして、彼女の右手にされたギプスで高田の鼻を再び折った。叫びを
上げる前にギプスを口に押し込み、左手で高田の首を掴んで一気に絞めた。
「正直に答えないと殺すわよっ!!手は!彼女達の手はどこにやったのよっ!!」
明日、ほとんどが解ります。 ボスヒコ
この1週間、私は毎日苛ついてどうしようもなかった。ヒステリックな
気分が続くと思えば、無性に涙が止まらなかったりした。医者にはPTSD
(心的外傷後ストレス障害)だと診断された。私は事件関係者と今まで会う
のを拒んでいたが、自分を取り戻す為に高田さんに会う必要性を感じた。
高田さんの容態は、当時思っていたよりも軽かった。といっても重傷には
違いない。だが、治療やリハビリを重ねて行けば、以前のような視力や聴力は
無理らしいが、生活に支障がない程度には戻ると言う診断結果だった。現在、
重要参考人であり、重傷の高田さんは特別に管理された病室で入院生活を送って
いる。今日、私は同じ被害者として、高田さんに会う事を特別に許可された。
タクシーの中で携帯電話が鳴った。大学時代からの友人・モリだった。彼は
昔から不思議な能力を持っていて、過去・現在・未来を当てる事が出来た。
ただ、本人がやる気かどうかでその能力にムラがあったが、外れる事は
ない。「わからない」か「当てる」かのどちらかだった。私達の仲間うち
では診断料として酒をおごっては視てもらっていた。その彼に今回の事件に
ついて私は相談の電話をし、あの事件で経験した事は全て話した。その時の
彼は何も視えなかった。何か解ったらいつでも報告してと言って電話を切った。
「今、病院に向かっているんじゃないだろうな?」
彼の能力を解っているはずなのに、いつもながら驚かされる。
「そうだけど……。え? どうかしたの?」
「病院へは行くな。高田に会っては絶対駄目だ。」
「…でも、知りたい事があるの!それに…、少し、会ってみたいし…」
「それは同情で心が傾いているだけだよ。その感情は別に良い。それより、
君に取り憑いている者が高田に会いに行こうとしている。」
「それって……、どういう事よ!!」
私はつい大声を出してしまった。(取り憑いている者!? あの親子の霊!?)
「君も解っているだろうけど、あの赤い大きな手は母親で、白い手は娘なんだ。
あの時の彼女達には重い斧で手錠の太くて頑丈な鎖を切る力など出なかった。
だから、柔らかい部分、腕を切ったんだよ。ほぼ、死ぬ気だっただんな…。
ただ、この場所で虫けらが朽ちていくような死に方は嫌だったんだと思う。
そして親子は山小屋の近くの湖に身を投げた。その遺体は上がってはいない。」
「ど、どうしたらいいのよ!解ってんでしょう!!早く言ってよ!!」
「……。今から言う事を理屈で考えるなよ。…切り落とされた手を見つけ出せ。
それは警察に任せば良い。そうすれば、彼女達親子の遺体は発見され、成仏も
するだろう。だから、病院へは行くな。わかったな。」
モリの全てを知っているような口調に腹が立ち、ヒステリックに言い返した。
「はあ!?どこ探せばいいの!?山小屋と言っても私が夢見ただけで、どこの
山なのかわかんないのよ!? 警察にどう言って探させるのよ!ったく!!」
「高田が知っているさ。」
それは薄々感じていた事だった。山小屋であの女の子を見た時に……。
「君が見たあの母親は高田の恋人だ。その娘は、もちろん高田のガキだよ。」
モリは続ける。
「山奥に監禁したのも高田だ。理由まではわからない。」
私は涙が止まらなかった。無念だっただろう。私は私の中に取り憑いていると
思われるあの親子に高田の悲惨な姿を見せてやろうと思った。私はモリに言った。
「…わかった……。心配してくれてありがとう……。でも、私に憑いている親子の
為にも……病院にいくわ。」
「な、なんだって!?」
その時、タクシーが病院前に到着した。彼女は料金を払う為に財布を出す。
「おい!聞いているかっ!よく聞け!君に取り憑い……」
彼女は「ごめんね。」と言い、電話を切り、病院に入る為に電源も切った。
そうとも知らずにモリは言い続けていた。
「君に取り憑いているのは! ブタなんだよ!!!!」
