東京 DOWNTOWN STREET 1980's

東京ダウンタウンストリート1980's
1980年代初頭に撮影した東京の町並み、そして消え去った過去へと思いを馳せる。

千代田区の銅板貼り建築~その一

2014-10-05 15:25:23 | 千代田区
 最近、都内での建て替えの進行が再び加速しているような印象がある。東日本大震災の後、地震で被害を受けた古い木造住宅の取り壊し、建て直しが一気に進んだという時期があったのだが、最近も気が付くと無くなっている。まあ、そういうものと言ってしまえばその通りなのだが、都心部での銅板貼りの建築も大分減ってきた様に思う。近年歩き回って撮影した中から、もう一度浚っておこうという気になって集めてみた。
 看板建築というものがあり、それとは別に俗称として銅板建築という言い方がされるようだが、あえてここでは銅板を貼り付けてあるものと言うことで、銅板貼り建築としておきたい。看板建築にはモルタル仕上げのものもあれば、スクラッチタイルを貼ったもの、トタン貼りでペンキ塗仕上げされているものなどもある。改めて少し説明をしておくと、看板建築というのは建物の正面が平面で構成されている形式をいう。それまでは商家の作りは、軒を道路に張り出しているものだったのだが、関東大震災後に区画整理(当時は市区改正といった)によって道路の拡幅などが大々的に行われ、私有地の面積は結果的に大幅に削られていくことになった。以前よりも狭い面積を有効活用する必要に迫られ、軒を廃して床面積を多く取れる形態が考案されたわけで、それが看板建築である。
 そして、その震災復興期に大量に建てられた木造建築の防火性を向上させるために、外壁の表面に銅板を貼り付けたものが多かった。当時は銅が安価であったらしい。特徴的なのは、看板建築は戦後に至るまで長期に渡って継続して作られていった形式だが、銅板貼りは大正末から昭和初期の限られた年代にしか建てられていないことだ。戦争で銅の使用を制限されるようになったとか、銅の価格が高騰したとか、何か事情があったのかもしれないが、よく分からない。ただ、この限られた時代に大流行して終わってしまったという点で、特徴的と言える。
 さらには、歳月が経過して銅板貼り建築は今では緑青が美しい風合いを備えるようになっている。建築直後には、正にあかがねという名にふさわしい、オレンジ掛かった輝きを放っていたものが、次第に黒っぽくなっていき、そして緑青へと変わってきたのだろう、建築当初のキラキラと輝いていた状態も見てみたかったと思う。

 その銅板を貼り付けた建築、このブログの1980年代の写真を撮影した頃には、到底全てを撮影しきれないくらいの数があった。元々の東京十五区に入る様な旧市街には、いくらでもあるように感じたのだが、さすがに今日では数少なくなってきている。実際、再度まとめて見ようと思ってチェックしていても、看板建築で、銅板貼りで、マンサード屋根を備えたものというと、千代田区内ではほとんどなくなっている。マンサード屋根というのは、震災後に木造建築が二階建てまでに制限された中、前記のように土地の面積が削られてしまい、その上階数の制限も厳しくなってはどうにもならないというなかで、屋根裏部屋は三階とは見なさないという措置が執られた。フランスのスタイルで傾斜屋根に出窓を付けた様な形のものがあり、これをマンサード屋根といった。この三点が震災復興期建築の大きな特徴であり、全てを備えた立て物も数多く作られていた。
 というわけで、千代田区内の銅板貼り建築を見ていこうと思う。

 まずは飯田橋に近い、富士見二丁目。今は仕舞た屋だが、手入れも行き届いていてパリッとしている印象。


 そして、九段南一丁目。靖国通りから細い道を入ったところに残る寿司政。


 大事に使われている様子が感じられる。緑青の色と文字看板の金色のコントラストが美しい。


 同じ路地の並びにもう一軒あった。この時には休みだったが、明治29年創業という甘味処寿々木。寿司政と正面のデザインが同じ作りになっている感じがする。


 神保町三丁目の昔は米屋さんだった仕舞た屋。今は周辺も全てビルになってしまっている。ここは1980年代に撮影したことがあるところなのだが、その頃は周辺にも数多くの人が暮らす町だった。


 当時のままの姿を残している建物もほとんどない。


 こちらはすずらん通りから折れた道沿い。右側の店と長屋造りで繋がっている。ここだけ銅板貼りの外観を維持している。店を閉じて久しい様子。このすぐ左手は、大規模再開発で超高層ビルになってしまい、古い街があったことすら想像も出来ない様子になっている。


 こっちはすずらん通りの一本裏手の路地。この界隈では、この時代の建物は本当に数少なくなっている。都心部の商業地である以上は当然とも言えるのだが。


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