・前書き
ドップラー効果を表す一般式は次の形をしています。
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) ・・・(1)式(注1)
さてこの式をみますれば
Vr=0、Vs≠0で通説の式(=光源が相対速度Vsで動く場合の式)
ν’=ν*sqrt(1-V^2)/(1-V*Cos(Θ1)) ・・・(2)式に
そうしてまた
Vr≠0、Vs=0でアインシュタインの式(=観測者が相対速度Vrで動く場合の式)
ν’=ν*(1-V*Cos(Θ2))/sqrt(1-V^2) ・・・(3)式になるのでした。
そうしてこの2つの式((2)式と(3)式)はΘ1=π、Θ2=0では光源と観測者が近づく方向に動く場合であって、その場合はこの2つの式は縦ドップラーを表すのでした。
くわえてその時にはこの2つの式は最終的には同じ一つの式
ν’=ν*sqrt(1+V)/sqrt(1-V) ・・・(4)式
となる事は「その2-5」で確認した事でもあります。
-------------------------------------
さてそれで次にはVr≠0、Vs≠0の場合、つまりは「光源と観測者の両方が動く場合」を確認しました。
ただしここで相対速度Vについては
V=(b+a)/(1+b*a)
が成立しているものとします。
さらにΘ1=π、Θ2=0の場合を考えます。
つまり「光源と観測者がお互いに近づく方向」です。
そうすると(1)式は
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2)
=f0*(1+a)/(1-b)*sqrt(1-b^2)/sqrt(1-a^2)
=f0*sqrt(1+a)/sqrt(1-b)*sqrt(1+b)/sqrt(1-a)
となります。
それを整理していきますと最終的には
sqrt(1+a)/sqrt(1-b)*sqrt(1+b)/sqrt(1-a)=sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
となります。
さてこれもまた光源と観測者がお互いに近づく場合の縦ドップラーの式、(4)式そのもになっているのでした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・本論
1、さてそれで今回もVr≠0、Vs≠0の場合、つまりは「光源と観測者の両方が動く場合」です。
但し今回はVr=Vs の場合を確認して見ます。
それでここではVr=a、Vs=bと置き換えて、従って相対速度Vについては
V=(b+a)/(1+b*a)
が成立しているものとします。
さらにΘ1=π、Θ2=0の場合を考えます。
つまり「光源と観測者がお互いに近づく方向」です。
そうすると(1)式は
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2)
=f0*(1+a)/(1-b)*sqrt(1-b^2)/sqrt(1-a^2)
となります。
ここでa=bの時を考えます。
この時は(1)式の時間遅れを表す項sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2)は
sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2)
=sqrt(1-a^2)/sqrt(1-a^2)
=1
となります。
つまりは「光源と観測者の時間遅れの状況が同じ」である為に「相対論的な時間遅れの影響がなくなる」のです。
さてそれで次は残りの項(1+a)/(1-b)について考えます。a=bより
(1+a)/(1-b)
=(1+a)/(1-a) ・・・(5)式
です。それで相対論的な速度の加算式より相対速度Vは
V=(b+a)/(1+b*a)
=2a/(1+a^2)
となっています。
これをaについて解きます。
V*(1+a^2)=2a
V+V*a^2-2a=0
2次方程式の根ですから解は
a=(1-sqrt(1-V^2))/V と a=(1+sqrt(1-V^2))/V の2つです。
但しここで 1>a≧0 、1>V≧0 の縛りがあります。
a=(1-sqrt(1-V^2))/V の挙動を調べます。
ウルフラムを呼んで
https://ja.wolframalpha.com/input?i=%281-sqrt%281-V%5E2%29%29%2FV
表示されているグラフより