わお ボスヒコ
ブタの事で知っている《真実》
検死の結果、ブタの体中に古い傷の後が大量にあった事が判明する。それは
両親の虐待を受けていた過去を意味するものがほとんどだった。
ブタが10歳の時に、近くの湖で母親が溺死体として発見される。事件性が
薄いと判断されて、自殺として片付けられた。
急に都会生活を強いられたブタは苦痛の毎日だった。ブタの性格に徐々に
暴力性が現れてきた事をオーナーである父親は知らなかった。アルバイトを
休みがちのブタに対して、注意と言う折檻をする父親に今までのストレスが
爆発し、ブタは父親の首を絞めて殺害したのである。狂気の末、父親の首を
切り落としている。初めて味わう快楽。その後、異常性を発揮して行く。
ブタを悩ませたのは死体処理だった。どこかに捨てようにも発見される
可能性が高い。運転免許がないブタにとって、自分の私有地の山に
埋めに行く事も出来ない。ブタが考えた証拠隠滅は「喰う」事だった。
喰ってしまえば、何も残らない。死体遺棄であり、死体損壊。常軌を逸した
人間の思考は私達には理解できないが、ブタにとってはその方法以外は
考える事が出来なかった。早速、米国製の業務用冷蔵庫を購入する。
ずさんな調理で肉を頬張り、作りすぎた肉は刻んでゴミ捨て場に捨てていた。
しかし、都会には肉を捨てている事をバラす犯人がいる。それはカラス、犬、
猫などの畜生だった。奴らが全て喰ってくれれば言う事はない。だが、奴らは
散々荒らしまくって食べ残す。成長した犬を飼って喰わす事も考えたが、人間
同様に動物と過ごす事もブタには出来ない。畜生ごときでバレる事はないと
思っていても、2階の窓からゴミ捨て場を見張るのがブタの習慣となっていた。
ある日、近所の浮浪者がゴミ箱をあさって、肉を喰ったのである。それが
きっかけとなり、ブタは肉を捨てるより、他人に喰わして証拠隠滅を計る
ようになった。調理して作りすぎた肉は、“おすそわけ”として近所の公園で
たむろしている浮浪者や路上生活者に振る舞った。彼らのほとんどは礼を
言うが文句は言わない。喰わなかったり、喰い残す奴は殴って喰わした。
同時期に、ブタが働いているコンビニの弁当に何件かクレームが出ていた。
そして、証拠隠滅が目的で「喰う」という手段を使っていたのだが、気づけば
人肉を喰らう事が目的となっていた。今まで虐められて「人に喰われる」
人生だったブタは、今度は逆に、読んで字の如く、人を喰う側になったのである。
怒濤の最終章、おたのすぃむぃぬぃ!! ボスヒコ
私は、2階の“あの部屋”にある大きな冷蔵庫の前で気を失っていた。
あれから1ヶ月が経った。
思い出したくない事や、思い出せない事が多過ぎて、“考える”と言う事を
完全に放棄している。私は散々な事情聴取やしつこいマスコミのおかげで
ノイローゼになった。もちろん、仕事は辞めた。今は実家に帰って、引き
こもりの生活を余儀なくされている。わすかな外出は、未だに赤黒く晴れ
上がっている右手の治療と神経科へ通いに病院へ行く時ぐらいだった。
ブタの事で知っている《事実》
ブタは即死だった。ブタの住処はやはり2階のあの部屋だった。しかし、
勝手に入り込んだわけじゃない。ブタはあのビルのオーナーの娘だったのだ。
親子2人は、いくつか持っているビルの管理費だけで生活出来ていた。
彼らは、マンション、土地、山など所有する田舎の地主で、今回の事件が
起こったビルは都会で初めて買い取ったビルで、オーナーが幼い頃から
精神を病んでいる娘にプレゼントしたのだった。容姿や精神的な部分で
どこに行っても虐められる地元の田舎では駄目だ。新しい土地での新しい
出会い、もっと人とのふれあいや厳しさを知ってほしい、といった親心
だった。コンビニにアルバイトとして入れたのもそういう意味だった。
しばらくして、オーナーは姿を見せなくなった。
オーナーの姿を見かけなくなっても誰も不思議には思わない。それぐらい、
都会での隣人のつきあいは希薄だと言う事だ。それに、経理のほとんどを
ブタがしていた為、オーナーが消えていなくなろうが、死んでようが、ビル
内で仕事をしている人間にとって何も変わらなかった。オーナーの知り合い
