特殊相対論、ホーキング放射、ダークマター、ブラックホールなど

・時間について特殊相対論からの考察
・プランクスケールの原始ブラックホールがダークマターの正体であるという主張
 

9-6・ミュオン異常磁気モーメント測定

2024-03-08 00:10:26 | 日記

もともとミュー粒子についてのこの話は「QEDによる計算値と実測値の間に有意な差がありそうだ」という所から始まっている様です。

そうして物理学の現状といえば「ダークマターの正体と予想されている新たな素粒子がまだ見つかっていない」と言うものがあります。

そうしてQEDの計算が教える所によれば「ミュー粒子の異常磁気モーメントの原因は多様な仮想粒子の影響である」という事になります。

で、QEDの計算、それは近似計算の積み重ねになっているのですが、その計算精度を相当にあげても実測値とのギャップがうまらない、そうして「実験値が正しい」とするならば「QED計算が間違っている」という事になります。

 

但しその時に物理屋さん達は「QED計算のやり方には相当な自信を持っている」のです。

しかしながらそのQED計算の元になっている素粒子についての標準模型、あるいは「素粒子一覧表」に含まれていない未知の素粒子があってその素粒子のミュー粒子に対する相互作用があったとすると実験値と理論計算値との間にあるギャップをうめられる、そういう状況になっています。

つまりは「計算の仕方はよろしい」のだが「計算の元になっている素粒子が足りない」と主張しているのです。

でその足りない素粒子はもちろん「今まで知られてはいない、素粒子一覧表に含まれていない未知の素粒子」であって、またそれが「ダークマターを構成している素粒子の可能性がある」とその様に見ているのです。(注1

さてもちろん「その読みが当たっていればホームラン」ですね。

「ダークマター問題の正体に迫るもの」となります。

そうであれば「バットはフルスイングしなくてはいけない」のです。

 

さて、少々話がそれた様です。

それで問題のQED計算ですが「何をやっているのか」簡単に見ておきます。(注2

参照資料は「レプトンの異常磁気能率 ーその物理が目指すものー」: https://slidesplayer.net/slide/11232933/#google_vignette :

・電子の場合

12Pに説明があって計算はほとんどQEDによる近似計算、仮想光子による計算だけでOK。

ae=QED(光子)+質量依存項+ハドロン+電弱(弱い力)

で、QED(光子)だけでほぼOKであって現在は10次までの計算が終了している。

 

そうして電子による「新しい物理の確認を目指す」為には・・・

高次の理論計算の発展と測定技術の進歩により一致の精度は向上し続け,これまで 10^−13 という精度での標準模型の検証として良く機能してきた。・・・

近年では Remiddi,木下,Laporta,仁尾,青山らの貢献により,計算自体の相対精度は 10^−14 に達している。・・・

現在では電子 g 因子の予測に関しては,理論計算の不定性より微細構造定数の不定性が大きく,およそ 10^−13 程度である。注3

しかしながらミュー粒子で見られている「新しい物理の確認を電子で目指す」のであれば

現在の電子 g 因子の測定精度のわずか 5 倍の向上(と微細構造定数の 2 倍の精度向上)により確認できるはずなのだ。この意味で,電子 g因子の測定はミューオン g 因子のズレの独立な検証となりうる。注3)という事になっています。

そうであれば当然「電子の異常磁気能率探索チーム」はそれに向かう事になります。

 

・ミュー粒子の場合

同上資料22Pに説明があります。

aμ=QED(光子)+ハドロン+電弱(弱い力)

QED(光子)と電弱(弱い力)についてはほぼ問題がないところまできた。

だがハドロン項がまだ誤差が大きいのです。

・・・という訳で「KEK」が開いた記者会見をレビューします。

『記者サロンを開催しました 「ミューオンg-2実験の最新結果を徹底解説」』: https://ipnsweb.kek.jp/wordpress/ja/news/4937/ : https://archive.md/MmDX0 :2023年9月3日

また、ミューオンg-2の理論予言の改善については、まずミューオンg-2と近年の新しい研究の関係から説明しました。標準理論は電子陽電子衝突からハドロンを生成する実験の結果をもとに計算しています。(図中②)