1>V≧0 の時に 1>a≧0 である事が分かります。
他方で
a=(1+sqrt(1-V^2))/V の場合は
https://ja.wolframalpha.com/input?i=%281%2Bsqrt%281-V%5E2%29%29%2FV
となり、
1>V≧0 の時に a≧1 である事が分かります。
そうであれば a=(1+sqrt(1-V^2))/V は解としては却下されます。
こうしてaの解は
a=(1-sqrt(1-V^2))/V
を選ぶことになります。
さてそれでこの解を(5)式に代入します。
(1+a)/(1-a)
=(1+(1-sqrt(1-V^2))/V)/(1-(1-sqrt(1-V^2))/V)
ウルフラムを呼んで
「別の形」の最初に答えが出ています。これを整理します。
(1+V)/sqrt(1-V^2)
=sqrt(1+V)*sqrt(1+V)/(sqrt(1-V)*sqrt(1+V))
=sqrt(1+V)/sqrt(1-V)
はい、これは光源と観測者が相対速度Vで近づく場合の縦ドップラーの式になっています。
まあこの結果は実はすでに「その2-11」で一般的な解として求められていたものでした。
それをここでもう一度再確認した理由は「Vr=Vs」の時には上記で示した様にドップラー効果を表す一般式である(1)式の中で「相対論的な時間遅れを示す項の影響がなくなる」からです。
にもかかわらず続けてその時の状況を調べてみますと「光源と観測者が相対速度Vで近づく場合の縦ドップラーの式がそれまでと同じ様に出てくる」のです。
さてこれはとても奇妙な事、あるいは巧妙な事であります。
そうしてそのカラクリはどうやら「相対論的な速度の加法則にある」様です。
つまりは(1)式で表されているドップラー効果を表す一般式は見かけ上は
古典的なドップラー効果を表す項*相対論的な時間遅れを表す項
という2つの項の積になっています。
しかしながらそこには「その2つの項で使われている固有速度VrとVsによって相対論的な速度の加法則から相対速度Vが計算される」という情報が隠れているのです。
そうしてその縛りがあるために「Vr=Vs」の時には上記で示した様にドップラー効果を表す一般式である(1)式で「相対論的な時間遅れの項の影響がなくなる」のにもかかわらず相変わらず同じ縦ドップラーの式が出てくるのです。
さてそうしますと(1)式で表されているドップラー効果を表す一般式は実は
・古典的なドップラー効果を表す項
・相対論的な時間遅れを表す項
・相対論的な速度の加法則
という3つのルールから成り立っている事になります。(注2)
そうして注意すべきことはこの時に
・相対論的な時間遅れを表す項
・相対論的な速度の加法則
の2つはローレンツ変換からの帰結として出てきているという事であります。
それゆえに「どこに客観的に存在する静止系があった」としても、その事に無関係に「光源と観測者との間の相対速度Vで縦ドップラーの値は計算できる」という事になっている様におもわれます。
注1:ドップラー効果を表す一般式
f1=f0*(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2))*sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) ・・・(1)式
ここでVrは静止系に対する観測者の相対速度(=固有速度)、Vsは静止系に対する光源の相対速度(=固有速度)を示します。
但しVr、Vsの方向はお互いが近づく方向をプラスに取ります。
f1は観測される周波数、f0は光源の周波数です。
角度についてはこれまでと同様の取り方になります。
Θ1=π、Θ2=0がお互いが近づく方向、Θ1=0、Θ2=πがお互いが離れる方向です。
但しこの時 Θ2=abs(Θ1-π) の関係が成立しています。それで
(1-Vr*cos(Θ1))/(1-Vs*cos(Θ2)) の項が古典的なドップラー効果を表す部分で
sqrt(1-Vs^2)/sqrt(1-Vr^2) の項が相対論的な効果(=時間遅れの効果)を表します。
注2:「・古典的なドップラー効果を表す項」というのは具体的には「音のドップラー係数を算出する式」です。
そうであれば「この奇妙な音と光の関係」に最初は戸惑うのです。
しかしながらそこには「・相対論的な速度の加法則」が陰に隠れているので、表面上は「音のドップラー係数を算出する式」の形をしていますが「これは別物」なのです。
そうしてそのあたりのことは次のページで検討する事と致します。