には、病気改善が目的で海外に長期休養で出かけているとブタは嘘をついて
いた。ブタには知り合いはいない。見事に世間を騙し通せた。
そして、事件が起こり、ブタが死んだ。
その後、2階の部屋にある特大冷蔵庫から、細かく切り分けられた“人間”
が発見される。その犠牲者は複数で、中には父親であるオーナーの“パーツ”
も見つかった。解剖台として使われた広めのキッチンに、血を抜く作業場
としてバスルームがあった。犠牲者の共通点は、最近都会に出て来た独り
暮らしの若者達だった。人付き合いや仕事が出来ないのにコンビニの仕事
を続けていたのは、品定めををするのには好都合だった。夜中に一人分の
食料を買う若者達。なぜ、彼らを襲ったのかは、ブタが死んだ今は誰も
解らない。しかし、ブタは大量殺人の犯人である事には間違いなかった。
ただ、どこを探してもあの斧は見つからなかった。
物語は唐突に終わる。明日は《真実》編。 ボスヒコ
「おああああ!!!おあああああああ!!!!おあああああああ!!!!!」
気が狂ったのか!? 取り憑かれたのか!? ブタが野犬のごとく四つん這いで
彼女に飛びかかった。彼女は斧が刺さっている机に飛び乗り、斧を引き抜こうと
したが深く刺さっており、なかなか抜けない。再び体制を整えたブタは、彼女を
探している。「おああああ!!おごやああああ!!!!」どうやら、先ほどの
文具類の攻撃で目にも損傷を与え、視野が狭くなったらしい。(今の内に斧を!)
しかし、斧を抜いた音がブタに彼女のいる場所を教えた。ブタは口から折れた歯
を血と一緒に吐き出しながら下品に笑う。それを見て、彼女の気持ちは固まった。
(殺す!)ブタが飛びかかって来た。彼女は斧をブタの頭を狙って振り降ろした。
だが、意外に重かった斧に照準を狂わされて、柄は右肩口を直撃して、刃の方は
ブタの背中側をいくらかえぐった。痛点が無くなったのか、平気な顔をしたブタは、
凄い力で彼女の足を掴んで机から投げ飛ばした。入り口のドアの方向に飛ばされた
彼女はエレベーター前まで滑って行く。その時、エレベーターのドアが開いた。
彼女はそのままエレベータの中へ入る。飲み込むかのようにドアが閉まって行く。
立ち上がって斧を拾ったブタは、斧を構えながらエレベーターへ突進して行った。
そこへ若い警官が叫びながら、階段入り口から飛び出して来た。エレベーターの
ドアが閉まりきる寸前にブタは斧をエレベーター内に振り落とした。エレベーター
の中に刺さった斧はドアを閉じさせなかった。ブタの容貌を見て、浮浪者の言葉を
思い出した警官は拳銃を彼女に向けた。「ああ!!ぶ、武器をす、捨てろ!!」
ブタは斧をドアに噛ましたまま、警官へ身体を向けた。「来るな!う、撃つぞ!」
警官は拳銃の引き金を引いた。しかし、弾は撃ち尽くして、カチカチと虚しい音が
なるだけだった。ブタが警官に襲いかかった時、階段から首なし男が飛び出した。
「くそっ!!抜けろっ!!抜けろっ!!!抜けろぉぉぉっ!!!!」
彼女は必死で斧を引き抜いた。そして「1階」と「閉まる」のボタンを連打する。

首なし男は暴れるブタを抱きかかえたまま、オフィスの方へ押し込んで行く。
「た、たすけ!たすけてえええ!!おとう!!お願いや!!おとう!!!」
「おとう」と呼ばれた首なし男は、更に早さを増して、窓際まで押し込んで行く。
「や!やめ!!やめて!!!やああめえええてええええええええ!!!!」
とうとう、無言の首なし男と泣き叫ぶブタは窓を割って、地上へ落ちて行った。
応援のパトカーの上に落ちるブタ。その回りの人間には首なし男は見えなかった。
降下して行くエレベーターの中で、彼女は嗚咽を漏らして泣きじゃくっていた。
(これでもう終わった。やっと終わった。長い長い泊まり込みもこれで終わり)
順調に降下して行くと思われたエレベーターは、2階で止まり、ドアが開いた。
そこには、あの時見た母親とその娘が立っていた。彼女達の片手は無かった。

だから下のランキングのボタンを押してごらん。HIT数クソ多い割にだ~れも
下のボタンを押しやがらん。盆なのにこれだけ楽しましてんだ!押せ!頼むぜ!