しかし、近年の新しい研究との比較では、一部のスーパーコンピューターによる計算(図中③)とは合わないという結果が出されました。

これはロシア・ノボシビルスクのブドカー原子核物理学研究所が発表した新しい実験CMD-3に基づく理論予言(未出版)(図中④)とも一致しています。

従来の理論予想と新たに打ち出された理論予想とどちらの値が正しいかBelle II実験で測定し検証していきます。

図については参照記事の「ミューオンg-2の理論予言」箇所にてご確認願います。

ハドロン項はそのような状況ですが

Q:理論計算にズレが見えているハドロン効果の計算では、Theory Initiativeのホワイトペーパー(注4)とスーパーコンピューターによる別の手法による計算の値が食い違った。2025年までにハドロン効果含めて理論値の統一見解を整えていくことになるのか?

A:ホワイトペーパーには考え得る全ての効果は含まれています。格子QCD、スーパーコンピューターを用いた手法は、これをさらに検証しようという趣旨で始まったことですが、最初に出てきた結果は理論予想とはずれたところに値が現れました。他のチームが同じところに計算結果を出すのか、ホワイトペーパーに近い結果を出すのか注目されており、2025年には決着がついていると予想しています。Belle II実験でも、2024から2025年の間に、従来の理論予想と新しい結果のどちらが正しいか言えると考えています。(三部)

という事で、2025年にはハドロン項についても一応の決着が見えそうです。

そうなりますと次は「フェルミ研での追試が正しい測定になっていたのか?」という事になります。

つまりは「実測値を基準として考えているのだがその実験の方は正しくやれているのか?」という話になるのです。(注5

 

注1:その状況は日本語では「とらぬタヌキの皮算用」といいます。

まあしかしながら「物理の進歩はそうした『とらぬタヌキの皮算用』で行われてきた」のであれば「そのような見方を否定する事はできません」。

そうしてまた「実験も計算も相当の苦労の末にお互いが持つ誤差を抑えてきて、そうしてようやく『差分σが5σに達しそうだ』という状況」であれば「そのような希望的な観測をする」というのも気持ちとしてはよく分かる所であります。

ましてや「その読みが当たっていた」とするならばもちろん「ノーベル賞もの」でありますからね。

おおいにモチベーションは上がる、と言うものです。

注2:QED計算の中身に立ち入ると「まるでそこはラビリンスの様」あるいは「ダンジョンの様」ですので相当な勇気が必要になります。

したがって「QEDは外側からそっと見るだけにしておく」のが当面は安全と言うものです。

「量子電磁力学はコアで腐っている」: https://takaakifukatsu.hatenablog.jp/entry/2023/03/31/082031 : https://archive.md/oHGQo :

注3:「電子g 因子の“anomaly”」: https://www.jahep.org/hepnews/2021/40-3-3-g.pdf :からの引用。

注4:ホワイトペーパー(白書):「標準模型におけるミュオンの異常磁気モーメント」: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0370157320302556#sec0 :

『・・・このイニシアチブの活動は、理論家、実験家、フェルミ研究所と J-PARC ミュオンの代表者で構成される運営委員会によって調整されています。g-2実験。この委員会は、主催するワークショップの諮問委員会としても機能します。

・・・結論・・・

aμ(SM:標準模型)=QED+EW+HVP, LO+HVP, NLO+HVP, NNLO+HLbL+HLbL, NLO

=116 591 810(43)×10^−11.
This value is mainly based on Refs. [2], [3], [4], [5], [6], [7], [8], [18], [19], [20], [21], [22], [23], [24], [31], [32], [33], [34], [35], [36], which should be cited in any work that uses or quotes Eq. (8.12). It differs from the Brookhaven measurement [1]
(8.13)

aμ(exp:実験)=116 592 089(63)×10^−11,
where the central value is adjusted to the latest value of 
λ=μμ∕μp=3.183345142(71) [775], by(8.14)


Δaμ≔aμ(exp)−aμ(SM)=279(76)×10^−11,
corresponding to a 3.7σ  discrepancy. 』

ちなみに「ホワイトペーパー」については『標準模型に基づく理論予測は,132 人もの研究者(実験・理論含む)が共同で発表した』との事。

注5:以上のような話をまんがイラストでまとめるとーー>「ミュオンg –2 異常の説明」: https://physics.aps.org/articles/v14/47 : https://archive.md/y1kwD :な風になります。

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PS:相対論・ダークマターの事など 記事一覧

https://archive.md/BNCKt