昭和36年(1961) (66才)
発展をしていくところの店というものは、そこの主人公を中心として、10人なら10人の店の人が、
みんな商売に強い関心をもって、
そして愉快に仕事をしているというようなところに、非常な発展が生まれてきていると思うのであります。
しかしそうでなくして、多少の不平不満があるということをそれを強く口に出して、
それを態度に表していくというようなところは、不思議に衰微しているのであります。
これは主人公の指導よろしきをえないのか、
あるいはまた店員の方々の自制が足りないのか、
いろいろございましょうが、
結論として全体が融和し、
そして仕事に興味をもって経営をしておられるお店は、ぐんぐん栄えております。
そういうことを考えてみますと、
事業がいかに大きくなっても、ことは一緒だと思うのであります。
松下電器が今後さらに大成しても、
いま申しあげましたように、北街道にいる人の苦労が九州にいる人の胸に伝わり、
お互いにそこに心と心を通わしているというような状態に、松下電器の全部署がなっていなければならない。
そうなれば理想どおりの成果があがり、
社会のためにも大衆のためにもなる働きを、生産人としてなすことができるであろうと思うのであります。
なぜかと申しますと、そういうようなものの考えから、
いろいろの創意工夫というものが生まれからであります。
仕事に非常に興味をもち、これを一つの使命とし、
これを天職とし、そして情熱をこれに傾いてやっていくという姿から、
いろいろな創意工夫というものが生まれるのであります。
いわゆる発明が生まれるのであります。
製品の上に発明が生まれるだけでなく、販売の上にも発明が生まれるのであります。
電話のかけ方にも発明が生まれるのであります。
ひとたび電話を取ってお得意先に電話をかけたら、
先方はただなんとなくその熱意に心を打たれるものがあって、「よし、ナショナルを買おう」ということになろうと思うのであります。
そういうような点が、やはり問題だと思うのであります。
だんだんと仕事が増えてまいり、
その範囲が広がってまいりますと、なかなかみんなが、
いま申しあげましたような理想の過程に向かって修業していくということは、むずかしいのであります。
しかしそのむずかしいことに、お互いの努力によって成功しなければならないと思うのであります。