春にして君を離れ (クリスティー文庫)アガサ・クリスティー早川書房このアイテムの詳細を見る |
主人公ジョーンは、よき妻、よき母で平穏に賢く暮らしてきた自分の人生に
満足しきっていたのだが、実は・・・夫からも子供からも愛されていない存在だった。
今風に言うと、めっちゃ痛い女、である。
長旅からの帰り道に足止めをくらい、自分に向き合う時間ができてしまったことから
今まで自分が見ようともしないできた「真実」にだんだん気づいていく。
あのときの夫の行動は?子どもの一言は?友人のもらした感想は?・・・
フラッシュバックする光景の裏に隠されていたものに、だんだん気付き始める。
子供たちは本当に自分を慕っていたのか、夫は自分を愛しているのか・・・
妄想なのか真実なのか。とめどもなくあふれる疑念に異国の地で気が狂わんばかりに
苦しむ主人公。
一枚、また一枚、薄皮を剥がすように、自分の目が暗くて見えなかった真実に
気づいていく、怖くて辛くて疲れきる時間だ。これ、人生をまともに生きてきた
それなりの年齢の人なら、多少なりともある経験では?
(一度もないとしたら、あなたはまさに幸せなジョーンかも)
わが身にもあったな~。ああ、あのときあの人は世間話のふりをして、
実は忠告してたんだな、あれって見事な嫌味だったのね(笑)、とか
あとから気づいて苦い思いをしたことが。
自分の誇るべき人生が、すべて自分ひとりのフィルターを通した世界でしかなく
自分に都合のよい独善と虚構であったことに気づいたとしたら・・・
そりゃ足元をすくわれますね、怖い!
でも・・・真実に気づいたあとにロンドンの夫の元に戻った彼女がとった行動と
心情描写は、またすばらしくリアルで哀しい。うん、そうだよね・・・としかいいようがない。
夫のロドニー。賢くて穏やかで、見えないジョーンの反対、いろんなことが「見えてしまう人」。
彼が妻と真剣に向き合ったなら、彼女は自分の愚かさに少しは気付けたのだろうけれど
彼は哀しいほどの諦観で、妻を密かに憐みながらも、すべて押し込めたまま
いっしょに生きていく道から決して離れなかった。強くて優しくて、もしかするとずるい男。
捨てない、排除しない、ありのままを受け入れる、結婚という契約を守る
それがキリスト的な愛だとすれば、彼は完璧。
私がこの話に感情移入できたのは、自分の中に主人公ジョーンがいるから。また
そんな母親と冷静に距離をとることで身を守る長女エイヴラムにも重なるから。
つまり独りよがりで自己チューな私を自覚しているし
(それで痛い思いもチョロっとしたし~、でもなかなか変われないしぃ~(笑))
またそういうやっかいな誰かさんを身近に持ってしまった、あきらめ漂う人生もチョロっと経験している。
ああ、前半に出てくる聖アン女学院の同窓生、落ちぶれた人生をジョーンに
憐れまれてしまうブランチも好きだなぁ。本能に正直ってところ共感(笑)。
すごく面白くて読み終わるのが残念だったくらい。
たぶんもう一度読んだらもっと深く読めるんだろうな、と思わす本。
でも読後の疲労感も格別(笑)。女性は特に、精神的に凹状態じゃないときお読みくださいませ。
(ミクシィでマイミクfoomyさん、まなちゃんから知りました。
紹介ありがとー)