以前BBCの死刑の賛否論のまとめについてとりあげたことがあるが、もう一度要約、追加などしてとりあげてみる。
Arguments in favour of capital punishment
賛成派
1)応報
ー不正に対しては、その犯罪の軽重に応じた苦しみを与えるのが正義
反論
ⅰ)現代の刑罰は、強姦には強姦を、暴行には暴行を、というように同じことを目には目をの原理で、仕返すものではない
ⅱ)犯した罪よりも重い苦しみを与える
この点に関して、小説であるが、
こっちは、4年も5年もいつ殺されるかって毎日、そうだよ毎日苦しんで、その苦しみは日数の倍数分だけ、つまり、千倍も二千倍にも大きくなってんのに・・・こっちは死を待つことが一番苦しい、そうだよ死ぬよりもっと苦しい・・・・
加賀乙彦 宣告 p191 19歳 から孫引き
という記述が参考になる。
ⅲ)死刑では犯した罪を償うのに足りない。
この点に関して
わたしは許されるなら、いますぐ死んでお詫びしたいと思いますが、それだけではとても罪の償いに足りません。刑が執行されるまで、死の恐怖と向かい合い、惨めな姿を晒してのたうち回り、被害者の味わった死の恐怖、その苦痛の何分の一かを味わうことができれば、はじめて、ひとつの償いになると思います。p218 19歳
広島タクシー運転手連続殺人事件
という死刑囚もいる。被害者の家族にとってはそれでもまだ足りない、という人がいるかもしれない。
2)抑止効果
ー死刑によって殺人を抑制できる
反論
ⅰ)統計的に証明されていない
ⅱ)精神障害者には死刑でも抑制効果がない
ⅲ)犯罪者は、やれば死刑になるなどと後先のことを考えずに興奮して犯罪を犯す場合も多い。
3)反省促進効果
ー死刑になるからこそ罪を真に反省、悔悟することができる。
この点に関して、
死刑の判決をウケて、自分の死をみて初めて、この時に、僕に包丁に突き立てられて亡くなっていった被害者の方々が抱いた心情というものを理解できたのではないかとも思うのです。これが死刑でなかったら、そのまま味わうことなく過ごしてしまったでしょう
19歳 永瀬隼介 角川文庫 p188
僕は弱いところがあって、一審二審では自分のしたことと向合ていなかった。(25)自分のしたことに向き合えるほど成長していなかった。僕は自分のやったことがあんまりに怖くて、残酷で自分のしたことを思いたくなかったんです。(27)
福田くんを殺して何になる
死刑を宣告されるまでは、反省できなかった、という記述は参考になる。
但し、
死を覚悟している人からすれば、死刑は責任でも償いでもなく罰ですらなく、つらい生活から逃してくれるだけです。
だから、おれは一審で弁護人が控訴したのを自分で取り下げたのです。
俺は受け入れるかわりに反省の心をすて被害者・遺族や自分の家族のことを考えるのをやめました。
なんてやつだと思うでしょうが、死刑判決で死をもって償えというのは、俺にとって反省する必要がないから死ねということです。
人は将来があるからこそ、自分の行い反省し、繰り返さないようにするのではないですか。
将来のない死刑囚は反省など無意味です。’尾形英紀 p。128 絞首刑 青木理 単行本
という死刑囚も。
4)再犯の危険を潰す
ー加害者がこの世からいなくなれば、二度と殺人を犯す危険はなくなる。
反論
ⅰ)脱獄して、あるいは、、釈放されて、再び殺人を犯す場合はまれ。
ⅱ)牢獄にいれておけば、再犯もなく社会にとって危険はない
5)被害者の家族にとって区切りになる。
It is often argued that the death penalty provides closure for victims' families.
closureの意味がいまいちわからないのだが、たぶん、区切りみたいな感じでいいんじゃないかな、と。
この点
死刑執行の日仏壇に線香をあげて、「ようやく執行されたよ」と二人に報告したという。「気が晴れた」と話した
死刑でいいです 池谷孝司 p221
といった発言が参考になる。
反論
家族によって反応は異なるー死刑制度反対の家族もいる。
Families of Murder Victims Speak Out Against the Death Penalty
また、
なお、死刑囚の被害者の家族が
Bの弟は声を荒らげつつも、同時に「希望を持て」「生き続けろ」とも励まし、KAがうつむきがちになると「俺の目を見て話せ。男が泣くな」と叱責し、その上で「兄貴の分を俺がここで殴ってやりたい。俺もお前を10発殴る。歯が欠けるほど殴ってやる。だから、それまで頑張って出て来い」と語りかけた。
Bの兄は最高裁に3人の減軽を求める嘆願書も提出
減刑を嘆願するケースもある。
6)司法取引でつかえる
ー死刑を減刑するからという司法取引で使える
反論
捜査に有用ということで正当化されるなら、拷問まで正当化されてしまう。
反対派
Arguments against capital punishment
1)殺人者にも生きる権利はある
反論
殺人をおかしたことによって生きる権利を放棄
2)冤罪の危険
飯塚事件
3)殺人者に、死刑が公平に言い渡されているとはいい難い。
ーー死刑に相当するだろうのに無期になったケース(闇サイト殺人事件参照)もあれば、無期でもよかったかもしれないのに(裁かれた命参照)死刑になった人もいる。
4)抑止効果がない
ー死刑がある州のほうが殺人率が高い
6)死刑は終身刑より費用がたかい
慎重を期すために裁判が長期化し、より多くの弁護士や鑑定人など専門家を動員、独房など特別室など費用が高くつく
反論
そんなにかからない
7)公平性
ー貧乏人はいい弁護士雇えず死刑になる場合が多い。
8)残酷
ー死刑は残虐な刑罰だ
9)不要
ー国家は秩序ある幸福な社会を維持するために罪を罰する必要があるが、そのために有害な手段は最小限に留めるべき。死刑はもっとも有害な刑罰であり、秩序ある幸福な社会を他のより有害でない方法で保てればそれにこしたことはない。
ーーー以前、江川紹子さんが、死刑の執行猶予を創設すべき、と論じていたが、死刑制度反対論に同調しながらも、宣告の反省喚起機能を重視すれば、たいへん有効な制度であろうし、また、最終的に廃止するにせよ、その一段階手前としても採用してよい制度ではなかろうか。