鬼笑で行こう。

おいしいものの話や、まじめでいい加減な不定期評論など…

後味の悪かったこと

2009年10月18日 | 鬼笑な日々
きょうは日帰りで東京出張。
帰ってきて、K町で飲んで、土曜だしすでにバスはなく、タクシーに乗った。

すると、前を走っている車が、たいへんマナーが悪い。
マナーが悪いどころか、だんだんとひどくなってきて、蛇行運転、左は歩道に乗り上げそうになる、右は完全に対向車線に出る、赤信号に引っかかると対向車線を通って一番前に出る。

どーみても飲酒運転。

最初のうちは、運転士さんに「うっかり追い越そうとするとぶつけられるから気をつけてください」などと言っていたのだけれども、到底みていられないほどひどくなってきたので、車内から110番通報し、運転士さんに追跡を依頼。

5キロほど蛇行運転に従ったあと、やっと赤信号でひっかかったので、僕はタクシーを飛び出して車に駆け寄った。

若い女性。
窓を全開に、なんだかしらない音楽を大音量で鳴らしながら大声で歌っていた。

窓からキーに手をかけ、「飲酒運転してるやろ!」と言うと、「あんた、なによ?」「ひとの車に手ぇかけんとって」「飲んでないよ」と反抗的な態度。
こっちもかなり飲んでいるので、においが分からず確信がもてないので一瞬ひるみつつも、その攻撃的な態度が開き直りなのだと思い直し、オートマのレバーをニュートラルに入れ、カギを引き抜いて、「飲んでないなら警官の前で堂々と言えよ。飲んでなかったらオレのほうが犯罪者や。勝負したろやないか」と(なぜか関西弁で)詰め寄る。
とたんに、涙目になって「ごめんなさい。警察だけは呼ばないでください」「飲んでます。認めます。見逃してください」と懇願。

警察が来るでの間に話をきくと、ずっと失業していたのが、きのうやっと仕事が決まり、月曜が初出勤とのこと。

派遣で細切れの仕事をつないできたのが、やっと正規の仕事につけて、つい浮かれて派手に飲んで、羽目を外してしまったらしい。

せっかくつかんだ仕事が、これでパーだ。

でも、ことは、ひとの命に関わること。第一もう110番通報してあり、「そうですか。それはお気の毒。つぎから気をつけてください」と見逃す訳にはいかない。

びっくりしたのは、パトカーが3台もきたこと。
彼女は泣きじゃくりながら、近くの交番に連れて行かれた。

いま貧困問題に間接的ながら取り組んでいる僕には、分かる。
派遣労働で、とんでもない労働条件・低賃金で、ひとよりキツい仕事をさせられて、まわりからは下にみられる。
派遣は、「人」ではなく「物」だ。彼女らの給料は、「人件費」ではなく「物件費」。担当も人事課ではなく、総務課。課のなかでも下手すると「資材係」だ。

彼女は、今週まで「物」だったけれど、来週からは「人」になれるところだったのだ。

つい羽目をはずしてしまう気持ちは分からなくはない。

よろめくのを警官に支えられながら去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら、なんとも後味の悪いものを感じた。
飲酒運転をつかまえた善行の果実をかじったら、苦虫が入っていた感じ。

僕がちょっと落ち込んでいるのを察したのか、運転士さんはさすが運転のプロ、どんな事情があっても飲酒運転は許せないと力説し、「もしあそこでお客さんが止めていなかったら、あの先で人をはねて死なせていたかもしれませんよ。はねられた方も取り返しのつかない災難だし、あの子も飲酒運転でつかまったぐらいの罪ではすみません。お客さんはほんとうにいいことをなさった」と言ってくれた。

たしかにそうだ。
あの調子では、人をはねたかもしれないし、酔った勢いと仕事を失いたくない気持ちでひき逃げさえしたかもしれない。

冷静に考えて、いいことをしたと思う。
でも、やっぱり、後味の悪さは残る。

(追跡やら、事情聴取の時間やらで、タクシーのメーターが上がったのは、まあ、正義のコストか…)

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