ボスヒコ




ド============ン!!!!!!!!
「!!!…………………………」
真後ろで音がやんだ。彼女はバリケードの最後の机に手を置いたまま、耳を
澄ましていた。微かに話し声が聞こえる。さすがに、ビルならではの反響音
とは思わなかった。引きつった笑い声、悲しげにすすり泣く声も混じって
いる。その中に聞き慣れた不快な音があった。それは豚のような鼻息だった。
落下物は浮浪者の頭には落ちて来ず、地上に直撃して粉々に砕け散った。寸で
の所で若い警官が浮浪者の足を持って引っ張ったのである。引っ張り方に勢いが
あった為、若い警官と浮浪者は落ちて来たガラスの破片やモニターの部品なども
避けられた。しかし、逃げ遅れた先輩警官達はそれらを全身に受けて倒れた。
彼女は躊躇なく後ろを振り向いた。血だらけのブタが無表情で立っていた。
ブタの右手には都会のビルの中で絶対に見る事はない物がしっかりと握られて
いる。ブタはそれを嫌そうに上げて近くにある机の上に振り下ろした。
ド============ン!!!!!!!!
ラップ音ではなかったのか!!!??? 否、最初は確実にラップ音だったはず…
と思った時、高田が倒れている辺りに人らしき白い影が揺らいでいるのが見えた。
話し声やラップ音の原因をつきとめたが、ブタが持っている物はどこから持って
来たのかは皆目わからなかった。それは、長さが50cmぐらいの錆びた斧だった。
若い警官は救急車や県警の応援を要請をした後、階段を上がろうとしている。
エレベーターが故障しているのか、ボタンを押しても下降して来なかったのだ。
彼は勤続初めての大事件の遭遇に不謹慎にも心が躍っていた。厳しい訓練の
手はずを思い出せば大丈夫だと自分に言い聞かし、応援を待たずして現場に
向かっていた。2階に上がった辺りで1階の方からドアが閉まるような音がした。
自分が用心していなかった方向からの物音に、先ほどの自信も吹っ飛び、彼は
大きく振り返った。薄暗いライトに照らされて塵が舞っている。気のせいかと
思い、自分の臆病さに舌打ちをした時、何かがもの凄い勢いで駆け上がって来た。
タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!タン!
