鬼笑で行こう。

おいしいものの話や、まじめでいい加減な不定期評論など…

「北方領土は千島にあらず」って…

2010年11月07日 | 鬼笑が語る
 前回(4日)、「国後・択捉は千島にあらず」という議論は通用しないといいましたが、きょう(7日)の朝日新聞は、「サンフランシスコ平和条約で放棄した『千島列島』に国後・択捉は含まれない」という政府と同じ見解を述べています。(国会審議で国後・択捉も放棄したと受け取れる政府答弁もあった、とは4行だけ述べていますが…)

 わざわざ地図をしめして、得撫(ウルップ)島とそれ以北だけを「千島列島」としています。
 では、国後・択捉は、何列島に属していたのでしょうか?

 朝日新聞の記事の一番の問題は、「日本とロシア・ソ連の国境の変遷」と、地図つきで日露通好条約、樺太千島交換条約、ポーツマス条約、サンフランシスコ平和条約と「国境の変遷」を図示しているところ。
 平和的な交渉の結果結ばれた条約と、戦争のあと「戦利品」として領土を分捕った条約とを同列に論じています。

 ポーツマス条約では、日露戦争の「戦利品」として、日本が南樺太を領土に組み込みました。

 サ条約では、第二次世界大戦の大原則である「領土不拡大」に反してソ連が要求した千島列島(国後・択捉をふくむ全千島)にたいする一切の権利を日本が放棄しました。

 肝心なのは、サ条約が領土不拡大の原則に違反して、日本に千島を放棄させたことです。

 日本が日露戦争の「戦利品」として奪い取った南樺太をソ連に返還したように、第二次世界大戦の「戦利品」としてソ連が奪い取った全千島を日本に返還させる。--これが、歴史的にも、国際的にも文句のつけようのない、問題解決の道筋です。
 (歯舞・色丹は、千島ではなく北海道の一部なので、こうしたことと関係なく、即時、返還されるべきです。)

 朝日新聞が、政府と同じく言っていることは、「国後・択捉は一度も外国領になったことのない日本固有の領土だ」ということです。
 このこと自体は事実ですが、「だから国後・択捉は(サ条約で放棄した)千島に含まれない」といいだすと、筋が通らなくなります。

 サ条約で千島を戦利品としてソ連(現ロシア)に差し出した誤りを不問にしようとするから、問題解決の糸口さえつかめなくなる。(戦利品を要求したソ連が悪いのですが。)
 仮にロシアが、現在の日本政府の主張に譲歩して、国後・択捉を返還したとしても、不当なサ条約はそのまま残り、北千島はこのままロシア領に入れられたままということになってしまいます。

 戦争に勝ったからといって領土拡大を求めてはいけない・認めてはいけない、という大原則に立った交渉を堂々と行うことだけが、本来あるべき全千島返還へつながる道です。

 いまのままでは、日本の主張が最大限とおっても、北千島は確実に得られるという、ロシアにとってたいへんおいしい状況になっていることに気づかなければなりません。

 

「北方領土」は返ってこない

2010年11月04日 | 鬼笑が語る
 日本のマスコミは、ほんとうに、ダメだと思う。

 「北方領土」という呼び方。

 マスコミがこぞってこの呼称をつかうので、たいていの日本人も「北方領土」と呼ぶ。

 こんな呼び方をしている限り、千島と歯舞・色丹(「北方領土」は、南千島と歯舞・色丹に該当)は返ってこない。


 千島をめぐる歴史的経緯。
 1855年の日魯通好条約で、千島列島における日本とロシアの国境は、択捉島と得撫(ウルップ)島の間とし、樺太は両国民の雑居地ということにした。
 1875年の樺太・千島交換条約で、樺太はロシア領に、その引き換えに得撫以北の北千島を含め全千島を日本領とした。
 ところが、第二次世界大戦の末期、1945年2月のヤルタ会談で、ソ連のスターリンが千島の引き渡しを要求し、米英もそれを認めて密約とした。(1943年のカイロ宣言の領土不拡大の原則に違反。反ファシズム、反軍国主義の連合国側の大義を汚した。))
 結果、1951年のサンフランシスコ講和条約の第2条C項で、日本は千島を放棄することになった。

 不当なのは、ソ連の要求であり、それを受け入れた米英ソの密約であり、サンフランシスコ講和条約。

 だから、やるべきことは、サ条約2条C項の不当性を国際世論に訴え、この条項を廃棄することだ。
 返還の対象は、「北方領土」(南千島と歯舞・色丹)ではなく、全千島と歯舞・色丹。
 (歯舞・色丹は千島ではなく北海道の一部なので、ソ連・ロシアが支配することは、サ条約にさえ反する。)

 領土不拡大は、連合国の錦の御旗だし、平和的な交渉によらない領土取得の禁止は戦後世界政治の大原則なので、サ条約2条C項の廃棄の要求に正面切って反対できる国はない。

 だから、素直にこの線で行けば、南千島だけでなく、全千島を取り返すことができる。(歯舞・色丹は、サ条約云々に関係なく、即時の返還を求めるべき。)

 それなのに、歴代政権は、アメリカ中心のサ条約にケチをつけるのは畏れ多いということだろう、この「素直な線」があることを隠してきた。残念ながら、民主党中心の政権にかわっても、ここはかわらない。
 戦後日本政治の、アメリカ追随主義。
 (サ条約は、ソ連、ポーランド、チェコスロバキアをのぞく連合国48カ国との間で調印。)

 それで、苦し紛れに言っているのが、「国後・択捉は千島ではないので、サ条約2条C項の対象外だから、日本のものです、返してください」ということ。(それで、「南千島および歯舞・色丹」と呼ばず、「北方領土」と呼ぶ。「南千島」と言った途端、「じゃあ北千島はどうするの?」という問題になる。)

 千島を日ロどちらの領土にしましょうか、という交渉の結果、樺太・千島交換条約で全千島を日本の領土としたのだから、「国後・択捉は千島にあらず」などという理屈は、国際的にまったく通用しない。
 こんな理屈は、ロシアだけでなく、どの国からも相手にされない。
 だから、「北方領土の返還を」などと言っている間は、千島は返ってこない。
 だから当然、「北方領土」は返ってこない。

 もし、ロシア側のなんらかの判断で歯舞・色丹と南千島だけを日本に返す、ということがあったとしても、そのときには、日本側は、北千島返還を要求する大義を永遠に放棄することになってしまう。


 よく、愛国なんとか団とかいうような右翼団体がセンスの悪い街宣車に「北方領土奪還!」などと大書しているが、ちゃんちゃらおかしい。
 愛国どころかやつらこそ売国奴だ。
 ロシアの都合で南千島と歯舞・色丹だけ返してもらえたら、それでいいのか?
 得撫島から占守(シュムシュ)島までの北千島はロシアに永遠にくれてやるのか?

 メドベージェフ大統領の訪問先が得撫だったら、右翼もマスコミも黙っているのだろうか?
 大統領が得撫を訪問したときのマスコミの報道をみてみたい気もする。(日本領への勝手な立ち入りはダメだけれど…)