「え!?何だ!?誰だ!!!だ、……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
1階途中の折り返し地点を曲がって姿を見せたのは、血だらけのつなぎを着た
首から上が無い男だった。若い警官は叫びながら一目散に駆け上がった。ほぼ
同じ速度で追って来る首なし男。蒸し暑い階段内に拳銃の発砲音が響き渡る。

文房具を無感情で目で追いながら、もう一度、斧を振り落として音を立てる。
そして、彼女にゆっくり目を戻し、裁判するかのように話しだしたのであった。
「…おまえ、なんで、き、きたんや…」
「なんでって、仕事よ!仕事で来たんじゃないのよ!」
「…。ちゃう、ちゃうやろ。お、おまえの事、なんか、き、聞いてないやろ?」
「はあ!? バッカじゃないの!? 自分で何言ってんだかわかってんの!?」
「ふ、…復讐やったら、高田、のせいやからな。あ、あいつが悪いんやで…」
「高田!? ……ねえ、ちょっと訊きたい事があるんだけどさ…。おばさんさぁ、
高田さんと大切な約束したけど、裏切られたでしょ? …ざまあみろだわ!」
ブタは本来の姿に戻り、雄叫びを上げながら斧を大きく振りかぶった。彼女は
その瞬間にブタの懐に飛びこんで、鷲掴みにしていた物を顔目がけて突き
刺した。斧は最後のバリケードの机に突き刺さり、ブタの口に直撃した文具類は
前歯をほとんど折った。ブタはよろめきながら後ろに落ちてあったパソコンに
つまづいて倒れる。彼女は斧が刺さった机を退かして、入り口のドアの内鍵を
外した。ドアを開けた時に、階段の方角から拳銃の発砲音が聞こえた。彼女が
発砲音で一瞬たじろいだ時に、血だらけのブタが四つん這いで走って来た。

「う、うあぁぁ!!はぁ、はぁ、はぁ!!うあぁ!!はぁ、はぁ、はぁ!」
高田は廊下の壁にぶつかりながら、いつも仕事をしている職場に辿り着いた。
両手で耳を押さえながら狂った様に暴れ出して、机の上のパソコンや本などを
なぎ倒して行く。殺虫剤をかけられたゴキブリのようにのたうちまわっている
高田になす術もなく、彼女は暗がりの中をバリケードの方へと走って行った。
雑誌社のビルの前に浮浪者が座っていた。浮浪者の右手には手錠がかかって
いる。ようやく、警官3人と路上生活者の軍団は浮浪者に追いついた。汗だく
の警官達は怒りをあらわにして、ゴロさんという浮浪者に近寄って行った。
「おいっ!お前いいかげんにしろっ!ふざけやがって!!」
「おとうさあ~ん、うちら、アンタのいたずらのお相手してる暇ないんや。」
「とにかく、お望み通り、ぶち込んでやるから来い! さあ!立て!」
「こうでもせんと、来てくれんやろ~が。ここ!ここに入っていったんじゃ!」
警官達は話もろくに聞こうとせず、浮浪者を引きずり出そうとした。駄々を
こねる赤子のように浮浪者は精一杯の力で抵抗する。騒ぐのを抑えられている
路上生活者達も徐々に警官非難を浴びさせ始めた。浮浪者はとうとう、路上に
ゴロンと大の字になって寝たのである。手がつけられない浮浪者に警官の1人が
助けとパトカーを要請しようとした時に、頭上の方でガラスが割れる音がした。
路上生活者達が一斉にどよめく。4階の窓からパソコンのモニターがガラスを
割って落ちて来るのである。その落下物は浮浪者の頭を目がけて落ちて来た。
ドーン!ドーーン!ドーーーン!ド====ン!ド========ン!
ラップ音が音を増して近づいてくる。彼女はラップ音と窓ガラスの割れた音を
聞きながら必死でバリケードを退かしている。(もうちょっと!あと少しで
出れる!!)最後の机を退かそうとした時にラップ音が背後まで迫っていた。
…… … …し…… …ね…… …し……ね…… …し…ね……
「はぁ、はぁ、はぁ!!!うあぁぁぁぁ!!はぁ、はぁ、はぁ!うあぁぁぁ!」
(う!うるさあぁぁいっ!!だ!!だまれっ!!何で聞こえるんだっ!?!!)
…し…ね………し……ね……しね……しね…………しね…しね…しね…
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やめろ!!やめろ!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(許して!許してください!助けてください!お願いします!お願いします!)
しねしねねねしねしししねねしねししねねしねねねねしねねししししししね
「ぎゃあぁぁああぁあぁぁああぁあぁぁああぁあぁぁああぁあぁぁあ!!!!」
暴れまくっていた高田は、何かが窓ガラスを割って落ちて行ったのも気づかずに
机の角に頭を打って気絶した。倒れた高田の回りには複数の霊が取り囲んでいる。
